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「明日は鑑定の日だな。今時点のスキルは、ただのスタートに過ぎない。気にする必要はまったくないがミロンは私の息子だからな。どんなスキルか楽しみだ」
その年に10歳になった子供は12月31日に鑑定の儀式を行う。ミロンも今年で10歳になっていた。
いつもクールな母親をやっているクリスも儀式が楽しみなようでテンションが高い。
儀式自体は簡単なものだ。スキルカードと呼ばれる魔法のカードに血を一滴たらすと子供のスキルがカードに表示される。スキルは今までの経験の中で身に付けたものと、生まれながらに備わった神様からの贈り物、ギフトと呼ばれるものがある。ギフトは多種多様な種類があり、歴史に名を残すような人物は、たいてい強力なギフト持ちだ。また、スキルカードはレベルアップ時、新規スキル獲得時にカードの記載も変化する、一生ものの便利アイテムだ。
「何せ、私の息子だからな。鍛治スキルはあるだろうな。問題はどんなギフトかだ。これは神のみぞ知るだな。ぐっふふ」
「母さんが儀式のことばかり、繰り返し話すから緊張してきた・・・」
子供のいる家庭では、どの家庭でもこんな会話が繰り返されているだろう。
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翌日、村の広場に10歳になった子供達が集められた。今年は農家の娘、雑貨屋の息子、エミリア、ミロンの4人の子供が儀式を受ける。娯楽が少ない田舎の村なので村人の大半も集まってきた。串焼きや焼きまんじゅうを売る屋台も出ていて、お祭りムードだ。
集められた子供の中にはエミリアいる。10歳になった彼女は村中の注目を集める美少女になっていた。気が強くてちょっと怖いが。
「いよいよ、私達の鑑定の儀式だね。私のお父さんは剣士だったんだ。お母さんと私を守って死んでしまったの。私もお母さんをミロン君をクリスさんをみんなを守れるような剣士になりたい」
ミロンは自分が将来何になりたいか考えたことがなかった。母さんやエミリアが喜んでくれるから、毎日、武器を作っていたが、自分がやりたいことが何か悩み始めた。
「自分が何をやりたいか考えたこともなかった・・・」
「ミロン君らしいね。将来、何をしたいかは自分のスキルを見てから決めるものだと思うよ。私が少し変なのかもね」
「ワ―!!」と歓声が上がった。鑑定の儀式が始まり、まずは農家の娘からスキルカードを使い、村人たちは固唾を飲んで結果を待つ。
「ソニエちゃん、農夫1レベルと土魔法1レベルだって!一般の家庭から魔法使いが生まれるなんて凄いよ!」
エミリアが興奮しながら、農家の娘ソニアと抱き合って喜んでいる。ソニアのギフトは土魔法だった。魔法系のスキルは稀少で持っているだけで一生食べるには困らない。反対に生産系のスキルは誰でも覚えられるので人気が無い。鍛治も不人気スキルの1つだ。
次は雑貨屋の息子がカードを使った。
「雑貨屋の息子さんは商人1レベルと商人レベル2ボーナスだって。何だかしょぼい・・・」
雑貨屋の息子はフェルノという名前だがエミリアは名前を知らないようだ。ちなみに商人レベル2ボーナスは、商人レベルが2に上がった時に新たにギフトを獲得できる。レベルボーナスは高レベルなほど稀少ギフトとなるが、レベル2ボーナスは最低レベルのギフト・・・やっぱり、フェルノはしょぼいな。
次はエミリアの番だ。緊張した面持ちでスキルカードを使った。
「私のスキルは、剣術2レベル・・・」
村人たちがどよめいた。10歳でレベル2なんて、この村では初めての出来事だ。母親のマーリも小さくガッツポーズを取っている。しかし、驚きには続きがあった。
「それと二刀流」
だれもが知っている伝説の剣士が二刀流スキルを持っていたと言い伝えが残っている。二刀流スキルは伝説や言い伝えの中でも最高のスキルの1つだろう。
エミリアがミロンに抱き着きながら喜びを爆発させた。村人たちも口ぐちに「おめでとう!」と言い、祝福ムードいっぱいだ。
「やった!私、やったわ。私は最強の剣士になるわ!今度はミロン君の番ね」
村人たちのざわめきが収まらない中、ミロンがスキルカードを使う番になった。スキルカードに血を一滴たらし、表示されたスキルを読み上げる。
「えっと、俺のスキルは、鍛治1レベルと・・・鍛治レベル10ボーナス・・・」
周囲が静まり返った。鍛治レベル10ボーナス・・・鍛治レベルが10に上がった時に新たにギフトを獲得できるスキル・・・
「なんだか可哀そうだな・・・」
「神様ってこんな意地悪するのかな・・・」
「ミロン、元気だせよ・・・」
現在確認されているスキルレベルは9までしかない。9レベル到達者も剣聖や聖女と呼ばれた、英雄たちばかりだ。ミロンは到達不可能なレベル10ボーナスのギフトが与えられていた。