49 悪役令嬢のおねだり
「お父様、お願いします」
私は今、お父様の書斎にいる。
「うーん、そのダリルさん?よりも騎士としての実戦経験がある人に護衛をしてもらったほうが安心じゃないかな?」
それはお父様の意見が正しい。私もアリシアやセシルに護衛をつけるなら、実戦経験豊富で強い騎士をつける。
「それはそうですが、護衛でなくてもせめてフローレス騎士団に入れてあげられませんか?」
「パトリシアは余程彼のことを気に入ったんだね。でも実力を見てみないと何とも言えないかな」
確かに、今のダリルの強さは分からない。やっぱり難しいよね。私が少し俯くと、お父様は一息ついて
「パトリシア、僕は実力を見てみないとって言ったんだよ」
と言った。と言うことは実力次第では騎士団に入れてあげられるってこと?
「親衛隊隊長ランドルフに一本取れたら認めてあげる」
…無理かもしれない。でも、やってみるに越したことはない。
なんだかんだお父様は私に甘い、いやアリシアやセシルにも平等に接しているから、私だけというわけではないか。
「お父様ありがとう」
私は立ち上がり、お父様の隣に座る。
「パトリシア、君は僕の自慢の娘だよ」
お父様が頭を撫でてくれた。
「ガーネット伯爵から聞いているよ。パトリシアが薬作りに協力したおかげで村を救ったってこと」
え?お父様とフランクさんって知り合いなの?
「お父様はガーネット伯爵とお知り合いなんですか?」
「少しね」
気になったが深くは追及できない雰囲気だった。
「パトリシア様と馬車に乗れるなんて、おとうしゃまは幸せです」
「いい加減『おとうしゃま』って言うのやめてくれませんか」
ランドルフ隊長は、まだおとうしゃまと呼ばれたことをネタにしている。
「すみません、つい」
「はぁ」
私達は今、ダリル達が住んでいる村へ向かっている。ダリルの実力を試すために。
村に着くとこの前ほどの賑わいはないが、子供たちの元気な声が聞こえる。
「あ!!この前のお姉ちゃんだ」
「本当だ」
子供たちが私に駆け寄ってきた。
「ダリルに会いに来たの?」
「ええ、そうよ。どこにいるかわかる?」
「近くにいるから呼んでくるね」
と言って子供たちは走っていった。子供は元気だな…
「随分と懐かれてますね」
後ろにいたランドルフ隊長を見ると、男の子達に蹴られたり、よじ登られたりしていた。
「ランドルフ隊長もなかなかですね」
「お姉ちゃん、ダリル連れてきたよ」
「遅くなってすみません」
「いきなり来てしまってごめんなさい」
「お会いできて嬉しいです」
私とダリルが話し始めると子供達は蜘蛛の子を散らすように走ってどこかへ行ってしまった。
「ほう、それなりに身体は鍛えているようだな」
ランドルフ隊長がダリルをまじまじと見る。
「彼はフローレス騎士団の…」
「パトリシア様の『おとうしゃま』兼親衛隊隊長ランドルフ=ウィンストンだ」
私の説明を遮るようにランドルフ隊長が名乗り始めた。
「おとうしゃま?はっ、娘さんには大変お世話になりました」
ダリルが深々と頭を下げる。
「ダリル、彼は私の父ではありませんから」
「え?」
「今日はお前の実力を試しに来たんだ。お前がパトリシア様に相応しい男なのかを」
「…分かりました。お手合わせ願います」
二人は私の存在を忘れ、突然気合が入ったようで準備運動をし始めた。
ランドルフ隊長が持ってきた、訓練用の剣を持った二人は睨み合いを始める。
「パトリシア様、合図を」
ランドルフ隊長に言われ、手を振り上げる
「始め!!」
体格差もあり、ダリルが押されているもののなかなかの実力だ。
「ダリル!!頑張って」
私の声が聞こえたのか、ダリルの剣を握る手が強まった。
ダリルとランドルフ隊長が何かを話しているようだが、切り合う音で何を話しているかは聞こえない。
数十分たった頃、ランドルフ隊長の動きが止まった。
「もう充分だ」
ダリルは肩で息をしているが、ランドルフ隊長はまったく呼吸が乱れていない。
お父様は、ランドルフ隊長に一本取れたら認めると言っていた。多分…ダメだったようだ。
「ダリル、お前を認めよう」
「「え?」」
私とダリルの声が重なる。今認めるって言ったの?
「ダリル、良かった…本当に良かった」
私は思わずダリルに抱きついてしまった。
「ぱ、パトリシア様、その今は汗をかいていて汚いですから」
「後日正式に迎えが来る。それまで鍛えておくことだ」
ランドルフ隊長は、ダリルに抱きついていた。私を小脇に抱え馬車へとズンズンと歩き始めた。
良かった。これでダリルを近くで見守ることができる。




