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女王の呪い唄  作者: 西季幽司
第一部「幽霊坂からの招待状」
8/12

密室殺人③

「どなたか良い人はいなかったのですか?」

「さあ。僕の知る限り、いなかったと思います。それに天音さんがいますから」

「天音さん?」

「菅野天音。今日も来ています。近所で開業している女医さんです。腕は今一つですけど、あの美貌を武器に経兄の時代から、がっちりアゼリに食い込んでいます。会社指定のクリニックになっていて、従業員が大勢、通っています。功兄も熱を上げていたみたいですが、天音医師、そこは適当にあしらっていました」

「死亡確認をしてくれた女医さんですね」

「最近のことは、高田さんたちの方が詳しいかもしれません」

「高田さん?」

「高田涼介さん、香織さんご夫妻です。香織さんは父の別れた前の奥さんの子供、腹違いの姉に当たります。旦那の涼介さんはアゼリの常務取締役で、功兄の部下になります」

「別れた奥さん? 春野駒子さんと死別された訳ですから・・・」

「父は三度、結婚しています。最初が温子さん。香織さんのお母さんです。次が春野駒子、春野駒子と結婚する時に、温子さんと香織さんを捨てた訳です。そして、最後が僕らの母、久美です。その久美に父は捨てられた。因果応報ってやつですかね。そのとばっちりを食ったのが、我ら三兄弟ですけど」

「なるほど。理解できました」

「父は艶福家だったのに、息子は三人揃って女気無しですからね。泉下で父は嘆いていることでしょう」

「今日、皆さま、お集まりなのは、何かあったのですか?」

「それが、妙な話ですが――」と俺は皆が集まった経緯を説明した。

 志功から連絡があった。大事な話があるので、今日の午後二時に、侍従屋敷まで来て欲しいという内容だった。

「で、その大事な話というのは?」

「それを聞く前に殺されたのです」

「ふうむ。なるほど。となると、その大事な話というのが、志功氏殺害の動機となった可能性がありますね」

 おや⁉ なかなか鋭い。

「どういう話だったのか、あなたなら分かるのでは?」

「会社を辞めるつもりだったのではないかと思います」

「会社を辞める?」

「常々、自分は会社経営に向いていないと言っていました。兄は昆虫採集が趣味で、希少な昆虫を求めて世界中を旅したいというのが夢でした。その夢を実現したかったのでは?」

「だとしたら、何故、殺されなければならなかったのでしょうか?」

「分かりません」

「そうですか。それで、本日、お集まりだったのは、弟であるあなたと高田夫妻、それに菅野天音医師、後の方はどなたです?」

「身内では隆俊叔父、あの小うるさい横柄な男です」

「手厳しいですね」

「父の弟ですけど、それだけの人物です。経営の才能がある訳でもないのに、父のコネで子会社の社長を任されています。それを感謝すべきなのに、文句たらたらですよ。自己評価が高すぎるのですね」

「はは。他には?」

「窪田美晴。春野駒子の妹の子供です。叔母の血を継いでいるので、美人でしょう。性格も良い。芸能界が放っておかないようで、いくつも誘いがあるそうです。血のつながりはありませんが、従妹に当たります。父と経兄が可愛がっていたので、ずっと親戚付き合いしています。後は阿舎利家の顧問弁護士の橋本さんです」

「顧問弁護士がいるのですね?」

「まあ、一応。名家の端くれですからね」

「それで、志功氏を殺したのは誰でしょうね?」

 おおっ! どストレートな質問だ。

「さあ?」と誤魔化した。

「志功氏に恨みを持っていた人物はいませんか?」

「ああ、それなら隆俊叔父ですね」

「隆俊氏が志功氏に恨みを持っていた?」

「さっき言った通り、隆俊叔父は経営の才もないのに、口だけは達者だ。余計なことを言わずに、社長でございと座っていれば良いのに、色々、やりたがる。会社の帳簿に大穴を開けたことがあるそうです。それで、隆俊叔父の進退については、功兄預かりとなっていました。功兄に隆俊叔父の首を切って欲しいということでしょうね。功兄以外、誰も隆俊叔父の首は切れないでしょうから」

「社長を辞めさせられる前に志功氏を殺害した――という訳ですね」

「そうは言っていませんが、そう考えることが出来るでしょうね」

「他には?」

「高田さんだって、功兄に首を切られては大変でしょう。天音医師にしても、会社の指定病院から外れると、収入が激減してしまうでしょう。それは橋本弁護士だって同じはずです。僕と美晴くらいじゃないですか。損得関係がないのは」

「そうですか?お兄さんが亡くなれば、莫大な遺産を相続できるのではありませんか?」

 ああ、鋭い。

「遺産? それは考えていなかったなあ~」と答えたが、白々しかったかもしれない。

「一階の廊下に防犯カメラがあることはご存じでしたか?」

「ええ、知っていました。夜中に足音がすると言って、功兄が付けさせたものです。足音なんて、気のせいだって、僕も言ったのですが、そんなことない! と功兄に血相変えて言われました」

「おやっ⁉」と安達が声を上げた。

「どうしました?」

 安達に尋ねたが、「いえ、何でもありません」と答えた。

 何か気づいた様子だったが・・・

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