31 悪役令嬢は真実を知る。
傷口の抜糸が終わり、熱も引いた頃。ブライス兄妹がやって来た。
「パトリシア、怪我の具合は?」
エリオットは数冊の本を手土産に、エリーゼはお見舞いにと、花束を持って。
「ありがとう、だいぶ良くなったわ」
実際は動かすと痛いけど。それにしても色んな人に心配をかけてしまったな。
「私、あのときアリシアと一緒に引き止めていたらって後悔しました。」
エリーゼは申し訳なさそうに俯く。
「エリーゼの気にすることではないわ」
「エリーゼ、パトリシアもこう言ってるんだから、気にするな。アリシアのところにでも行ってきな。」
「…兄様」
「きっと、アリシアも会いたがっているわ」
「はい、パトリシア様お大事に」
エリーゼはお辞儀をすると、部屋を後にした。
「パトリシア、少し話があるんだけど。」
エリオットが小声で話し、アンナに目をやる。
要するにあまり聞かれたくない話なのだろう。
「分かったわ。アンナ、申し訳ないのだけれど少し席を外してもらえる」
「…かしこまりました。もし何かありましたらすぐにベルをお鳴らしください。」
「ええ、ありがとう」
アンナが部屋から出ていく。
「それで話しって?」
エリオットをベッドの近くの椅子に座らせる。
「…あの日のことって覚えてる?」
あの日ってことは、狩猟大会のことか。
「途中で意識を失ってしまったから、少しだけど」
「そっか、それで怪我をすることになった経緯は覚えている?」
怪我をすることになった経緯って、あれは事故だし。
「えっと、確か森の近くでカイル様とお話しをしていたら流れ矢が飛んできて…だから、ただの事故よ」
エリオットは私を真剣な顔で真っ直ぐ見つめる。
「…パトリシア、あれは事故ではないんだ」
私はエリオットの言葉に耳を疑った。
「…どういうこと」
事故ではないってことは誰かに狙われていたってこと?
「あの時何かおかしなことはなかった?」
「おかしなこと?そういえば、矢が飛んでくる前に何か光ったような」
でも、何が光ったかまでは分からなかった。
「それって森の方へ向けて光ってた?」
エリオットは口元に手をやり、考えている。
「確かそうだったわ」
もしかしたら、何か装飾品が反射してただけだったかもしれないけど。
「パトリシアの近くにはカイル様の他に誰かいた?」
誰かって、カイルの護衛騎士しかいなかったような。
「…カイル様の護衛騎士が一人」
カイルが戻ってきてすぐはもう一人いたが、国王陛下へ報告に行った。
「その護衛騎士と、矢を放った奴は裏で繋がっていたんだ」
「カイル様が狙われていたってこと!?」
言われてみればあのときの護衛騎士はカイルを守ろうともしなかった。そもそも私が気づけた矢を護衛騎士が気づけないはずがない。
「……それもそうだけど」
エリオットが少し視線を下に落とした。
「それもそうって」
「…パトリシア、君も狙われていたんだ」
私は一気に血の気が引いた。
「何で、私も…」
「君がカイル様の婚約者だから」
そっか、婚約者だからか。って納得いかないでしょ。カイルに殺される前に他の誰かに殺されそうになるなんて。
「ねぇパトリシアは、レッドフォード公爵家は知ってる?」
レッドフォード?そんなの小説には出てこなかった。まあ、エリオットも出てきてないけど。ってことは、フローレス公爵家、ブライス公爵家以外にも公爵家があったってこと!?
「知らないわ」
「説明するね、フローレス公爵とブライス公爵は臣民公爵なんだけど、レッドフォード公爵は王族公爵。つまり、国王陛下の親族なんだ。」
「レッドフォード公爵家は二人子供がいる、ご子息とご令嬢。」
「そうなのね。でもそれが何か…まさか」
カイルが死んだら、第二王位継承者に継承権が移る。それを狙って…
「あれ?でも、私が死んでもカイル様が生きている限り王位継承者は変わらないんじゃ」
「違うよ。もし君が死んでいたら、娘をカイル様と婚約させるつもりだったんだよ。だから、あいつらは…あいつらは、君でもカイル様でもどっちでも良かったんだ。」
エリオットの語気が強くなった。瞳から溢れた涙が頬を伝った。
「ごめん、俺が泣くのはおかしいよね」
エリオットが袖で涙を拭う。私はエリオットの手を握る。
「ううん、エリオットは本当に優しいのね。」
「…そんなことないよ。それにこの話も、父さん達が話していたのをこっそり聞いたんだ。君に伝えるか迷ったんだけど…多分君の耳に入ることはなさそうだったから。」
エリオットは俯く。
「大丈夫。私は何も知らないふりをするから。教えてくれてありがとう」
「パトリシア、俺は君の味方だから。頼りないと思うけど」
エリオットが頬を掻く。
「頼りにしているわ」
まさか小説と関係のない所で、殺されかけるなんて。それにしても、レッドフォード公爵も言ってくれれば婚約者の座なんて譲ったのに。




