森で野生モンスターと話すのですが?
私とデンキチ……目立つんだよなぁ。
小さい私の後ろから付いてくる巨大なデンキチの姿……まさに『美女と野獣』ならぬ、『幼児と魔獣』なんだよねぇ……
全種の言葉を毎日使う私はデンキチと普通に会話してるんだけど、それも不気味に見えるらしく最近は私までモンスター扱いされる。
※通常のデンキチの会話。『』使用時は、全種の言葉発動状態。
「ねぇ、デンキチ? 家族とか居たりするの」
『ヌガ? 家族はカミル。ママさん。パパさん。タウリ。クエン。それまでは独りでいたよ』
なによ……デンキチって寂しい生活してたんじゃない……
「そっか、なんで私のところに来てくれたの? 私さ、デンキチが初めての召喚だったんだよね」
デンキチは私に呼ばれた時、負けたくないと言う強い感情を感じたと言う。私の負けん気に興味が湧いたのだそうだ。
強い意思を持つ主は、使い魔にとって良きパートナーになる。何故なら、強い意思は欲望になるからだ。欲こそ力の源と言う使い魔は少なくないらしい。
しかし、そう語るデンキチは食欲も凄い……なので今日は森に来ている。
季節が変わり、森の果実の種類にも変化が現れる。私のマップも知った知識により新たに『果』『実』『魚』『蜜』の表示が増えた。
説明すると、果=果実。実=木の実。魚=魚。蜜=蜂蜜である。
デンキチは、食いしん坊なので森の果実を目的に森にきたという訳だ。
最初に見つけたのは、アケビ。知らない人も多いが此が実に美味しいの。日本にいた頃、お婆ちゃんの家には沢山なっていてよく食べた。“ララリルル”に地球と同じ果物があるのは正直うれしい。
味見をするとデンキチもその甘さに感激した様子で次々に食べていく。余りに食べる為、途中でデンキチを止め、カゴいっぱいに採取した。
次は……ザクロ!
ふふふ、私の楽しみの1つむしろ久々の甘酸っぱい出逢いを楽しみにしてたんだから。
『これ、ゴリゴリしてるけど美味い!』
それは……皮の中を食べるのよ? まぁ美味しそうに食べてるからいいんだけどね。
「美味しいね。デンキチ」
『旨いねぇ。カミル』
私達はその後も森の果実を味わいながら森を歩き回っていた、すると突如マップがオープンになったの。マップには赤い点滅が複数表示され、その先に緑の点滅が複数表示される。一直線に並んだ緑と赤の点滅が此方に走って来ているのがわかる。
「これってッ! 人が襲われてるの?」
『どしたの、カミル?』
次第に近づく赤と緑の点滅。
ガサガサッガサガサッと草木を踏みつけながら走ってくる足音。
「助けてぇぇぇ!」と声が聞こえ、私は走り出そうとしたが、足が動かない……人を襲うモンスターの元に向かうことを私は恐怖していたの。
「デンキチ……ごめん、私を担いで声のする方に運んで!」
『いいよ。でも、なんで走らないの?』
「うるさいわね! 武者震いしすぎて足が動かないのよ!」
『ヌガガガ? カミル意外に怖がりなんだね?』
「あんまり言うとおやつ抜きだからね」
『はーい!』
デンキチの肩に乗り、声の方向へと向かう、悪ガキトリオが蜂のモンスターに追い込まれ逃げ場を失っているのがひと目で理解できたわ。
『どうするカミル? 全部やっつけるの』
「あれって、ハニービーだわ! 凶暴なモンスターじゃない筈なんだけど、縄張り意識の強いモンスターだった筈よ」
私は全種の言葉で取り敢えずハニービーと話をすることにした。戦闘能力は低いモンスターだけに人を故意に襲うモンスターではないからだ。
「落ち着いてハニービー! 話がしたいの」
今まではマップの力で上手くモンスターを回避してきた私の初めての野生モンスターとの会話だったわ。
『私達の巣を攻撃した! 蜜を盗んだ!』
ハニービーは太陽が沈むと活動を一斉に中止するモンスターで蜜の採取はハニービーが眠る夜中以外は普通は行わない。戦闘能力が低くても数での戦闘を基本とするモンスターだからだ。
悪ガキトリオは、ハニービーの巣を攻撃して蜜を盗んだのは間違いない……ヤバイなぁ。
「ハニービー! 聞いて、私達は仲直りしたいと思ってるわ。その代わりにあのカゴいっぱいの果実を渡すわ! どうかしら?」
ヒソヒソ、ヒソヒソと集まり会話するハニービー。上手くいかなかったら不本意だけど戦うしかないかぁ……
『蜜を盗んだの許す。巣を攻撃したのも許す』
そう言うとハニービーはカゴを抱えあげ、巣へと帰っていったの。
『デンキチの果物! あぁぁぁ、いっちゃった……』
少しデンキチに悪いことしたなぁ……後で、もう一回、果物を取りにいってあげるかな?
「アンタ達ッ!! 止まりなさい!」
ビクッ!
その場から逃げようとする悪ガキトリオ、逃がすわけないでしょうが!
その後、悪ガキトリオを村に連れ帰り、村の大人にハニービーの一件を報告する。
ハニービーの蜜は疲労回復に良いとされ、結構いい値段で取引されている。悪ガキトリオのリーダーは風邪気味の父親に蜂蜜を食べさせたかったのだそうだ。
『デンキチも蜂蜜食べたい!』
「ダメよ、それにハニービーと戦うなんてごめんよ」
『戦わなくても……クイーンビーを使い魔にすれば良いのに』
私を見ながらザクロを丸噛じりするデンキチの言葉に私は……は? と意味が分からずに困惑した。
『カミルは勉強不足。デンキチより下級のモンスターなら使い魔として直接契約すれば出来る……ガリガリ』
私は……使い魔に勉強不足と言われました。悲しい……じゃなくて!
新たな情報が手に入りやる気が出た! デンキチの話が本当なら凄い事なんだから、そんな事実は私の借りた本には載ってなかったし。
明日、森のモンスターで実験してみようと思う。