蜂蜜が美味しすぎるんですが?
普通なら森のボスには近付かないんだけど。私はこの2年で精一杯、本を読みまくり本気の筋トレと魔法をひたすらにこなして来た。
今の私は余りある力もコントロール出来るようになったし、何より私だけじゃなく私達が成長してる。今の森で私達と戦えるのはスタンプモームくらいしかいないわ。
私達が泉に到着すると森のボスは私達を待っていたと言わんばかりにその姿を泉の中から現した。
全身から水滴が滴るその巨体を激しく震わせて弾き飛ばすと私達は大雨を浴びた化のようにびしょ濡れにされた。
「う~、ちょっと……冷たいから! いきなり水掛るとか風邪引いちゃうじゃないのよ!」
『あれれ、ソイツは悪かった。水浴びをしてたら。強い力を感じたんで急いで上がったんだが? 御前さん等、足が速いんだなぁ?』
デンキチと同じくらいマイペースなスタンプモームに私は寧ろ驚いた。私が聞いてた話と大分印象が違う。
スタンプモームと呼ぶのは長いからモームと呼ぼう! 親しみやすいし。
「ねぇ、モーム? いきなりなんだけどさ、私の使い魔にならない?」
私は単刀直入にモームに聞いてみた。駄目だったら、まぁ仕方無い。取り合えず話が出来る子とは話をするようにしてる。
『使い魔に? 初めて言われたなぁ。だが、森を離れる訳にはいかないからなぁ』
「出来ればなんだけど、それに今のまま森を守護しながらで構わないし、どうかな?」
私とモームが話をしているとデンキチが蜂蜜を取りだしモームに渡した。
『美味しいよ。デンキチは木の実ごと食べるの好きだよ』
悩んでいたのが馬鹿らしく為るほどストレートなデンキチの行動に私もニッコリ笑っていた。
「そうね。取り合えず皆で蜂蜜を食べよっかぁ!」
ポケットから折り畳み式のナイフを取りだし木の実の先端を切り落とす。
中からは濃厚な蜂蜜が果汁と混ざり合って、只でさえ美味しかった蜂蜜が更なる進化を遂げていた。
「う~ん! 何これ半年の間に最高に美味しくなってるじゃない!」
そんな私の横で木の実を丸ごと噛じるデンキチ達。その顔は凄く幸せそうなんだよね?
「ちょっとどころか、かなり興味あるわね。よし、私もやってみよ!」
木の実の皮は硬いので上手く真っ二つにしてっと。
蜂蜜に漬け込まれた果実の部分を指で摘まもうとすると、“ふにゃり”と指では掴めないほど、柔らかくなっていた。指に付いた果汁を舐めた瞬間、私の頭から爪先まで電流が走ったような衝撃が突き抜けた。
「…………何よ……これ美味しすぎでしょ!」
両手で木の実を持ち頬張ると更に幸せが私の口から身体全体に広がるような感覚……ヤバいなぁ。生きててよかった。
「は! いけない、忘れるところだった……モーム、貴方にこの蜂蜜を守るのを手伝って欲しいのよ!」
『構わないよ。確かに守らないといけないくらい美味しい』
「いいの?」
私の問に笑いながら再度頷いたモームは私の使い魔になった。名前はやはりモーム。
これで準備は整った。私は来月には王都に足を運ばなければ為らない。
理由はあの森であった騎士……ルフレからの手紙だ。
私はスッカリ忘れていたんだけど……一月前にいきなり王都から手紙が届いた。内容は迷惑極まりないものよ。
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『御無沙汰しております。ミルシュ=カミル殿。此度は7歳の祝いと王都にて召喚士試験があり、御一報を送らせて頂きました。是非とも試験をお受けして頂きたいと考えております。それでは王都ライパンで御待ちしております。トリム=ルフレ』
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迷惑メールクラスの御気遣いありがとうございます、迷惑だわ……
私は無視しようとしたが手紙の送り主の名前を見た途端、パパとママが慌てて荷物をまとめる姿に私の選択権が存在しないことを悟った。
結局、タウリも最初は乗り気じゃなかった王都の騎士養成学校に入学する事になった。
私の誕生日まであと一月をきっている。召喚の儀を終わらせたら、いよいよ王都ライパンに出発する。
子供なのに誕生日が嫌な日がくるなんて……もう絶対に赦さないんだからルフレの奴!