夜を駆け抜ける者達です2
マドラッドの超大型飛行要塞と呼ばれる生物。
空飛ぶ巨大要塞アザラシ……【ビッグアザー】
初めに姿を見た時はネタかと思ったわ。
白いモフモフの毛に可愛い瞳、昔テレビで見たことのある、アザラシちゃんが滅茶苦茶“デカイ”んだもの……
「ペ、ペンネ? なんなのよ! この可愛い生物」
私の声にペンネは不思議そうに首を傾げる。
「じゃから、巨大要塞アザラシのビッグアザーじゃ! さっきも紹介したじゃろう?」
いや、アザラシってそんな物騒な生き物じゃない筈よ……
そんな私の心の叫びは届く筈もなく、要塞アザラシの背中に取り付けられた巨大な巻き貝の中に次々と入っていくマドラッドの戦士達。
巻き貝の中は綺麗に作り替えられており、本当に要塞の中にいるような気分になったわ。
巻き貝の至る所に窓が有り、ガラスとは違う、不思議な透明の板のような素材が使われていたわ。
「なんなのこれ? キラキラしてるし、でも、ガラスとは違うわね?」
私は【鑑定の瞳】を使い調べるとそれは魚の魔物の鱗だとわかったわ。
しかも、かなりの巨大サイズで出くわしたら船ごと飲み込んでしまいそうな魚だとわかったわ。
「カミル、そんなに【ダイヤモンドフィッシュ】の鱗が珍しいのか? 欲しければ妾がプレゼントしてやるが?」
「ううん、大丈夫なんだけど、ダイヤモンドフィッシュってどんな魔物なのよ?」
知らない魔物の数々に驚きを隠せない私。
未だに麟鳳亀竜のバリカが世界を旅して色んな話を書ける理由が分かる気がするわ。
そして要塞アザラシが海底に向かって飛び込んでいく。
巻き貝の中は柔らかいクッションのような素材で一瞬で包まれ、私は更に驚かされる事になったわ。
巻き貝は本来、捕らえた獲物を逃がさないようにする為に内部に綿を作り出すとペンネに言われたわ。
要塞アザラシは【ビッグアザー】と【バブルシェル】の2体が共存してる姿に他ならないらしいわ。
なので乗り込む前にはバブルシェルの胃袋を満腹にする必要があるみたい。
そんなビックリ魔物の要塞アザラシが海水の中から一気に海面を目指し浮上する。
浮上する際に私は要塞アザラシの全身にキラキラと光る糸が見えたの。
そして、浮上した瞬間、巨大な要塞アザラシが風に乗り上昇していく。
私が見たキラキラ光る糸の正体を聞いて驚いたわ。
キラキラした糸の正体は要塞アザラシの脂肪だったの。
体内の脂肪を海水に流し込み、体重を軽くして空に飛び上がり、体に脂肪の膜を作り風に乗る。
脂肪といいながらも海藻を食料とする要塞アザラシは脂っけがない、つまり、脂と言いながら海水の粘りけで膜を作る感じね?
考えると不気味だけど、要塞から見える要塞アザラシの体はキラキラと輝きまるで宝石が空を飛んでいるようだったわ。
風に完全に乗ると要塞アザラシは順調にレナクル王国を目指し進んでいく。
私達は不思議な感覚に揺られながら、下に広がる海を見つめる。
夜だと言うのに海面を警戒するように周回する炎の揺らめきを見つけた私達はレナクルの周りが多くの敵船に囲まれている事実を知る。
深刻な表情を浮かべる私にペンネとメルリが微笑みかけてきたの。
「カミルよ? 何を考え込んでおる。敵を目の前に悩むは死期の訪れを招き入れる事になる。簡単に言えば、戦う覚悟を決めねば怪我ではすまなくなるぞ!」
「言い過ぎです! と、言いたいですが……今回はペンネに私も賛成です。お嬢様、今回の敵は未知の存在です、どうか油断を為さらないでください」
心配を口にする二人に私は満面のエンジェルスマイルを浮かべる。
「大丈夫よ。色々あったけど、やるべき事をやるまでよ! それに私が話し合いをしようと考えたのにぶち壊しにした連中に情けなんてかけないわ」
私達がそんな話をしていると突然、要塞アザラシが攻撃をうけたの。
投石機を積んだ数隻の大型船が真下に見え、次々に石の塊を打ち出してきたの。
やってくれるわね! でも、お陰で迷いは完全に吹き飛んだわ。