香りが反則なんです。
パンの試食が始まると次々に並べられていた一口サイズのパンが無くなっていく。
一般の参加者には全ての店を回ってほしいと考えて予め、切れ線を入れた店舗1つ1つのマーク入りのクーポン券タイプの引換券の束を配っておいたの、持ってない人も各案内所に名前を書いて提出すれば貰える仕組みよ。
引換券を渡した際にクレレの判子を掌に押して完了になるわ。
掌に判子を押すのは不正を無くす為ね、同じ人が何度も引換券を使えないように紙にも細工したの、判子を押された人は同じ引換券を使えなくなるように魔法を掛けたの。
ライパン全体で溢れる観客の笑顔と美味しいパンを作ろうと真剣な表情で必死に調理を続けるパン職人さん達、夕暮れになり、空がオレンジ色に染まると最高に熱い1日目が終わりを告げる。
多くのパン職人達が1日目の互いの健闘に敬意を払うように挨拶を交わし、ベジルフレア王国が用意した宿へと移動する。
私達も1日を多忙に凄し、洋館へと家路を急ぐ、洋館に辿り着くと煙突から煙が上がり、食欲を掻き立てるような芳ばしい香りが外に広がっていたわ。
懐かしい香りでありながら、有り得ない香り、私は慌てて洋館へ駆け出すと厨房で料理をするアララ、ペンネ、サトウの姿に驚かされたわ。
何より驚かされたのは、ペンネが手に持っていた黒い液体よ。
不覚にも思わず叫んでしまったわ……
「ペンネッ! その香りッ!」
私が喋ってる最中、サトウが「お帰り、もうすぐ“お好み焼き”が出来るから待ってて」と微笑んできたの。
ペンネも不敵な笑みを浮かべながら、私に黒い液体(多分ソース)を見せびらかし、自信満々に喋り出す。
「カミルよ、主が慌てるのもわかるぞ、此は妾達、マドラットに住む者にしか伝わっておらぬ、最高の調味料その名も!」
そんなペンネの台詞を横からサトウが「ソースだね」と笑顔で答える。
それに対してペンネが「だから、違う! この調味料は“セイヴァソー”だと言うておるだろう!」と激怒する。
ややこしいわね……
「それでソースってマドラットでつくってるの?」
「だから、“セイヴァソー”だと……ハァ、もうよい、カミルがソースと呼ぶならセイヴァソーは今日からソースとしよう……マドラットで大瓶に野菜や果物、香辛料に水などを加えて煮込みながら作るのじゃ、簡単に作れるが味は使う食材に左右されるで、厄介は厄介な調味料じゃな」
取り敢えずわかったのはペンネの言う“セイヴァソー”と言う調味料がソースであること、そして今日の晩御飯がお好み焼きである事実、炭水化物の後に炭水化物って……でも、ソースの芳ばしい香りが……“ジュウゥゥ”と言う音が私の耳と鼻を擽り、立ち込める煙が私を更に引き寄せる……こんなの反則よ。
しかし、サトウにソースとお好み焼きを知っている事実を知られれば、私が転生者だってバレるわ、慎重にいかないとよね。
私は恐る恐る食べる素振りをしながら、口の中は期待で溢れかえっていた。
卵から作られたマヨネーズとソースがタップリのお好み焼きなんて、この世界ではやっぱり反則だわ。
そんな私の食べる姿を確り見つめるサトウとペンネ、二人とも私が初めて食べる味にどんな反応するのか期待してる見たいね?
あんまり派手な反応はできないんだけど……
ゆっくりとソースとマヨネーズの塗りたくられた分厚いお好み焼きを一口サイズに切るとそれを口へと運ぶ。
“パクり”
「ぬぅぅぅぅッ! うまッ! 何なのこれ、意味がわからないんだけど」
私の知るお好み焼きの更に上を行く美味しさに不覚にも私は驚きを露にしてしまったわ。
そして、サトウとペンネが勝ち誇ったように私に向けて笑みを浮かべていたの、悔しい気持ちもありながら、本当に美味しいから仕方無いわね。
あとでこの味の秘密を聞こうかしら? 本当に美味しいわ。