48 悪役令嬢は感謝される
今日はダリルの住む村へ向かう。もちろんアンナとフィルも一緒だ。
「パトリシア様、お待ちしてました」
ダリルが出迎えてくれた。村に入ると何やら催し物をしているのか賑わっていた。
「あの方が…」
「ダリルの言っていた」
本人達は聞こえないように話しているつもりだろうが、普通に聞こえている。
「パトリシア様、あなたのおかげでうちの村は助かりました。本当にありがとうございます」
恐らく村長だと思われるご老人が挨拶に来た。
「私は特に何もしていません。薬を作ったのもガーネット伯爵ですし…」
「いえ、パトリシア様おかげです。何もないところですが、ゆっくりしていってください」
村長さんが話し終えると、私はどんどんと村の人達に囲まれてきた。生まれて初めて沢山の人に感謝された。
アンナとフィルに目をやると、微笑ましそうに私を見ている。
「へぇー、あんたがダリルの話してた天使みたいなお嬢さんか」
いつの間にか私の近くに、ダリルと同年代の茶髪に緑色の瞳の青年がいた。
「バカ、余計なことを言うな…」
ダリルは取り乱しながら、青年の背中をバシバシと叩いている。
「パトリシア様すみません。こいつはリック、俺の友人です」
「どうぞよろしく」
「よろしくお願いします」
私はリックが差し出してきた手を握る。
「じゃあ俺が案内するからついておいで」
と握っていた手を引かれる。
村を案内してくれると言っていたのに、人気のない所に連れてこられた。
「あんた貴族なんだろ、何が目的だ」
リックは私を睨みつけてくる。武器は持ってなさそうだし、それなりに距離はあいている。何かしてくるわけではなさそうだし、私はリックの目を見て応える。
「目的なんてないわ」
「嘘をつくな、お前たち貴族はいつもそうだ…」
リックは貴族に何かされたのだろうか、先程までのフレンドリーな感じとは打って変わってすごい気迫だ。
「本当よ、本当にたまたま道で倒れていたダリルを見つけて、この村で謎の病が流行っていると聞いただけ」
「何故、初対面の素性の分からない男のために?目的があるんだろ」
「はぁ、目的ね。強いて言うなら」
「ほら、やっぱりあるんだろ」
「私が婚約を解消されたときにここの村に住ませてほしいとかかしら」
ここの村の人達は優しそうだし、厄介者扱いはしないだろう。
「は?」
「だって婚約解消された女性は社交界では笑いものよ、一生後ろ指を差されながら生きていくのよ。それなら平民になって自給自足して暮らしたいのよ」
私が熱弁すると、リックは目をパチパチとしたあと吹き出した。
「あんた面白いこと言うな、あんたみたいな子と婚約解消したがるなんて見る目ない奴だな」
「相手の子はとても可愛い子だから仕方ないわ」
だから、カイルの見る目は間違いない。
「ふーん、じゃあ本当に婚約解消されたときはうちに来な、たっぷりこき使ってやる」
頭をガシガシと撫でられる。痛くはないが、髪がボサボサだ。
「おい、リック何やってんだ」
ダリルが私とリックの間に立つ。
「何って、ちょっと口説いてただけだけど」
「くどっ…お前はもうあっち行ってろ。俺が案内する」
口説かれてたというより、脅されてたのほうが近いような…まあいっか
ダリルから村を案内してもらったあと、私達は少し休憩をすることにした。私が丸太に腰を下ろそうとしたら、ダリルが慌ててハンカチを敷いてくれた。
「パトリシア様は林檎は好きですか?」
「ええ好きよ」
私がそう言うとダリルは木に登り、林檎を一つ持ってきた。
「今剥きますね」
慣れた手つきで林檎の皮を剥く。果物ナイフ常に持ち歩いているのかな?
「ありがとう」
「パトリシア様は何故、俺を助けてくれたんですか?」
リックもそうだが、貴族が平民を助けるのがそんなに珍しい事なんだろうか?
「そうね、あなたを救ってあげたいって思っただけ」
嘘はついていない。小説を読んだときから幸せになって欲しいって思ったのは本当だ。
「そう…ですか」
ダリルが顔を赤くして俯く。話しを変えよう。
「あなた剣の稽古をしているの?」
「何で分かったんですか?」
「手のひらを見てなんとなく」
私も剣の稽古を始めたばかりの時は手に豆ができた。ダリルの手にはいくつか豆ができていた。潰れているのもあった。
「あなたが私の護衛騎士なってくれたらいいのに」
私がそう呟く。これは私の我儘だ、ダリルは平和になった村でこのまま平穏に暮らせる。
「え!?俺が…いや、そのでも、平民だから無理ですよ」
「あなたは騎士になりたい?」
私がダリルを見つめると、ダリルが立ち上がる。
「なりたいです。俺はパトリシア様を守れる騎士になりたいです」
「分かったわ、私もあなたに側にいてほしいの」
側にいてくれれば、悪い方には進まない。
私はまたお父様におねだりをすることにした。




