表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

秘密の花園

作者: 三月やよい

ゆったりとしたお茶の時間をイメージしました。

さらさらと刻む時が二人のタイムリミットを示しているようだ。

砂時計の水色に光る砂を眺めているとふとそんな詩的な思いが頭をよぎる。

彼女は「先生」そして俺は「生徒」・・・。

二人は陳腐すぎる表現では「禁断の関係」となる。

理科実験室での事実上俺しか部員のいない弱小部活・科学部を口実とした

逢い引きはいつも穏やかで禁断の恋人たちの逢瀬というよりも

姉と弟の休日のティータイムのようだ。

「ちょっと待っていてね。

 まだケーキ食べちゃだめよ。

 この砂時計が落ちきったら紅茶の蒸らし時間が終わるから」

俺は紅茶の抽出時間の間、向かいに座る先生・・

二人きりの時だけその名前を呼ぶことが許される

若く美しい女性を観察する。

黒目がちの大きな瞳も小振りな唇もまるで少女のようだが

白衣が包むその肢体は

(残念ながら中身を見たことはないが・・・いや、もちろん見たいよ)

確かに大人の女性であることを思わせるのに十分だ。

「今日はレモンババロアを用意いたしました」

ウエイトレス風の口調でお手製のババロアにスプーンを添えてくれる。

「ババロアを凝固させるゼラチンはアミノ酸のプロリンが豊富で・・・」

化学教師として言わずにはいられないのだろうか?

知っていたとしても使うことのなさそうな知識を彼女からはよく得る。

そんなことを話す彼女はいつにもまして目がきらきらしていて

嬉しそうだ。

「あ、あのね、お茶終わったらでいいんだけれど・・・

 届いた化学肥料を温室まで運ぶの手伝ってもらえないかなぁ?」

そんな先生が申し訳なさそうにこちらを伺う姿が愛らしい。

「今やろうか?どうせ猫舌で紅茶さめるまで飲めないでしょ?」

「いいの?結構重いよ?」

「あのね、俺のが力はあるんだよ、一応」

これかな?と俺は床に置いてあった40センチ立方ほどの

段ボールを持ち上げる。

中身な化学肥料とのことで見た目よりは結構重く感じる。

「ありがとう、段差気を付けてね」

そう言ってる本人が温室の敷居で躓いてる。

流石に温室の中は湿度が高く、入ると沢山の花々が目に付き

甘い芳香が漂う。

蘭の一種、小振りのひまわりそして濃いオレンジ色のコスモス・・・・

俺の知識だと一緒くたに「綺麗な花たち」と呼びたくなるモノだが

彼女にとっては大事な大事な宝物たち。

うっかり踏みつけたり制服に引っかけて花を落としたりしないように

慎重に段ボールを温室の奥まで運び入れる。

ぱちぱちぱち

彼女は大袈裟に拍手しながら

「すごい!ありがとぅ!!私一人だと全然動かせなくて・・」

と潤みがちな瞳で俺を見上げる。

・・・・まだ大丈夫。

時間はあるはず。

「ねぇ、じゃあお礼もらってもいい?」

理科室の方から誰か来る気配はない。

グラウンドからこの温室内は大きな椰子の木が目隠しとなって

中は見えないようになっている。

彼女はまだ俺をまるで小動物のような無垢な顔で見上げている。

「お礼に・・」

そっと右手を彼女の頬に手を添え左手をその細い肩にかかる

柔らかい髪に絡めた。

ふわりとシャンプーの香りが俺の気持ちを焦らせた。

「え・・?」

びっくりしたように大きな瞳を更に見開き身を固くする

彼女にそっと顔を近付けて・・・・

「きゃっ!」

「うわぁ!」

唇まであと15センチ!ってトコで二人の場違いな悲鳴が響く。

「・・・んもー何でこうなるかなぁ?」

彼女はびっくりして後ずさったところで

花壇の煉瓦を踏み二人してバランスを崩してしまった。

どさっ

崩れた彼女を支えようとしてバランスを崩し

その場で座り込んでしまった二人。

もうびっくりするやら残念やらで笑うしかない。

ってか笑いが止まらない。

そんな俺に釣られて彼女もまるで子供のように声をあげて笑った。

「だってびっくりしっちゃったんだもんっ急だし〜」

怒ってはいないようだ。

よかった。

どこも痛くなさそうだし取り敢えずは安心。

「あのね、そゆコトはもっとね・・・」

彼女はふと真面目な顔になり俺の頬にひんやりとした手をあて

そっと顔を近づけてくる。

ふわりと甘い髪の香りが何かくすぐったい。

あ・・・・しまった・・・・もう・・・


ばちーんっ

まるでブレーカーが飛んだような音と供に周囲が真っ暗になり

彼女もまるで楽園のようだった温室の風景と香りも

瞬時に消えてしまった。

「あーあ。

 やっぱりタイムアップかぁ・・・30分ってやっぱり短いなぁ」

あそこで転ばなければイケたのに!と一人ごちしながら

僕はヘッドフォンとモニターのついたゴーグルを外し2メートル四方の

狭いバーチャルリアリティルームからでる。

いくら座り心地のよいリクライディングシートとは言え30分

身動きせずに座っていたら多少は肩が凝るもんだなと腕を伸ばす。

さっきまで身を包んでいた高校の制服のさらさらした

ブレザーの手触りが何だか懐かしく今着ている白衣を

脱ぎたい衝動に駆られる。

バーチャルリアリティーのプロトタイプを開発者自ら体験してみたが

これは結構良い出来かもしれない。

あの世界では何だか考え方も変わるような気すらした。

普段よりも強引な自分。

レポートにその心理変化部分も加えておこう。

視覚情報はゴーグルのモニターから、聴覚は3Dサウンドを

ヘッドフォンからそして嗅覚、触覚、味覚は脳へ直接信号を送ることにより

「嗅いだ、触った、食べた」と錯覚を起こさせてあたかも体験したかのように

感じさせるプロジェクトはここ数年で飛躍的に進んだ。

このバーチャルリアリティープログラムは自閉症の治療から

対人恐怖症の改善、そしてもっと下世話なところでは性産業への

売り込みも視野に入れている。

特に性産業においてはこのソフトを購入するための初期費用は結構高いが、

客好みの相手が確実に現れるし長期的な目で見るとヒトを雇うよりも

安くなっていくこともあり新たなカテゴリーと成長するだろう。

「エロ系もそろそろ取りかからないといけないかなぁ・・」

先生の柔らかい髪の感触と甘い香りがまだ頬に残っているようだ。

プログラムの何カ所かをチェックしながら

「次は同級生にしようかなぁ・・・

 なんて先生が知ったら浮気かな、こりゃ」

そうひとりごちしながら、僕はふと思いの外自分が「先生」に

ハマっている事に気付き・・・ミイラ取りがミイラにならないといいな・・・・

とぼんやり考えた。

バーチャルリアリティの中にしか存在しない彼女は勿論実体がない。

彼女を実体化したい・・・

僕の次の研究テーマはアンドロイドにしようと決めた。

こういった「欲」が科学技術を進歩させるんだろうな・・・

僕は自分で煎れた紅茶をすすりながらもう一度モニター画面に目をむけた。

「先生が煎れてくれた紅茶の方がもっと香りがよかったな」


ジャンルを「ファンタジー」にしていいのか

悩みモノだったのですが「仮想現実」がテーマだったので

ファンタジーにしました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 この機械は、確かに自閉症などに効くかもしれませんね。 この機械、もしあれば・・・? お金があればの話ですので。 禁断の恋、と思ったら仮想機械の中の出来事、 というおちはと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