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アリスとジョシュア

作者: JIS

ストーリーの序章みたいな話です。

乱文駄作ではありますが、よろしければどうぞorz


■□■□乙女の日記■□■□


5歳の時。両親に連れられて街まで行った。

んで中央神殿で魔力判定してもらった。


そしたらドルイドとシャーマンのハイブリッドだって事が分かって周りの大人が「おーっ!」って興奮していた。


不思議に思って判定員のオッサン達に話を聞いたら「ありえない!ドルイドとシャーマンは相反属性だぞ!」とか「しかしこうしてハイブリッドとして持つ娘がいるんじゃ。学説の方が間違っておったのやも……」とか私無視で大盛り上り。結局よく分からなかった。


その後も私たち親子ガン無視でオッサンたちだけで大盛り上りしたので、判定してもらったお礼として少し神殿に寄付して家に帰ってきた。

本当は判定を受けた人(この場合私ね)の名前や住所を記帳して残さないといけないらしいけど、誰も相手にしてくれないし、お腹も減ってたからそのへんはスルーしといた。


で、村に帰ってから改めて両親に聞いてみたんだけど「何かお前は珍しいらしいぞ。よかったな!」「まぁ素敵!アリスはラッキーガールだったのね!」って感じで、どうやらパパもママもよく分かってなかったみたい。よく分からなかったのが私だけじゃなくて安心した。難しかったもんねーオッサンたちの話。


幸い村にはヨポヨポしたおじいちゃんドルイドと、プルプルしたおばあちゃんシャーマンがいたから魔法とかはその人たちに教えてもらえた。


正直に言って魔法の特訓よりもお裁縫とか畑仕事とかがしたかったんだけど(だって新しい服欲しいし、ご飯もいっぱい食べたかったし)おじいちゃんとおばあちゃん両方から「それは絶対ダメだ」って言われた。


普段はヨポヨポプルプルしてるくせにあの時の二人は目がマジで怖かった。

二人の迫力に思わずその時は頷いちゃったんだけど、後で改めて理由を聞いたら、私は魔法の資質?っていうのが高いんだって。資質っていうのがよく分かんないんだけど、頑張ればスゴいドルイドとシャーマンになれるってことみたい。


最初は変な言葉(呪文っていうらしい)とか、変な模様(陣とか印とかいうらしい)とかを覚える『座学』っていうのばっかりで退屈だったんだけど

半年くらい経った頃からかな?色んな魔法を実際に使ったり(呪文とか陣とかは魔法を使うのに必要なものだったみたい)、薬とかを作ったりするようになってからはスゴく楽しくなった!


私が何かする度にドルイドのおじいちゃんは「アリスは筋がいいのぉ!」って褒めてくれるし、シャーマンのおばあちゃんは「アリスは偉いねぇ」って頭撫でてくれた。

両親にその事を話すと「アリスは天才だなッ!天才ガールだな!」「違うわあなた!アリスはラッキー天才ガールなのよ!」とか浮かれてた。パパとママに喜んでもらえて私も嬉しかった。


よっぽど嬉しかったのか、ご近所さんにまで言いふらされてちょっと恥ずかしかったけど、それでも嬉しかった。

だから近所に住んでる男の子に「こんなド田舎でくすぶってるような三流魔法使いに認めてもらえたからっていい気になるなよ!」って言われたときは悲しかった。



悲しくて少し泣いてしまった

――――――その男の子が。



だってすっごく悲しかったんだもん。

そんでそんな嫌な事を言う男の子に対して、すっごくイラッときたんだもん。


だからドルイド魔法の【木の枝の矢】って魔法を使ってしまった(男の子の腕が何故か赤くなった)

あとシャーマン魔法で土の精霊にお願いして男の子の首から下を土に埋めてもらった。


「な、何すんだよ!」って全然反省してくれなかったのが悲しくて、そのままその子の顔面をボコボコに蹴りまくってやったら「ご、ごめんなさい」って謝ってくれたので最後に思いっきり鼻を蹴り上げてから許してあげた(男の子の鼻の下が何故か赤くなった)


気持ちまで晴れるようないいお天気だったのに、その後すぐに雨になった。

そしたらシャーマンのおばあちゃんが「どうかしたのかい?」って優しく頭を撫でてくれたから、男の子に意地悪な事を言われて悲しかった事を伝えた。


そしたら「あぁ、急に雨になったと思ったらアリスが降らせてたんだねぇ」だって。

ビックリして「え?私そんなことしてないよ」って言い返したら私の頭を撫でながら「よく見てごらん。水の精霊がたくさんいるだろう。この子達はねアリスの悲しみを洗い流してやりたくて雨を降らせてるんだよ」だって。


