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クリスは工房で包丁を研いでいる。となりには黒髪の少年が熱心に作業を見つめていた。あれから、6年の年月が経ち、赤ちゃんはミロンと名付けられ、すくすくと成長している。
6年前、クリスはこの村にミロンと共に引っ越した。ここにはクリスの少ない友人の1人、マーリが住んでいる。マーリは出産したばかりだったので母乳が出る。クリスはもちろん母乳は出ないので、マーリのもらい乳でミロンを育てた。
「研ぎ終わった。この包丁をマーリに届けてくれ」
クリスは包丁をミロンに渡した。マーリの家はお隣なので1人でお使いもできる。ミロンは元気にお隣に向かった。
「マーリさん、包丁持ってきたよ」
「まあまあ、ミロンちゃん。1人でお使いえらいね」
エプロン姿のマーリが出迎えてくれた。30歳になった1児の母だが、美人で何より自分にもらい乳をしてくれたマーリをミロンは大好きだった。
「また、ミロン君がママをHな目で見ている!男の子ってどうして胸ばかり見るの!私をそんな目で見たら許さないんだから!」
茶髪のロングヘアーを振り乱しながら、言いがかりを付けてきたのは、マーリの子供であるエミリア。ミロンと同じ6歳の少女だ。眉を吊り上げ、ジト目で睨んでいる。
「エミリアにはこれをあげる・・・」
ミロンは1週間以上かけて1人で作った木刀を手渡した。木の枝を削り、握り用の柄は紐を巻いて作った。6歳の子供が作ったとは思えない出来栄えだ。
「もらってあげても良いけど、下心が見え見えだよ。ミロン君の気持ちも解らないでもないけど・・・ブツブツ」
「ブツブツ言ってないで2人で遊んできなさい」
「はーい」
エミリアに笑顔で見送られながら2人は遊びに出かけた。遊び場所は決まって村外れの森の中だ。
「はははっ!私は最強の剣士になるの。行く手を遮るものには容赦しないわ!」
エミリアはもらったばかりの木刀を振り回し、草とか花とか見境なしに刈りまくっている。小一時間ほど木刀での草刈りを続け、辺り一面が草と花だらけだ。さすがにエミリアは肩で息をしている。
「ぜえ、ぜえ・・・今日のところは、これくらいにしといてあげるわ。ぜえ、ぜえ・・・」
「何だか、エミリアの目が血走っているし怖いよ・・・」
「ミロン君の作った木刀を握っていると力が湧いてくるっていうか、勇気をもらっている気がするんだ。私の為に作ってくれたって思うだけでゾクゾクしてくるよ。1本じゃ、足りない!もっと作って!」
この日からミロンは来る日も来る日も木刀作りを続け、エミリアも毎日、木刀を振り続けた。