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「依頼したいのはこれなのよ」
アリアは豪華な装飾が施された長剣を運んできた。鞘から抜くと美しい純白の刃が半分ほど茶色く変色している。
「昨夜のことよ。激務で疲れ果てた私は、深夜に小腹が空いてきたの。誘惑に負けた私は、調理場からハムを持ち出しこの聖剣で薄切りにして食べたの。とても美味しかったわ。そして、お腹がいっぱいになった私はそのまま寝てしまったの。翌朝、目覚めた私は愕然としたわ。聖剣の刃が呪われたように変色していたのだから!」
「罰当たりなシスターだね・・・」
ミロンは教団所属の神殿騎士団が使用する鍛治工房を借りて聖剣を研ぎ始めた。鍛治スキルレベル6の全ての研ぎ技術を駆使する。この剣は教団所有の本物の伝説級の聖剣だ。今のミロンにとって伝説級の武器を作るのは夢のまた夢・・・見るのも触るのも初めてだが、自分のそしてクリスの鍛治スキルを信じて研ぎ上げる。
薄らと本当に薄らと聖剣が白い光を放ち始めた。研ぐたびに輝きは強くなり、研ぎ終わると直視できないくらいの光で工房が満たされた。聖剣から発する圧倒的な力の前にミロンは立っているのがやっとだ。
「ミロン君、ありがとう。本当に聖剣を研げるなんて・・・」
アリアが聖剣を鞘に入れると白い光も鞘に収まった。伝説級の武器・・・それは神々が作ったものや魔神が振るったもの、何百人もの魔術師が集団儀式で生み出したもの。人間の鍛治師が作れるレベルではない。だだ、目指す鍛治レベル10の先には、きっと目の前の聖剣のような伝説級の武器作成も可能になるとミロンは信じている。
「そろそろ、私は時間だから行くね。依頼の代金の支払いは・・・胸をにぎにぎした罰を忘れてあげるってことで!さすがの名裁き。これにて一件落着だね」
「また、聖剣を研ぐときには呼んでくれ。依頼料は、にぎにぎで!」
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大神殿を後にしたミロンは、街のメインストリートに人だかりができているのを見つけ、暇つぶしにメインストリートに向かった。
そこでは教団のパレードが行われていた。どうやら今日は聖女様の16歳の誕生日のようだ。普段は神殿の奥で祈りを捧げ続けている聖女様が、信者の前に姿を現すようだ。まわりの信者達は「ありがたや、ありがたや」と手を合わせている。
パレードは神殿騎士団を先頭に司祭達が続く。そして中心に美しい金髪、純白のドレスを着た、白く輝く聖剣を掲げた聖女様が視界に入り、目があった。
「ミロンくーん!ミロンくーん!」
聖女様が聖剣をブンブン振りながらミロンを呼んだ。
「あれはアリアだよな・・・」
見た目はともかく、あれが聖女様なんて・・・ミロンが抱いていた聖女様への聖なるものへの憧れは打ち砕かれた。