思いの先にです4
私の姿を見て笑う囚人達、そんな中で表情を曇らせたのはクローム=セリだったわ。
「ミルシュッ! 貴様、いや……アハハハ、お前達よく聞け、アイツはベジルフレアから我らのバトラング王国へとやって来た敵だ! 国王シュビナですら手に余るとサジを投げた存在だ……お前達はどうするッ! 人間相手に逃げるか、戦うか、さあ、戦うならば声をあげよ!」
「「「ウオォォォォッアァァァ!」」」
「「「オオオオオゥゥゥゥゥッ!」」」
クローム=セリの掛け声は囚人達を戦士に変えたの、流石、元指揮官ね。洗脳魔法と話術の組み合わせは最悪だわ。
でも、何でかしら、負ける気は微塵も感じない。
敵は百数十人で丘の下にもまだまだ集まってるのに、負けるビジョンが見えないわ。
身構える私、そんな私に『カミル、デンキチ戦う!』と肩から声がしたの。
『ありがとう、でも通路の制御石のせいで外から召喚が出来ないの、ビルクを呼べないから、無理よ』
『水魔法! デンキチ水あれば戦える!』
私はデンキチの言葉が凄く嬉しかったわ。普段なら1人でも戦うけど、デンキチはいつも私を心配してくれる。本当に優しすぎるわ。
『なら、頼むわ。無理はしないでね』
デンキチとの会話を終わらせると私は笑っていた、此から囚人達と戦うと言うのに自分でも変だと本当に思うわ。
「待たせたわね、クローム=セリ。アンタ達がヤル気なのは理解したわ」
『デンキチ、いくわよ! しっかり体を潤しなさい!』
私は天に片腕を大きく伸ばし、巨大な水の塊を作り出す、クローム=セリと囚人達の動きが止まった瞬間、デンキチが水の塊へと飛び込んでいく。
水の塊を全身に吸収すると同時に水の塊が弾け、通常サイズに戻ったデンキチが姿を現す、バイキングよりも巨大なデンキチを前に囚人達が困惑しているのがわかる。
囚人達の手に武器らしい武器はない、木製の鍬、小さな手斧、数で圧倒しようと考える囚人達。
それも丘の一本道の上を取っている事で簡単にはいかない事を理解しているみたい。
そんな中、私とデンキチは先手を取らせて貰うことにした。
『デンキチ、3秒数えなさい! 突っ込むわよ!』
『ヌガァァァァッ!』
デンキチが雄叫びを上げると注意がデンキチに向けられる、ナイスよデンキチ。
「さあ食らいなさい! 丸太の大群ッ!」
空間魔法の中にしまっていた建築用の加工前の大量の丸太が坂を勢いよく転げ落ちていく。
必死に押さえる囚人達、更に丸太の大量に転がすと前方の囚人達がバランスを崩す。
囚人達が丸太に押し流され道が出来た瞬間、丘の上に防壁魔法を何重にも展開し、私とデンキチは走り出していた。
相手が対応出来ない間に距離を詰めるとデンキチと私は背中合わせに敵の中心に陣取る。
目の前のバイキングを相手にどれ程、戦ったか分からないわ。
ただ、軍隊のバイキングより、遥かに強い……流石囚人と言うべきね。
私もデンキチも普段の実力を出せない状況での戦いに若干押され始めた時だったわ。
天井部分が吹き飛び、光の柱が姿を現したの。
「な、なによ!」
慌ててクローム=セリの方を見る、しかし、クローム=セリも驚きを露にしてる。
その場に居た全ての者が視線を奪われる最中、姿を現したのはディーラと森長達だったわ。
ディーラの凄まじい存在感は囚人達の心を簡単に捩じ伏せたの……
ディーラの背後には幻獣【ディマ】を筆頭に赤猿の【ヒエン】土熊の【シオン】水蛇の【スウジャ】猛虎の【ディディ】の姿があり、天井から下を覗くように魔獣の群れが待機していたわ。
〔よく会うな、小さき人の子よ。此度は長老衆、ミズチを救ってくれた事、誠に感謝する〕
状況が理解できない中、ディーラは一声、雄叫びを上げる。
その声を前に立っていられたのはディーラ側を除けば、私とデンキチのみだったわ。
囚人達は意識を失い気絶したの。
〔小さき人の子よ。神に感謝せよ。アラナラムルが我をこの場に向かわせた。本来ならば長老衆への反抗は神への宣戦布告となるが……罪は許せとの事だ〕
アララがディーラを向かわせたの? てか、どういう事よ……話が見えないわ。
騒ぎが終決しようとした時、ディーラが表情を強ばらせたの。
〔力の暴走か……長きに渡る苦しみが解放され自我を失ったか……愚かな〕
ディーラの視線の先にはシュビナの姿があり、その目はまるで獣のように感じたわ。