アリシアの刺繍
私はエリーゼ=ブライス。両親に愛され、綺麗なものに囲まれて育てられた。そんな私は今、とんでもなく醜悪なものに囲まれている。
「…これは何?」
兄様の付き添いで、フローレス邸に遊びに行く事が増えた。その度私はアリシアの部屋に招待される。
「いぬさんです」
アリシアは自身満々にハンカチを広げて私に見せる。
「犬というよりも…コウモリ?いや悪魔に見える」
何故犬を刺繍するのに、黒と紫を使ったんだろう。
「悪魔!?あんまりです」
アリシアがムスッとした顔で言う。
「ごめん、でもいつまで経っても上達しないんだもん」
アリシアはパトリシア様にプレゼントしたいからと刺繍を頑張っている。私が遊びに来る度、刺繍をしている。その間は私の話しを聞いてくれるし、暇はしていない。
ただ、アリシアは口を開けばパトリシア様の話ししかしない。別に気にはしてないけど、よく話題が尽きないなと思う。
「ねぇ、アリシア刺繍する前に絵を描いてみたら?」
私がそう言うと、アリシアはハッとしたあとペンを持ってきた。アリシアは下書きをせずに刺繍する。先に軽く下書きをしておけば上達すると思う。
「どうですか?」
アリシアは描いた絵を見せてくれた。私は理解した、アリシアは刺繍が下手なだけではない、絵が下手なんだと。でもこの事実をどう伝えるべきか子供の私には分からなかった。
「うん、下手だね。悪夢を見そう」
その後、アリシアは狂ったように絵を描き始めた。何を描いても化け物のような絵しか生まれなかった。
そろそろ私も精神が狂いそうになってきた。
「アリシア、私に良い考えがあるの」
「というわけで、兄様このハンカチに可愛らしい動物の絵を描いて」
「何がというわけでだよ、そもそも何で俺が」
私は兄様の部屋にいる。ノックと同時にドアを開けるのはいつものことだからか、何も言われなくなった。兄様は読んでいた本を閉じて文句を言ってきた。
「これは兄様のためでもあるの」
「どういうこと?」
兄様は不機嫌そうにこちらを見る。
「このハンカチはパトリシア様に贈るためのものなの」
「ふーん」
食いついてきた。バレバレなのに、さっき閉じた本をパラパラめくって誤魔化している。
「それで、これがアリシアの刺繍と絵」
私はアリシアから借りてきた物を見せる。
「……うわぁ」
兄様は小さく呟いた。
「ね、悪夢を見そうでしょ」
「確かに、これをパトリシアに贈るのはあまりにも……酷すぎる」
「でしょ、だから絵が上手な兄様に頼んでるの」
お世辞なしで、兄様の絵は上手い。
「俺は別に良いけど、アリシアは良いのか?パトリシアに贈るハンカチを俺が下書きして。」
「アリシアには伝えてあるから大丈夫」
そこはちゃんと聞いた上でお願いをしに来た。
「可愛らしい動物って何だ?」
兄様がうんうんと唸っている。
「パトリシア様に合いそうな動物にすれば」
「…ふふ、じゃあ猫かな」
兄様は、当然笑い出した。パトリシア様=猫の意味が分からないけど、アリシアよりはましなことを言ってくれそうだから聞いてみた。
「パトリシアは独立心が強いし、意外と好奇心旺盛だし。それに…」
「長くなりそうだからもういいや」
ちなみに一つに絞れてなかったアリシアは
「お姉様はことりさんのように綺麗な声で、うさぎさんのように愛らしくて。あ!毛虫に怯えていた姿はリスさんみたいで……」
と長々と語っていた。
「はい、これで良いだろ」
「流石、兄様こういう時だけは頼りになる」
「こういう時だけは余計だ」
そんなやりとりをした二日後、私は兄様が下書きしてくれたハンカチをアリシアに渡した。
いつもは完成したものを見ていたけど、今回は刺繍する様子を見守った。見られて緊張しているのか、アリシアの手は少し震えていた。
「できた」
上手な下書きがあったおかげか、不格好ながらも今まで見た中で一番上手な刺繍ができていた。
「すごい、アリシア頑張ったね」
「ありがとうエリーゼ」
完成してすぐにアリシアはパトリシア様の所へ渡しに行った。私はアリシアの部屋で待っていたんだけど、戻ってきたアリシアの顔を見たら一目で分かった。
「お姉様、とても喜んでくれました」
パトリシア様よりアリシアの方が喜んでいるのでは?と思うぐらいの笑顔だった。
「それとこれ、お姉様からお礼にと」
私はアリシアから小さな包みを受け取った。
アリシアが話したのかは分からないけど、パトリシア様から手作りのクッキーを頂いた。
兄様が貰っているかは、分からないけど。まあ、嬉しそうだから貰ってるはず。
私と兄様が好きな胡桃の入ったクッキーを




