30 悪役令嬢は傷を負う。
身体が熱い、腕が痛い。そっか、私あの時カイルを庇って怪我をしたんだ。
喉が、喉が渇いた。身体が重くて起き上がれない。
「…水」
私はベッドサイドテーブルに置かれた水に手を伸ばす。
「お嬢様、お目覚めになられたのですね」
アンナは私の背中にクッションを置き、私の身体を起こすと、水を吸飲みを使って飲ませてくれた。
「ありがとう」
私はアンナにお礼を言うと
「本当にご無事で良かった。」
アンナは唇を震わせ、涙を流した。
「ごめんね、アンナ」
「お嬢様は悪くないです。でも、無茶はしないでください。」
アンナは私の右手を強く握る。私はアンナの手に左手を重ねようとした。
「痛っ」
そうだ怪我してたんだった。
「大丈夫ですか?傷口が開いたんじゃ、少し見せてください。」
アンナは袖で涙を拭うと私の服を脱がせようとしてきた。
「大丈夫よ」
「縫合が取れてるかもしれません!」
縫合?そんなに深い傷だったの?
「縫合は取れてませんでした」
アンナが傷口を見てくれた。
「良かった」
私は傷口を見てもらうついでに、身体を拭いてもらった。
「さっぱりしたわ、ありがとう。」
「いいえ、そろそろ旦那様達をお呼びしますね」
アンナは部屋を出ていった。
アルフレッドとベアトリスが部屋へやって来た。慌ててきたようで息が上がっている。
「パトリシア…良かった」
アルフレッドは私の頭を優しく撫でる。アルフレッドの顔は少しやつれているように見える。
「目が覚めて本当に良かったわ」
ベアトリスは私の頬撫でる。ひんやりとして気持ちが良い。
「心配かけてごめんなさい」
私は申し訳なくて俯く。
「心配なんていくらでもかけて良いのよ、あなたが無事ならそれでいいの」
実の娘じゃなくても、こんなに思ってくれるなんて。
「失礼します。旦那様…」
従者がアルフレッドを呼びに来た。
「すぐに行くよ」
アルフレッドはもう一度私の頭を撫でると部屋を出ていった。
「アリシアとセシルにもあなたが目を覚ましたことを伝えても大丈夫かしら?あの子たちのことだからすぐにあなたに会いに来ると思うけど」
「はい、大丈夫です。私もアリシアとセシルに会いたいですから」
ベアトリスが出ていって、数分後。廊下からものすごい足音が聞こえる。
扉が勢い良く開けられる。
「お、お姉様!!」
「アリシア、静かに開けろ」
アリシアとセシルだ。
「お姉様…」
アリシアがボロボロと涙を流す。
「姉さん、本当に良かった。」
セシルも涙を浮かべている。
「二人共、こっちにおいで」
私は自分のベッドを手でポンポンとした。
二人はベッドの上で泣いている。私は左腕を使えないため、順番に二人をなだめる。
「三日も目を覚さなかったんですよ」
三日間も!?
「手が熱いよ、まだ熱が下がってないんじゃ」
セシルが私の手を握っている。
「大丈夫よ」
私は二人を安心させるため笑って見せる。
「お姉様…早く良くなるようにおまじないしても良いですか?」
おまじないか、可愛いな。
「ええ、お願い」
アリシアは私に近づくと頬にキスをしてきた。
「なっ、何してるんだ」
「おまじないです」
「ありがとう、アリシアのおかげですぐに治りそうだわ」
「えへへ」
アリシアはニコニコ笑っている。
私はセシルと目が合った。
「ぼ、僕はやらないから!!」
セシルは顔を真っ赤にして狼狽えている。
たまたま目が合っただけなんだけど、可愛いな。
「お姉様。もう少し一緒にいたいのですが、これからお勉強の時間なので、行きますね」
「来てくれてありがとう。頑張ってね」
「はい」
アリシアは部屋から出ていった。
「…姉さん」
「なあに?」
セシルが私のおでこにキスをした。
「え」
「アリシアと僕の分でもっと早く良くなるでしょ。じゃあ僕も行くから、お大事に」
最後の方は早口になっていた。
セシルは真っ赤な顔で走って部屋から出ていった。
それにしても、腕を負傷したのはかなりまずい。せっかく、上達した剣術の腕もなまってしまう。
二人のおまじないが効くことを願うしかない。




