強者と狂者です4
魔獣と人間の両方に直接語りかけるディーラ。
その姿は巨大とは言いがたいけど、大きめの鹿と言うべきかしら? 立派な角があり、全身が真っ白い毛に覆われてるわ、ただ一言で言うなら、本能が“戦いを避けるべき”と言っているように感じるくらい存在感を放っているわ。
「猫の次は鹿か、本当に多種多様の魔獣が生きとるのぉ?」
じい様の言葉に森長達が体をピクリと動かし反応する。
〔良いのです。私もまた、獣の姿である。その者の言葉は間違っていない〕
まるで広がりだした波紋を止めるような不思議な空気が辺りに立ち込めたわ。
〔人の子達、此度のシェシェの事に関しては、謝罪しよう。しかし、勘違いから森に入ってきたのは、そちらだと言う事を忘れないで欲しい。森の中では命の価値は平等であり、食われる者と食う者が日々生きる為に戦う世界であるのだから〕
意味がわからない、いや、言いたいことは理解してるのよ? ただ、“勘違いから”ってフレーズが引っ掛かるの。
「ねぇ、ディーラさん。私達が勘違いからってどう言う事なの!」
〔簡単な事、魔獣の森の民は誰一人として、森を出ていない。更に言うなれば、バイキングの血をまとい森に戻れば誰もが気づく。バイキングの血を浴びたなら、川で流そうと血の臭いを誤魔化す事は出来ぬ、シェシェに関しては隠すなどと言う事をするわけがないのだから〕
ディーラ私の肩でデンキチが呟いたの。
『カミル? なら、村を襲った魔獣はいない?』
一番の問題点ね……ディーラの話が本当だとして、なら……犯人は誰なのよ?
そんな事を考えていると私の肩をじい様が指で“トントン”と叩いたの……嫌な予感しかしない1日で本当の危機感を覚えた瞬間だったわ。
悪魔の微笑みを浮かべる“じい様”が真顔になると私に対して大声をあげたの。
「この……バカ弟子がッ! シシリから聞いたぞ! 禁文書の解読などを約束する等、何を考えとる!」
じい様が怒ってる理由が分かり、冷や汗を流す私にラッペンお爺ちゃんが助け船を出してくれたの。
「まあまあ、そう怒らんでも、それに才能を使わなければ宝の持ち腐れになるだろう」
ラッペンお爺ちゃんの言葉にじい様が更に顔を真っ赤にして怒り出したの。
「何が才能だ! 本来、禁書とは解読しては為らぬから禁書なんじゃ! 単なる好奇心が世界を危険に晒すんじゃぞ、ラッペンよ。どんなに孫が可愛かろうが甘やかすな!」
「それは聞き捨てならんぞ、まるで儂がカミルに甘いような口ぶりじゃないか」
睨み合いをする二人、火に油の会話だわ……
しかも、じい様の元にレイトとマイヤが訪ねて私が居なくなって寂しいと漏らす日々が続いていたみたいなの、そんな時にシシリが禁文書の解読の話をうっかり、じい様にしてしまったから、じい様が大爆発しちゃったのね。
〔ふふふ、なんと可笑しな話か、実に愛されているな、小さき人の子よ。今回は互いの友好を願い話を終わらせたいのだか、そちらの返答を聞かせて貰えぬか?〕
願ってもない言葉にじい様達を忘れて私は即答でその申し入れを受け入れたわ。
因みに条件が幾つかあったの、先ずはシェシェの解放ね。じい様も「別に腹は空いてない」と快く応じてくれたわ。
次にバイキングの森への立ち入りについて、バイキングの王であるシュビナに〔立ち入るならば、食われる覚悟を持つように伝えよ〕と伝言を預かったわ。少し揉めそうだけど、私も同じ意見だわね。
最後に真犯人を捕まえ、その際には報告する事と言われたわ。正直、目の前に連れてこいと言われるんじゃないかとヒヤヒヤしたわ。
全ての条件を受け入れ私達は魔獣の森を後にしたわ。
出口まではディマに案内された際に『今日の夜は満月だ。月夜でなくて良かったな』と言われたの、ディーラは本来、月夜に真の力を発揮すると言われたわ。本当にまだまだ、知らない強者がいっぱいだわ。
森の出口まで着いた時、サトウの作る料理の香りと涙目のメルリを見て、本当に良かったと胸を撫で下ろしたわ。
じい様も私を叱り飛ばし、満足したみたいね、あとは真犯人を捜さないとね。
でも、その前にご飯ね。ホッとしたらお腹が空きすぎて大変だわ。