28 悪役令嬢とハンカチ
狩猟大会当日、私達はフローレス公爵家の天幕の中にいる。
アルフレッドは王族の天幕にいるため、狩りはしないようだ。
そのため、天幕にいるのはアルフレッド以外の家族と騎士と侍女数名だ。
「セシル頑張ってね」
私は、セシルにハンカチを渡す。アリシア達にあげたものは、なんとなく髪色や瞳の色に合った花だったが、セシルは髪色も瞳の色も合う花が見つからなかったため、カスミソウの刺繍を施した。
「…これ、姉さんが?」
「そうよ」
いまいちだったかな?
「ありがとう凄く嬉しい」
セシルはハンカチを大事そうにしまった。
「私も喜んでもらえて嬉しいわ」
作ったものを褒められるのはやっぱり嬉しいな。
「お兄様、私からもこちらを」
アリシアもセシルのためにハンカチを用意していたんだな。良い子。
「ありがとう…ってなんだこれは?」
「失礼ですね、うさぎさんです」
私も気になって、ハンカチを見る。毛玉?いや、うさぎに見えないことも…いや見えない。
「頑張ったのね、アリシア」
私は何とも言えず、とりあえずアリシアの頭を撫でる。
「お姉様には上手になってからお渡ししますね。」
「ふーん、僕には失敗作ね。まあ、姉さんのハンカチを貰えたから良いけど。」
「むぅ、私なりに頑張ったんです。」
「ふふっ」
何だか久しぶりだな、三人でこうやって話しをするの。セシルは今日のために狩りに出ていたから。
「パトリシア始まる前に私に行かないと」
ベアトリスに肩を叩かれた。すっかり忘れていた、カイルにもハンカチを渡さないと。
「…お姉様私もご一緒します。」
アリシアが私の手をきゅっと掴む。
「だめよ、アリシア。さぁパトリシア行ってらっしゃい。」
行きたくない。アリシアは心配そうに私を見つめている。
「アリシア、すぐ戻るわね」
私は、カイル達のいる天幕へ向かっていると、突然肩を叩かれた。
「パトリシア?」
カイルだ。
「カイル様」
「私に会いに来てくれたのかな?」
カイルが微笑む。まあ違わない、不本意だけど。
「…ここだとアレなのでこちらへ」
私はカイルの手を引き、天幕の裏へ行く。私は誰かに見られていないか辺りを見渡す。
「あの…パトリシア?」
「あっ、ごめんなさい」
私は慌てて手を離す。戦々恐々としていたため、手を掴んでいたのを忘れていた。
「それで、どうしたの?」
私が離した左手をわざわざ掴み直してきた。
「その…お渡ししたいものがありまして。」
「私に?」
期待の眼差しを向けられる。私は巾着型のポーチからハンカチを取り出す。
「これなんですけど」
私は考えに考えた末、紫の薔薇を刺繍した。
「…」
無言が一番怖い。受け取ってくれはしたけど。
「カイル様?」
「これ…私のために作ってくれたの?」
「…まあ」
本当に不本意だけど。
「嬉しい、本当に嬉しいよ。ありがとうパトリシア」
カイルは私の左手を掴み、そのまま手の甲にキスをした。
「カ、カイル様、誰かに見られているといけないので」
私はバッと手を離し、カイルから距離を取る。
「そんなに警戒しなくても」
「私はもう行きますから」
私は走って、その場を後にしようとしたが
「怪我のないようにお気をつけて」
とだけ、伝えておいた。
カイルは楽しそうに手を振っている。
こうして、狩猟大会の幕は上がった。