「それにね並のシャーマンだったら、風の精霊から頬を撫でてもらったり、花の精霊から花びらをプレゼントしてもらうくらいが関の山さ。たくさんの水の精霊から大雨を降らせてもらったなんて話、あたしは聞いたこともないよ。これだけ見てもアリスがスゴいシャーマンだってわかるだろ?」

「でも都会にはおばあちゃんが知らないようなスゴいシャーマンもいるってアイツが……!」

「フフフ。安心してアリス。その子が何と言おうとアリスはスゴいシャーマンだよ。元キューテーヒットウのシャーマンであるこのあたしが保証してあげるから」


正直『キューテーヒットウのシャーマン』っていうのが全然分かんなかったけど、おばあちゃんが私をスゴいって言ってくれてるんだから私はそれを信じるよ。


「さぁさぁもう涙を拭いて。アリスが泣きべそのままだと明日も明後日も雨が上がらないよ?」


それは困る。だって明後日は楽しみにしていたお芋掘りがあるから。

今年のお芋は私も魔法で沢山お手伝いしたから超豊作でとっても甘いって評判だったし。


「……うん。もう平気」涙を拭いながらそう言うとおばあちゃんもしわくちゃな笑顔になった。

その笑顔を見てよし!今日も魔法の訓練を頑張ろうって思ったんだけど、何故かこの日の訓練は中止になっちゃった。


理由を聞くと「アリスが悲しい気持ちだと精霊たちが暴走しちゃうからね。今日はもう帰りなさい」だって。

「もう平気だよ?」って言ったんだけど「万が一また悲しくなったら今度は山が噴火するかもしれないから」ってよく分からない理由で却下されてしまった。


だからその日はお芋掘りで使う道具の手入れのお手伝いとか、ご近所に配るお薬(この日は頭痛と腰痛のお薬)を作ったりして過ごした。パパもママも雨の日は家の中でお仕事だから一日中一緒に居れて嬉しかった。

おばあちゃんの言った通り雨はその日の深夜まで降り続いたみたいだけど、翌日には晴れてた。


で、普通なら日の出と共に起きるのが村のライフスタイルなんだけど、この日はまだ暗いうちに揺り起こされた。

「どうしたの?」って目をこすりながら起きると、パパが「ちょっと掘り起こして欲しいものがあるんだ」って言ってた。


スッゴく眠かったから明日の朝じゃダメかな?って思ったけど、雨音の代わりに「ごべんなざいぃぃぃぃぃ。もうじまぜんんんんんん。だずげでぇぇぇぇぇぇぇ」って声に気を取られて言い出しそびれた。


パパに手を引かれて玄関扉を開けると、ドロドロになった畦道からドロドロの首だけを生やした嫌な子が泣き叫んでた。

まだ日の出まで大分あるっていうのにスッゴい大声でギャーギャー喚いてるその子。いっつも上から目線で偉そうな事言ってるくせに夜は静かにしないとダメって常識も知らないのかな。ホント腹立つ。


「アリス頼むな!」ってパパが言うから土の精霊に頼んでズボッと抜いてもらった。

引き抜かれたあの子は全身ドロドロのままフラフラしてた。男のくせに情けない。何だか見た目もヒョロヒョロしてて頼りないし、他人にイヤミをいう暇があればもう少し身体を鍛えた方がいいと思う。ホンット男のくせに情けない。


その後、パパに抱っこしてもらって「ありがとうなアリス!」って言われたところまでは覚えてるけど、どうやらそのままパパの腕の中で寝ちゃったみたい。この時のあたしはこの後あんな失態を犯すなんて夢にも思っていなかった。


次に目覚めたのは、お日さまが空高くに昇りきった後だった。


そう。完璧に寝坊しちゃってたのよわたし!こんなに恥ずかしいことってない!

一年前。たまたま耳に入った井戸端会議で「日の出と共に起きて旦那様をお迎えするのが良い妻であり、良い母」ってママたちが言ってたのを聞いてから、一度だって寝坊したことなかったのに、こんなのってヒドい!


