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女王の呪い唄  作者: 西季幽司
第一部「幽霊坂からの招待状」
9/15

密室殺人④

 俺の後は隆俊叔父だ。

 応接間に戻ると、皆、不安そうな顔で俺を出迎えた。

「どんなこと、聞かれるんですか?」と美晴が尋ねてきたので、「聞かれたことに正直に答えていれば良いんだよ」と教えてあげた。

 すると、「そうですよ。変な隠し立てはしないこと。嘘をついても、警察は直ぐに分かりますから」と橋本弁護士が側から口を挟んだ。

 応接間を出ようとすると、「どこに行くのですか?」と高田涼介から声をかけられた。

「警察の事情聴取が終わっていませんから、部屋にいた方が良いですよ」と橋本弁護士からも言われた。

「二階。僕が住んでいた時の部屋があるから。この調子だと、今晩、このままだと、ここに泊ることになりそうだから。家に帰るのも面倒くさいし」

「ああ~なるほど」

「他に、誰か屋敷に泊りたい人はいませんか?」と聞くと、皆、顔を見合わせた。

「明日は日曜日だから、遅くなっても家に帰りたい」と美晴が言う。

「流石に、ここに泊るのは・・・」と高田涼介が言った。

 殺人事件があった現場に泊るなんて、どういう神経しているんだろう――ということだろう。

「二階を見て来ます」と言い残して、俺は応接間を出た。

 一旦、廊下を奥まで歩いて、二階に上がる。

 書斎の上、最も日当たりの良い場所が、志功が使っていた部屋だ。志功の前は志経が使っていたし、その前は春野駒子の寝室だった。

 たっぷりベランダのスペースが取ってあるし、バス・トイレが完備してあって、この屋敷で最も良い場所と言えた。

 長い直線廊下のお陰で階段の上が吹き抜けになっており、二階は奥で繋がっているが、二つに分かれる形になっていた。

 志功の部屋とは反対側、日当たりは悪いが、広々とした部屋が、俺が使っていた部屋だ。

 俺は自分の部屋に入らずに、志功の部屋へ行った。

 相変わらず殺風景な部屋だ。ベッドに機能的なデスクに椅子があるだけで、これといった家具がない。壁は一面、棚になっていて、ずらりと蔵書が並んでいる。そして、棚の一部が昆虫の標本専用の飾り棚となっている。蝶が多いが、カブトムシやクワガタムシなど、多種多様だ。

 子供の頃は平気で虫を捕まえていたが、年々、苦手になってくる。ずらりと昆虫の標本が並んでいる様子は、見ていてちょっと気持ち悪くなった。

 標本と見ていて、功兄の言葉を思い出した。

 クワガタムシについて、功兄が言っていた。「クワガタムシって、英語で何て言うか知っているかい? スタッグビートルって言うんだ。ビートルはカブトムシのことで、スタッグは牡鹿のことだ。牡鹿の角がクワガタムシの発達した顎に似ているからだろう。ちなみにクワガタムシのクワガタって、武将の兜の前立てのことだ。ほら、本田忠勝とか真田幸村とか、鹿の角を前立てにしていた武将がいただろう」

 正直、興味が無かった。俺は「ふ~ん」と相槌を打っただけだった。

 部屋にはベランダがあって、屋敷で最も日当たりが良い。広々としてベランダには高級リゾート・ホテルのプールサイドにありそうなパラソル付きのテーブルと椅子が置いてあった。天気の良い日に、志功が日向ぼっこをしているのを何度か見たことがある。

 ベランダに出た。庭を見下ろす。

 鑑識官だろう。捜査員が何人も庭の中を這いまわっていた。凶器のナイフを探しているのだろう。俺か隆俊叔父を犯人だと断定するには、凶器を見つけなければならない。部屋に無かったとなると、書斎の窓から庭に投げ捨てた可能性が高くなる。

 広い庭で庭木も多い。敷地を囲む壁際には背の高い木が植えてあって、隣の家に投げ込むことは不可能だろう。窓から力いっぱい投げたとしても、庭に落ちたはずだ。

 ボールではなく、ナイフだ。そうは遠くまで投げることができないだろう。

 俺たちが犯人で書斎からナイフを投げ捨てたとするなら、窓から六十度くらいの範囲で、壁際までを探せば見つかるはずだ。

 ぼんやりと、そんなことを考えながら庭を眺めていた。

 ベランダから庭を眺めていると、捜査員の一人と目が合った。俺は慌てて、ベランダから部屋に戻ると、功兄の部屋を出た。

 かつて俺が使っていた部屋に入る。

 懐かしい。俺が出た時のままだ。上着を脱いでベッドの上に放り投げた。日頃、使っていないせいか、埃っぽい。窓を開けようと手を伸ばした。

(あっ!)と俺は固まってしまった。

 シャツの袖口に血がついていた。

 しまった。これを安達に見られたのかもしれない。最後に怪訝そうな顔をしていた。袖口に血がついているのを見つけて、返り血を浴びたのではないかと、疑っているかもしれない。幸い、白いシャツではなかったので、血だと断定できなかったのだろう。

 袖口をまくってみた。

 怪我をしていた。

 何だ。俺の血だ。何時、何処で怪我をしたのだろう。全然、気がつかなかった。痛みさえ感じなかった。何処かで引っ搔いたようで、浅手だが、ざっくりと切れていた。

 功兄の部屋に、救急箱があったはずだ。俺は功兄の部屋に向かった。

 功兄の部屋に向かうには、吹き抜けのお陰で、部屋を出て、一旦、屋敷の奥へ向かい、ぐるりと回り込む必要がある。

 功兄の部屋で救急箱を探した。あった。棚の一番、下の段が引き出しになっていて、そこに救急箱が仕舞われていた。

 消毒をし、絆創膏を張って、応急処置を施した。

 傷口の処理を終えた時、庭が騒がしいのが気になった。

 ベランダに出た。

 捜査員がひとかたまりになって、地面を見つめていた。鑑識官だろう、一人の捜査員が蹲って、何かやっている。

――足跡だ!

 地面に残っていた足跡を採取しているのだ。

 このところ、雨は降っていないが、マメな功兄のことだ。休日だった今日は、朝から庭で水まきをしていたとしても不思議ではない。だが、庭に侵入者がいれば、その足跡が残っていても不思議ではない。

(足跡・・・そんなもの、気にしていなかった)

 むくむくと心に不安が心に広がって行った。

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