船旅です3
男は不利な状況に顔をしかめていたわ。
敵から見れば、私達3人だけと言えるけど、3対1で私達は魔法を使える。
私達の中で一番下に位置するメルリですら下手な魔導師より強い事を踏まえれば、海賊の一人を捕らえるのは余裕ね。
互いに睨み合う最中、男は巨大な剣を床に置く。
「ハアァァァッ!」と気合いを入れる男。
短剣を握ると姿勢を低く屈め、一気に私に向かって襲い掛かってきたの。
海賊にしておくのが勿体無いわね?
軽く蹴散らそうと考えていた私も大きく踏み出し男に向かっていく、そんな私に男は不敵に笑みを浮かべる。
私の蹴りが命中する寸前。
「悪いな、お嬢ちゃん。少し寝てて貰うぞ! ギルグ!」
『はいな! 空気よりも重く、大地よりも重く、全ての重力は我が支配下なり!』
男の後ろから突如顔を覗かせたオウムが喋り出したかと思うと、私の体は今まで感じた事が無いくらいに重たくなっていったの。
「こんな……重力なんかに、負けないんだからッ!」
私が無理矢理立ち上がろうとすると、突如、ビルクがオウムに襲い掛かった。
『手間掛けさせんな! ギルグ! テメェの弱点はわかってんだよ!』
猫の姿のビルクがオウムの姿のギルグに馬乗りになり、鋭い爪をチラつかせる。
素早い動きでギルグを黙らせるビルク。
そして、私と男の戦いも決着に近づいていたわ。蹴りを腹部に食らった男は悶え苦しんでいたわ。
「うぅぅぅぅッ! あり得ねぇだろ、ガキの蹴りじゃないぞ、ハア、ハア」
私の蹴りはギリギリで当たったけど、浅かったらしいわね?
「あんたタフね? 普通なら気絶ものよ。どれだけ鍛えたら、そんな体になるのよ?」
不思議と興味が湧く感覚に私は更に強い力で攻撃したいと言う欲望に身を震わせたわ。
男は私の方を向き立ち上がる。
互いに構えを取り、次の一撃に備えた瞬間、静かに男の後ろの扉が開く。
瞬きも出来ない程の一瞬の出来事だったわ。
突如、扉から姿を現した銀色の髪の3人の美女に囲まれる男。
そして、“ゴンッ!” と鈍い音がなり、男の頭に叩きつけられたフライパン。
唖然とする私に向かって美女達の一人が一歩前に出てきたの。
「えっと……本当に申し訳御座いません。 ウチのバカが御迷惑を御掛けしました。此度は此方の敗北を認め、投降致しますので、命だけは保証していただけないでしょうか?」
凛とした立ち振舞い、全てを許したくなるような美しい容姿と堂々とした口調で私達に頭を下げる美女。
「あのさ、取り敢えず自己紹介しない?」
そう、切り出す私に対して美女の後ろから二人の美女が前に出てくる。
一人は、身長が高く、スラッとしたスタイルに切れ目が印象的で、手には薙刀のような武器を握り、長いスカートは股まで開いた大胆な物を身に付けているわ。
正直、危ない御姉様タイプに見えるわね。
二人目は、男を殴った張本人ね、腰には、大きめの包丁、お玉、二丁のヘラ、菜箸、肉叩き等、私の見慣れた調理用品がぶら下げられ、背中には何故か中華鍋のような鍋を背負っているわね? 見た目は銀色の御団子髪にパッチリとした綺麗な目、美女と言うより美少女に近い印象かしら?
「前に出てしまい申し訳ありません! ですが身分を証すことは赦しかねます!」
薙刀を手にそう語る切れ目美女。
「そうねぇ、人に身分を尋ねるなら、自分からが常識ねぇ。此方の身分だけ知られるのはよくないよぉ!」
似非中国人のような喋り方をする御団子美少女。
その言い分にメルリが激怒し前にでる。
「身分が証せないと言うならば、捕まえて尋問するだけです。お嬢様は、お優しいですが私は優しくは致しません」
三人が睨み合う最中、後ろから大声を放つ銀色の髪の美女。
「やめなさい! 恥ずかしくないのですか! 私達は身分を証す事で新たな道が見えるやも知れないのですよ」
二人が一喝されると、メルリ仕方無いと言いたそうな顔をしながらも、黙って私の後ろに身を引く。
「侍女が失礼を致しました。私はレナクル王国の現女王、サンデアと申します。薙刀を手にしているのが侍女のシャムス、もう一人が、料理人兼、侍女のタリヤンです。そして其所に倒れているのが、キャプテンのソルティです」
簡単な自己紹介を済ませるとサンデアは私に頭を下げる。
「私はベジルフレア王国のミルシュ=カミルよ。此方がメルリとアララよ」
互いの素性を証す中でわかったのは私の知らない国、レナクル王国の存在と何故か海賊船にのる王女のサンデアと二人の侍女、シャムスとタリヤン、海賊船のキャプテン、ソルティの名前だったわ。
勢いの宝探しの筈が何だか変な方向に向かっているわね……取り敢えずマドラッドに急がないと。