パパに泣きつくと「暗いうちに無理やり起こしちゃったパパが悪いんだ。だからアリスは悪くないぞ!」って言ってくれたけど、それでも悔しい。


くそう……それもこれもあの嫌な子が原因だ。

だってあの子が騒がなきゃあんな時間に起こされることもなかったし、私が寝坊する事もなかったもん。


もう、絶対に許さないんだから!!!!


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



「おいアリス……」

「何よジョシュア」


呼ばれて振り返れば、1冊の古びたノートを抱えた色男――ジョシュアがプルプル震えていた。


肩甲骨まで伸ばした見事なブロンドの巻き毛は端正な甘いマスクによく似合っている。

昔はヒョロヒョロだった背格好も、今じゃあ年相応に逞しく育っている。

けどそんなフェロモン過剰な見てくれに反してとんだヘタレ野郎なんだけどねコイツ。


そもそも第一印象からして最悪なのよ。

あまりに最悪すぎて思わず日記に書いちゃうくらい――ってそのノート妙に見覚えがあるような…………ってそれ!?


私はヤツの手からノートをひったくると、胸に抱えこんでジョシュアを睨みつけた。


「ヒドい!乙女の日記を勝手に読むなんて何て男なのアンタってばッ!!」

「ドやかましいッ!何だよその日記!!捏造も良いところじゃないか!!」


捏造ッ!?捏造ですってぇぇ!?

幼い乙女の胸の裡を書き連ねた日記に向かって、捏造たぁどういう了見なのよこのヘタレッ!?


「この乙女の日記のどこが捏造だっていうのよッ!!」

「俺が加害者で、お前が被害者になってるところがだよッ!!」


そんなのしょうがないじゃない。だって当時の私はそう思ったんだもん。


そりゃ今にして思えば、若干私も悪かったと思う。

ヤツが言うように一方的にヤツを加害者に仕立てるのは間違ってると思う。


けど、それは今の私が思っている事で、当時の私はそう思ってなかったんだから仕方ないじゃない。


「何が若干だ!!あの凄惨な事件については9:1でお前が悪いだろッ!?」

「も、もちろん分かってるわよッ!確かに私も1割くらいは責任があるって認めてるんだから、そんな大声で怒鳴ることないじゃない!!」

「ハァァァァ!?フザけんなッ!!何が1割だッ!!9割お前の責任だろうがッ!!」


何をバカな事を言ってるのかしらこのヘタレ。

そもそも子供の頃のアンタがイチャモンつけてきたのが原因だったんだから、諸悪の根源はアンタでしょ?


馬車の追突事故だってぶつかった方が悪いのだ。

その責任を忘れて、9割も責任を押し付けてくるなんて信じられない。


「俺の方こそ信じらんねぇよ!!あんなの単なる軽口だろぉぉぉぉぉ!?同い年の女の子についついちょっかいかけちまうピュアな男心だろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!それなのにあの仕打ちはねぇだろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


とうとう泣き出して詰め寄ってくるジョシュアの顔面を押しのける。

ホントいつまで経ってもウザい男だ。昔の事でネチネチと詰め寄ってくるその根性も気に入らない。


「はいはい。もう分かったから!私も悪かったわよ。認めるからいい加減そのムサ苦しい顔を寄せるのをヤ・メ・テ」

「何だよその言い草ッ!?丸一日だぞッ!?!?年端もいかない男の子が丸一日土に埋められてたんだぞッッ!?!?!?!?」


これだから大げさな男は嫌いなのだ。

何が丸一日だ。確かお昼ちょっと前から翌日の深夜までだから精々半日程度でしょうに。


それに土に埋められてたのは首から下だけでしょ?

