8 悪役令嬢と約束
今日はベアトリスがアリシアを連れて実家に帰っている。アルフレッドも仕事に行ってしまった。
私は迷ったがセシルの所に行ってみることにした。
コンコンっとノックをする。
「セシル?パトリシアよ」
返事は聞こえない。
もう一度ノックをしようとした瞬間
「はっ、はい」
少しだけ開いた扉の隙間から、ビクビクと怯えたセシルが見えた。
「もし良ければなんだけど、一緒に来てほしいの」
「分かりました」
俯いて怯えた顔のまま私の斜め後ろを歩くセシル。
「屋敷は広いから手を繋ぎましょう」
私は手を差し出す。セシルはビクッとしたが、私の手を掴んだ。セシルの手は冷たくて小刻みに震えていた。
私は庭園に向かった。
「ここよ」
セシルはキョロキョロと辺りを見渡しビクビクしていた。
「綺麗でしょ、私のお気に入りで大切な場所なの」
「…あの、それで僕は、何をしたら」
セシルが口を開いた。余程酷い目に遭ってきたのだろう。
「そうね、じゃあここで深呼吸しましょう」
「深呼吸?」
「そう、花の香りってリラックス効果があるの、一緒にやりましょう」
セシルは戸惑いながらも、私と一緒に深呼吸する。
「セシル、良いものがあるの」
私はアンナからおやつにと貰っていたクッキーを見せた。
「一緒に食べましょう」
セシルは私の顔とクッキーを交互に見る。
「美味しいわよ」
私は1枚食べてみせる。それでも不安そうな顔をしているセシル、仕方ない
「ほら、あーん」
一枚取って、セシルの口元に持っていくとようやく口を開けた。
「美味しい…です。」
「ふふっ、良かったら全部食べて」
「でも…」
「私はもうお腹いっぱいになっちゃったから」
そう言うと、セシルはクッキーを見る。
「ありがとうございます。」
セシルは無心でクッキーを食べている。
「私ね、セシルと仲良くなりたいなって思ってたの」
セシルの視線が私に向く。
「でもね、無理にとは言わないわ。ただ、今日みたいに一緒にお菓子を食べるだけでも良い、それだけは許してくれない?」
「……はい」
「ありがとう、せっかくだからもう一つ見せたいものがあるのだけれど」
私が手を差し出すと手を掴んでくれた。
私は、パトリシア専用花壇に連れてきた。
「ここね、ちょうど屋敷の窓からは死角になってるの」
私の発言でセシルは身体をビクッとさせた。
死角って言ったのが悪かったんだろう。
「大丈夫よ、あなたに何かするわけじゃないから」
ここは、小説でパトリシアが悲しい事があった時に来る場所だった。
「私ね、悲しい事があったときよくここで泣いていたの、お父様達には内緒で」
私は泣いてないけど。
「何で、僕をここに?」
「あなたが今にも泣きそうだったから」
私はセシルの手を離し、セシルの前に立つ
「だから、ここで好きなだけ泣きなさい」
セシルは一瞬固まったが、徐々に瞳が揺れる
「うわぁぁぁん」
私はセシルをそっと抱きしめ、背中を擦る。
「大丈夫、大丈夫よ。ここにはあなたを傷つける人はいないわ」
「それに、そんな人がいたら私がやっつけてやるわ」
セシルがスンスンと鼻を鳴らす。私はセシルから離れ、ハンカチでセシルの顔を拭いてあげる。
「今日のことは2人だけの秘密だから」
セシルが頷く。
「約束よ」
小指を差し出し、指切りをした。
セシルが落ち着いた後、仕事から帰ってきたアルフレッドと3人で夕食を食べた。




