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工房にこもったミロンは一対の長剣を完成させた。12歳に成長したミロンは鍛治スキルも2レベルとなり、それなりの品質の剣が作れるようになっていた。鍛治レベル6になった母親のクリスとは比べるまでもなかったが。
もちろん一対の長剣はエミリアへのプレゼントだ。彼女は森の中で毎日のように剣を振り回し、二刀流スキルを鍛えている。ミロンは早速、エミリアに会いに行った。
「わー。ミロン君、ありがとう!やっぱり、ミロン君の剣は手に馴染むわ。握っているだけで勇気が湧いてくる気がするし。両手じゃ足りないわ。腕があと、2、3本は欲しいな!」
エミリアは一対の長剣を両手に持ち、二刀流で素振りを繰り返す。ミロンは剣を振るエミリアの姿に思わず見とれてしまった。見とれるのはいつものことだが、エミリアも横目で自分に見とれるミロンを確認しながら満足げに鼻歌交じりに素振りを続けた。
そろそろ日も傾き始めた頃、マーリが慌てた様子で駆けよってきた。
「ミロンちゃん、クリスさんが大変なの。すぐに家に戻って!」
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家に戻るとクリスはベッドで横になっていた。
つま先から膝が動かなくなり、倒れているところをマーリが見つけベッドに運んでくれたようだ。
「急に足が動かなくなってしまってね。このザマだ・・・だが、マーリに医者を呼んでもらったから心配ないぞ」
しばらくして、マーリに急かされながら医者が駆けつけた。さっそく医者は診察を始めたが「うーん」と唸りだし、結局は「原因は解らない」と言って帰って行った。
「みんな心配し過ぎだぞ。足の麻痺なんて、時間が経てば治るだろう・・・」
だが、翌日も足の麻痺は治らなかった。
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クリスが倒れてから1ヶ月が経過した。
教会の司祭、王都の医者にクリスを診断させたが治るどころか麻痺の原因も解らない。高価な薬や怪しげな呪い師も試したが効果は無かった。
それどころか、麻痺の範囲は徐々に広がり、今は腰の辺りまで動かない。ベッドから体を起こすのも、しんどそうだ。
「ミロン、たまには外でエレミアと遊んでくれ。毎日、私の世話ばかりじゃつまらないだろうに」
「そんなことない。母さんといるほうが楽しいから!」
「ミロンはマザコンかな・・・」
ミロンは片時もクリスの側を離れず看病を続けた。
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更に2ヶ月が経過した。
クリスの病気は治らず、麻痺は全身に広がっていた。診察に来た村の医者は、麻痺が心臓まで広がったとき、クリスは死んでしまうと言っていた。麻痺が全身に広がった今、いつ心臓が止まってもおかしくないとも。
「ミロン、私の命もそろそろ尽きるようだ」
「何言っているの!そんなの嫌だよ・・・」
「我がままを言わないでくれ・・・私が死んだら、王都の鍛冶ギルドを訪ねろ。ギルドマスターに私の名前を伝えれば力になってくれる。それとミロンに渡したいものがある。手を出してくれ」
ミロンの手をクリスが握ると暖かい何かが体に流れ込んできた。
「私が持って生まれたギフトは『継承』というレアスキルだ。自分のスキルを1つ選んだ相手に継承することができる。ミロンには私の鍛治スキルを継承してもらった」
ミロンがスキルカードを見ると鍛治レベル6になっていた。
「ふふふっ・・・12年前に赤ん坊だったミロンを見つけたときに、継承スキルはこの子に使うって思ったが勘が当たったな。私も捨て子で同じギルドの前に捨てられていたらしい。だから、君を見つけた時に運命を感じた。ミロンなら必ず、誰もが到達していないレベル10になれる。私が死んでも剣を作り続けるんだぞ・・・レベル10ボーナスか・・・どんなギフトを授かるか楽しみだな・・・」
ミロンも別れのときが近いことを感じ涙が止まらなくなった。話したいことはたくさんあるのに言葉にすることができず、クリスと手を握り合ったまま頷くことしかできなかった。
その日の夜。クリスは息を引き取った。
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クリスが死んでから1週間が経った。お葬式はマーリが取り仕切ってくれたので無事に終わっている。
ミロンは王都に旅立つための荷造りを始めていた。
「ミロン君、王都に行くんだよね・・・ミロン君にもらった、たくさんの剣、大切にするよ。それと私は絶対に最強の剣士になる。それまでミロン君の剣をずっと使い続けるよ」
「エミリアならきっと最強の剣士になれるよ。俺も王都で必ず鍛治レベル10になってみせる。クリスから受け継いだものを無駄にできない」
「じゃあ、最強の剣士と鍛治レベル10になったら、この村で再会しよう!」
「再会のハードル高過ぎだと思う・・・」
「冗談に決まっているでしょ。良い剣が出来たら届けてね。いつでも待っているよ」
エレミアとマーリに見送られ、ミロンは村から旅立った。