まるで土葬されたかのような言い方はどうかと思う。


相変わらず涙に濡れた小汚い顔面をグイグイ近づけてくるので両手で思いっきり押し返すと、ジョシュアは「フグッ」とか言って後ろに倒れ尻餅を付いていた。

で絶望的な表情で私をいちべつすると、もう一回「フグッ」って言ってショボくれた。


そんな情けないヤツの様子を見て、私はハァと溜め息を吐いた。


だって私は知っている。この状態になったヤツのウザさとしつこさを。

せっかく順調に荷造り出来てたのに、これじゃあ今日中に終わらないかもしれない。


細々とした整理なら私一人で大丈夫だけど、生憎重い荷物の積み込み作業が残っているのだ。

つまりヤツが働いてくれないと非常に困る。


仕方がない。

ここは適当に話を合わせて、とっとと立ち直ってもらうことにしよう。


「お前は分かってないんだ……」

「そうかもしれないわね」

ってか分かりたくもないんだけどね。

どうせ陰気でくだらない悩みとかだろうし。ぶっちゃけ興味がない。


「身動きが取れないんだぞ……。その上大雨のせいで助けを呼んでも雨音にかき消されるし、口を開けるもんだから泥水が口ん中入ってくるし……」

「それは大変だったわね」


この点についてはちょっぴりヤリ過ぎたと反省してるわ。

とは言え、こうやって昔の話を引っ張り出してきてまで凹んでる男を見るとゲンナリするのも事実だけど。ぶっちゃけウザい。


「そうこうしてるとだんだん薄暗くなってきて……でも誰も来てくれなくて……俺寒くって、辛くって、怖くって、苦しくって……何回も呼んだんだ。父さんも母さんも……泥水にむせ返りながら何回も何回も呼んだんだ……でも誰も来てくれなくて……」

「そうなの。頑張ったのね」


早く終われー。一刻も早く終わってちょうだい。ホンットマジで。

まだお芋も、柿も、小麦も、とうもろこしも積み終わってないの。だから早く終われー。そして積み込んで欲しい。


「暗くなって、雨も上がって……ようやく声が届くって思った。だから叫んだんだ……助けてくれって、許してくれって……そしたらお前ん家の玄関が開いて、人影が見えた時、俺……この世に神様っているんだなぁって思ったんだよ……」

「そう。それはよかったわね」


ま、実際には神様じゃなくて家のパパなんだけどねそれ。

でもそんな野暮なツッコミはしないわ。だからお願い。早く終わって。そして積み込み作業に戻ってちょうだい。


「それで……それで……」

最早言葉にもならないのか、グッと何かを堪えるような表情でジョシュアが黙る。

感極まってるところ悪いんだけど、ここでのペースダウンは私的にはNGなのだよ。


だってそろそろラストだよね?

このあとゴボウみたいにスポーンッ!と引き抜かれてお家に帰りました。チャンチャン!で終わりだもんね?


だったらもう少し頑張ってよ。

そんなところで感極まってないで、バーッとゴールに向かってスパートかけなさいよ。


そして積み込みをッ!

特にお芋なんて小分けにしてないから100%私じゃ無理なのよ。


しかしそんな私の思い虚しく、ヘタレはウガーッ!と吠えた。


「ってか心の声ダダ漏れだからなお前!!大半は口にしちゃってんだからなお前ッッ!!!!!」


な、なんと……。

隠し事の出来ない素直な良い子がこんなところで足を引っ張るとは。


ならば仕方あるまい。


「ジョシュア」

「んだよッ!!!!」


名前を呼んだだけでこのキレ様。

器の小ささが伺い知れるというものだ。ホントにしょーもない男だ。


私はそんなしょーもないヘタレの肩にポンと手を乗せると、真正面から告げた。


「聞こえてたなら分かるよね?」

そして力を込めてヤツの肩を握り込む。



「働け」

「慰めろよッ!!!!」



「嫌よ」

「慰めろよッッ!!!!!!」



な、なんて我侭でメンドクセー男なのかしら……。

とうとう頭を抱えてウガーッ!し出したダメ男は更に大暴走を始めた。


「俺はゴボウみたいに土ん中埋められてッ!大雨に晒されてッ!クソみてぇな目に遭ったって言っただろッ!?傷ついてんだよ俺はッ!優しい言葉をかけて欲しいんだよ今はッ!!分かるだろこの気持ちッ!?ってか分かれよッッ!!」


ヤツにはヤツなりの主張があるらしい。

でもそんなん知らんし。



「働け」

「慰めろよぉぉぉぉぉぉッッッ!!!!!!!!」



「嫌よ」

「んもう、どうしてだよぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!!!!!!!!!!」



唐突にヤツが私の両肩をガシッと掴んできた。

あまりに突然過ぎて反応できなかった。どんなヘタレだろうと男の力で掴まれれば流石に痛い。


「ちょッ!何すんの――

抗議の声を上げるも、途中でヤツに遮られた。


「優しくしろよ俺にッ!!ちょっとでいいんだッ!!ちょっとだけでいいんだよッ!!!!ギュッって抱きしめて頭撫でてくれるだけでいいんだッ!!!!それだけで俺立ち直れる気がするんだッ!!!!だから頼むッ!!」

