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35 悪役令嬢は王宮へ行く。

私達は、王宮へ向かっている。カイルと会うのは3ヶ月ぶりになる。

「緊張します」

アリシアが私の腕にしがみつく。

「大丈夫よ、手を握っていましょう」

「それにしても、カイル様は何故僕たちを王宮に招待したんだろうね」

セシルの言葉に私はうんうんと頷く。当分会えないんじゃなかったのか。

「見えてきたわね」

私は初めて来たが、パトリシアの記憶を頼らずとも分かる。あの絢爛豪華な建物、本物のお城だ。

「すごい、すごいですねお姉様」

「そうね」

アリシアはお城が目に入った途端はしゃぎだした。そういえば王子様とかお姫様の出てくる物語が好きだったな。

「あれ、エレノアじゃない?」

「エリーゼとエリオット様も」

招待されたのは私達だけじゃなかったのか、少しホッとした。


「パトリシア様」

エレノアが駆け寄ってきた。

「俺達は何で招待されたんだろうね」

エリオットも同じようなことを思っていたんだ。実際このメンバーで揃ったのは、カイル主催のお茶会以来だ。そんなことを考えていると

「みんな、よく来てくれたね」

カイルがやってきた。

私達は挨拶もそこそこにカイルについてお城に入る。案内された部屋には、ライトブラウンの髪色にブルーの瞳の女性がいた。

「いらっしゃい、カイルと仲良くしてくれてありがとう」

そう言って優しく微笑む女性は、おそらくカイルの母親つまり王妃様だ。

「あらあら、パトリシア随分と美人さんになったわね」

え?私のことを知ってるの?いや、息子の婚約だから知ってても当然なのか?でも会ったことはないはず。私は思考をぐるぐる巡らせていると

「あなたが赤ちゃんのとき以来だから当然よね」

王妃様がころころと笑う。どうりで記憶に存在しないわけだ。そんなことより、何故王妃様の部屋に案内されたんだろう?

「あなた達を呼んだのはねこの子を見せたかったの」

王妃様が私達を手招きする。そこにはベビーベッドがあった。ベッドを見るとホワイトブロンドの髪にアメジストの瞳の赤ちゃんがいた。

「私の息子、第二王子のシャルルよ」

まあ、外見からしてそうだろうとは思っていた。それにしても、ふくふくとしたほっぺたとちぎりパンのような手足が可愛い。

「可愛い」

思っていたことが思わず口に出してしまった。

「でしょう、シャルルは小さいときのカイルに本当にそっくりなのよ」

王妃様は懐かしむように笑う。

「リーゼロッテ王妃様少しよろしいでしょうか」

申し訳程度にノックをした侍女がやってきた。

「ごめんなさいね。カイル、シャルルを見ててもらえる」

「はい」

王妃様が部屋から出たあとも私達はベビーベッドを囲む形でシャルルを見ていた。

「カイル様にもこんな可愛らしいときがあったんですね」

エリーゼが刃に衣着せぬ物言いをすると、エリオットがエリーゼを諌める。エリーゼの言葉にカイルは黒い笑みを浮かべてた。そんなことお構い無しでアリシアが追い打ちをかける。

「ときの流れとは残念ですね」

少し哀れみを含んだ表情をしている。

「君たちもこの頃は可愛かったってことだよ」

相変わらず黒い笑みを浮かべているカイルと目が合った。

「パトリシアは今も可愛いよ」

と微笑まれる。この年齢でこんな事を恥ずかしげもなく言えるのはすごいな。

「…ありがとうございます」

私はどういう反応をしたらいい良いのか分からず目を逸らす。

「ごめんなさいね、庭にお茶を用意してもらうから皆で行きましょう」

王妃様が戻ってきた。侍女の案内で庭に行くところを、私とカイルだけ王妃様に呼ばれた。

「パトリシア、あなたは本当に立派になりましたね」

私は王妃様に抱きしめられる。どこか懐かしいような、心地良さに心がじんわりと温かくなった。

「きっとエリザベートも喜んでいるわ」

エリザベートと聞いて少し驚いた。王妃とエリザベートは交流があったのか。そういえば、赤ちゃんだったパトリシアを見たことがあるといっていたな。

「カイルをよろしくね」

王妃は私の腕を撫で、手を握ると慈悲深い笑みを浮かべる。

「はい」

私は思わずそう返事をしてしまった。しまったと後悔をしてももう遅い。

「カイル、あなたは素敵な子を婚約者にしましたね」

「はい、自慢の婚約者です」

カイルは嬉しそうに笑う。そう言ってるのも、きっと今だけだろう。そのうちアリシアの魅力に気づいて、婚約を解消されるはず。

「さぁ、二人も行ってらっしゃい」

私とカイルは王妃様に見送られながら部屋を後にした。

「パトリシア、遅くなってしまったけど。あの日、君を守れなくてごめんね」

カイルが頭を下げる。カイルのせいじゃないから気にしなくて良いと、手紙でも書いたはずなんだけどな。

「顔を上げてください、カイル様」

「私はこうして無事にあなたに顔を見せることができています。それに傷痕も、カイル様が贈ってくださった薬のおかげで少しずつ薄くなってきています。だから、本当に気にしなくて大丈夫ですよ」

私はそう言って笑う。あわよくば、円満に婚約解消をしてくれれば。

「パトリシアは本当に優しいね」

カイルは突然、私を抱きしめてきた。

「でもね、大切な人が気づく姿は見たくないんだ。今の私では難しいのは分かっているけど…それでも、大切なパトリシアは私の手で守らせてほしい」

カイルは少し震えている。パトリシアを失うのが怖かったのだろう。でも、こんなにパトリシアを愛していたのによくあんな酷いことができたよね。まあ、私は小説のパトリシアのようにアリシアをいじめてないから、どうなるかは分からないけど。とりあえずお礼だけ言わないと

「ありがとうございます。カイル様」

そう言って、そろそろ離して欲しいという意味を込めて背中ポンポンと叩く。しかし伝わらなかったのか、抱きしめる力が強くなった。

「苦しいです」

私の言葉でようやく離してくれた。

「ごめんね、そろそろ行こっか」

カイルは少し照れたように頬を掻く。そして、何故かエスコートをされながら庭に向かった。


私は屋敷に帰った後考えた。小説には第二王子なんて出てこなかった。いや、出てこなかったと言うより死んでいた、産まれる前に。王妃様が何者かに毒を盛られ、母子共に危険な状態だったのを王が「全てを癒す力」で王妃のみを助けた。

私とカイルが狙われた事で、二人が助かったということなのかな?まだ分からないけど、とりあえず何かあったときのために色々と備えておかないと。


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