本気で止められるんです1
朝になり、大きく伸びをする私、厨房からは朝食の用意が進んでいるのか、卵と燻製肉の焼ける香ばしい匂いが私の部屋にまで届いてくる。
メルリが来る前に着替えを済ますと、私は顔を洗い、小腹の空いた身体を朝食の用意されたテーブルへと運ぶ。
テーブルには既にペンネとアララ、パパとママの4人が紅茶を飲みながら落ち着いた大人の空間を作り出さしていたの。
なんだか入りづらいわね?
などと考えながらも「御早う」と挨拶をして席に着く。
朝食を作るのサトウが厨房から「ごめん、誰か運ぶの手伝って貰えないですか」と口にすると私達は一斉に立ち上がり厨房に向かう。
少し笑える光景だったと思うわ、皆が一斉に厨房に向かい朝食を運んで行く、まるで毎日が合宿のような生活だわ。
朝から笑みに包まれる。そんな中、慌てて降りてくるタウリ、その後ろにはクレレがプチセンチピードに跨がり追い回しているようにみえたわ。
「あ、カミルぅ! タウリ起こしてきたでしよ。中々起きないから、セッチにも手伝って貰ったでしよ」
私にニッコリと明るい笑みを浮かべるクレレ。それとは対称的に寝間着姿のまま息をあらげるタウリ。
何があったかはあえて聞かないわ。
「タウリ? 取り敢えず着替えてきて、朝食を済ませたら皆でライパンに向かうわよ」
朝から賑やかな雰囲気で朝食が進み、いよいよ、パンの祭りの4日目に突入する。
ライパン迄はメルリとペンネ、サトウの3人が馬車でパパとママを護衛しながら送って来てくれる事になったの。
私はデンキチの肩に乗ると一足先にライパンへと向かう。
『カミル? 一緒に行かなくてよかったの?』と心配そうに尋ねるデンキチ。
「いいのよ。私はいつでも会えるし、それに馬車は苦手なのよ」
『出るとこ出てないから……ちゃんと成長したら大丈夫!』
「アンタ……何を言ってるの! その口か、この口がそんな事を言うのね、デンキチ!」
まさかの発言に悩まず、全力で頬っぺたをつねりあげたわ。
『ろめんらさい! ひゅるひへ』
私は今を凄く楽しんでいる。最近は反抗期のデンキチとのこんな日常が凄く好きなの。
デンキチの肩に掴まり読書をすることにも大分なれたわ。
私に気を使うデンキチがなるべく読書を邪魔しないように走ってくるから本当に優しいと思う。
ライパンに辿り着くと街は大勢の人々の活気に溢れ、私達も早速残りの2エリアの1つに足を運んでいったわ。
此処からは真剣に審査員として振る舞わねばならないから頑張らないと。
『カミル、頑張り過ぎないで。無理するのデンキチ心配』と少しだけ心配そうに顔を傾げるデンキチ。
「ありがとうデンキチ。大丈夫だよ。私は今が凄く好きなの、私ね自分が嫌いだったんだよね……変でしょ?」
デンキチは首を傾げると『何で嫌いなの?』と質問をしてきたわ。
「前の私ね、お酒がすごく弱くて、感情を上手く出せなくて、相手に譲るって言いながら、負けるのが怖くて逃げてきたの……そんな私が今は誰かの為に必死で頑張ってるんだよ。少しズルい気がするんだけどね」
『人は成長するから人なんでしょ? ならカミルは人らしくなった。そう言う事、今までが人間じゃ無かっただけの話』
少し引っ掛かるけど、慰めてくれてるんだと思う。
デンキチの存在は本当に私を成長させてくれたと思うわ。
「さて、今日も確りとパンを食べるから影に入って、確りと味見してよ」
『は~い』
デンキチを影に戻すと私はパンの祭りへと向かう。
4日目のエリアにはカッシュの姿があり、既に大行列を作り出していたわ。
そんな時、カッシュのパンを食べた一人の男が声をあげる。
「何だこれッ! 甘くないじゃないか? 今回のパンの祭りは蜂蜜を使うのが規則の筈だ! インチキしやがって!」
他の全ての出場者に聞こえる程の声で怒鳴る男が持っていたパンの中身は真っ赤であり、微かにトマトの香りとスパイシーな香りが混ざりその場にいた全ての人々の食欲を掻き立てるようだったわ。
そんな男に対してカッシュが怒りを露にしながら向かい合う。
「聞き捨てならないな? 誰がインチキか言ってみろ!」とカッシュが怒鳴り声をあげたの。
取っ組み合いになりそうな二人。
「待ちなさい! せっかくの祭りに喧嘩するきなの? もし、喧嘩を始めるなら私が買うわよ!」
私の登場に驚き1歩後ろに下がるカッシュ。
悔しそうに下を向くカッシュとは対称的に私に対して「なんだチビ? 大人をからかうと怪我じゃ済まねぇぞ!」と啖呵を切る男。
「ハァ? アンタ……私が優しく言ってるのに! 後悔するのがどっちか教えてやろうじゃないの!」
私が怒りを露にし、大声をあげた瞬間、後ろから慌てて走ってきたバイル達に全力で止められたの。
「喧嘩と聞いて来てみれば、ヤバイ気迫を放ってる奴がいるかと思ったらお嬢ちゃんかよッ! 何だかわからんが落ち着け、死人を出すきか!」
「離しなさいッ! 口で言ってわからないなら、しょうがないじゃないのよ!」
「わかったから落ち着け! お嬢ちゃんが本気で怒ったらライパンを吹き飛ばしかねないだろ!」
バイルと部下達に止められ何とか停止する私。
余りの迫力に男は腰を抜かしていたわ。
そしてバイルが男とカッシュに喧嘩の発端を質問したの。
男はカッシュが蜂蜜をメインにしていないと言いインチキだと語り、カッシュは「味がわからないなら仕方ない」の一点張りだったわ。
私はカッシュのパンを【鑑定の瞳】で見てみることにしたの。
本当に蜂蜜が入ってないなら失格だし、入っているなら、男に謝罪させないといけないもの。
カッシュのことだから、間違いなく入ってるとは思うけど。
私は怒りを我慢しながら【鑑定の瞳】を発動する。