「だったらこの腕放しなさいよッ!ってかスゴく痛いんだけどッ!!」


いい加減我慢の限界だったこともありそう叫ぶと、ゆっくりと拘束する力が抜け始めた。

ズズッと鼻をすする音がした後で、ヤツが小声で聞いてくる。


「な、慰めてくれるのか……?」

「いいわよ」


だってそうでもしないと先進まなそうだし。

キラキラ光る涙目のまま、おずおずとコチラに頭を近づけてくるヤツに向かって私は釘をさすつもりで告げた。


「その代わりちゃんと働いてね?重いものとか全部お願いするからね?後メソメソするのも止めてよね?」

「ヒデェ……。もうちょっと優しい言葉とかかけらんねぇのかよ……」


鼻声でそんな不満を言いながらも、抱き寄せたジョシュアは大人しくしていた。

でもやっぱりジョシュアはジョシュアだった。


「俺ホントに怖かったんだ……」

「泣き言禁止ね」

「ヒデェ……」


お望み通り優しく撫でてやってるっていうのに、何が不満なのか。

スリスリとヤツの頭を撫でながら溜め息を吐く。


「それに私も悪かったって言ったでしょ?ちゃんと反省してるんだからねこれでも」

「だったらお前はもう少し俺に優しくするべきだと思う……」

「だから頭撫でてやってんじゃん。何が不満なのよアンタ」

「言っても泣き言禁止って言われるから今日は言わない……」


いい心がけだけど、出来れば今日だけじゃなくて今後一切言わないでくれると素敵なんだけど。

というかいつまで頭撫でてればいいのかしら。そろそろ立ち直ってくれるとさらに素敵なんだけどなぁ。


そんな事を考えていると、胸に抱いていたジョシュアの顔がムクリと起き上がる。

これ幸いに撫でるのを止めてヤツの肩を押し返そうとしたんだけど、手を伸ばした瞬間ギュッと両手を握られてしまった。ガッデム。


ヤツは私の両手をやんわりと掴んだまま、超至近距離で真面目な話を語りだした。


「俺いっぱい勉強したし、身体も鍛えたし……絶対役に立つと思うから」


だったら働け。今すぐにだ。

具体的には芋を積み、柿を積み、もろこしを積み込むのだヘタレよ。


「だから道中困ったことがあったら、真っ先に俺を頼れよ……?」


もちろんそのつもりだから安心して欲しい。

使い潰すつもりでガンガンいくよ。身を粉にして働く男性って素敵だもんね。


「俺頑張るから……」


そうかそうか。頑張れ。

ジョシュア・チョー・ガンバレ。


「だから……だから……お前は俺に優しくしないとダメなんだからな……?」

「私の優しさは成果報酬タイプです」

「!?だ、だから頑張るって言ってるだろッ!!ここは大人しく頷いときゃいいんだよッ!!」


全く。小物っぷりもここまでくると逆に天晴だよ。このダメ男め。

セコセコとそんな約束なんてせずに、思わず私が『キャーステキ!抱いて!』って言っちゃうような活躍してこそ男だろうに。


まぁいい。

超至近距離のヘタレを見つめたまま私は心の中で呟いた。


小物には小物の戦い方があるということなんだろう。

昔の人は言いました。『よかろう。ならば見せてみるといい。貴様の生き様というヤツをなぁ!』と。


そして今こそお前に送ろう。その言葉を。

私の公平なジャッジをくぐり抜け、見事成果報酬をゲットしてみせるがいいさ。


でもまぁ、差し当たって言いたい事は一言だな。


「積み込み作業が遅れてて、このままじゃいつまで経っても馬車が出せないのよね」

「……ん?」


ん?じゃないよ。


「つまりね。積み込み作業をサボってるアンタの評価はダダ下がり中ってことなんだけど……理解してるよね?」

「!?」


弾かれたように積み込み作業に戻るジョシュアを見て、思わず満足気に頷く私。

ヘタレのせいで30分くらいロスしちゃったけど、このペースなら間に合うだろう。


「そうそう、そうやって一生懸命働く男の人って素敵だとおもうわ」

「!?」


ガダッ。

ごろごろごろごろー。


…………前言撤回。

やっぱジョシュアはジョシュアだわ。


床一面に転がったお芋を真っ赤な顔でかき集めるヘタレの姿を眺めつつ、私は今日一番の溜め息を吐いた。







設定を詰め込んだ挙句に一切それには触れないという暴挙。

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