22 悪役令嬢と新しい出会い
私がこの「君に捧げる花」の世界に転生した日から、三年が経った。今だ婚約破棄はされていない。
今日はカイル主催の、社交界デビュー前の貴族の子供達だけのお茶会だ。
私とアリシア、セシルの三人で会場に向かう。
「パトリシア様」
エレノアが手を振っている。
「今日も素敵ですわね」
「エレノアも素敵よ」
「…嬉しいですわ」
「お姉様、私は?」
「ふふっ、アリシアは今日も可愛いわね」
「えへへ、お姉様ありがとうございます」
アリシアは上機嫌だ。アリシアの頭を撫でていたらセシルと目が合った。
「セシルも…今日もかっこいいわね」
もう10歳になる男の子に可愛いは良くないよね。
「な…何、急に別に褒めて欲しくて見てたわけじゃないから」
「ごめんなさい」
「別に良いけど、それに姉さんも…」
「やあ、着いていたんだね」
セシルの言葉を遮るようにカイルがやって来た。
「カイル様。本日はお招きいただきありがとうございます。」
「来てくれて嬉しいよ。パトリシアは今日も可愛いね」
先ほどの会話を聞いていたのか、カイルも似たような事を言ってきた。
「…ありがとうございます。」
お礼を言ったが、カイルはずっと私の前で微笑んでいる。何?どういうこと?怖いんですけど。
「カイル様?」
「私には言ってくれないのかな?」
そういうことか、でも特に言うことがないんだよね。
「カイル様は……魅力的ですね。」
どうだ!?頑張って絞り出したぞ。
「ありがとう、嬉しいよ」
ご満悦。正解だったようだ。
「カイル様、主催者がいつまでもこんな所にいて良いんですか?」
セシルがムッとしている。話を遮られたのが不服だったのだろう。
「じゃあ、またあとで」
カイルは手を振ると去っていった。
「セシル、さっきなんて言おうとしていたの?」
私が尋ねると
「何でもない!!」
と顔を真っ赤にして走っていった。話を遮られたの事が余程ムカついたのかな?
はぁ、疲れた。親にでも言われたのか、やたらと私に媚を売ってくる人ばかり。
私は少し離れた所で一休みする。アリシアはエレノアといるから大丈夫だろうし、セシルも意外と社交的だし。なんてことを考えながら、木陰に座る。
天気が良くて、気持ちが良い。私は伸びをすると何かにぶつかる。
「痛っ」
人だ!!
「ごめんなさい、まさか人がいるなんて思わなくて」
私は慌てて立ち上がり頭を下げる。
「大丈夫…です。」
私は頭をあげる。そこにいたのは小説には出てきていない特徴の男の子。小説風に表現するなら、ディープバイオレット色の髪。長い前髪を左側に寄せていて、髪の隙間から見えるのは鋭い吊り目にアクアマリンの瞳。ってところだろうか。
男の子も立ち上がったので私は自己紹介をする。
「私はパトリシア=フローレスです。」
「お、俺は…エリオット=ブライスです。」
目をキョロキョロと泳がせながら、名前を教えてくれた。見た目に反してオドオドとした気の弱そうな子だな。
「あなたもここで一休みしていたんですか?」
「え!?いや…俺は怖がられているので、終わるまでここで隠れているんです。」
「…そうなんですか」
私は何と声をかけたらいいのか分からずにいる。
「パトリシア様は?」
「私は少し疲れてしまって、やっぱりこういう所は慣れないです。」
私が笑うと
「パトリシア様は人気者ですね」
エリオットが囁く。人気っていうより爵位が高いからすり寄ってきているだけだろう。
「公爵家だから寄ってきているだけですよ」
「俺も公爵家ですけど、この目つきの悪さで怖がられてます。」
エリオットも公爵家だったのか、それに今まで会ったことがなかったのも今日みたいに終わるのを隠れて待っていたのだろう。
「それで前髪で隠しているのですか?」
「…はい」
「せっかく綺麗な瞳なのに」
「え?」
「アクアマリンみたいで凄く綺麗です。」
私は思ったままの事を伝える。
「そんな事言われたの初めてです。」
エリオットは俯く。
「挨拶をしただけなのに、睨まれたと泣かれ。落とし物を拾ったから声をかけたら悲鳴を上げられ。挙句の果ては俺と目が合うと呪われるなんて噂まで流れてしまって」
酷い、酷すぎる。親切にしてるのになんでそんな仕打ち受けなきゃならないの。
「だから、パトリシア様も俺と一緒にいると悪い噂が立ちますよ。」
エリオットが淋しげに笑う。
「そんなの気にしません!!人の親切心を無下にするどころかありもしない噂を流すなんて。そんな人達に何と言われようと私は気にしません。」
「…パトリシア様優しいですね」
「そんなことありません。むしろエリオット様の方がずっと優しいと思います。」
「あなたは周りの人を怖がらせないためにここにいるのでしょ?それに私に悪い噂がたつかもしれないって心配してくれた。」
「私は、権力目当てで集まってくる人よりも、あなたのような人と一緒にいたいわ」
あ…ちょっと今のは気持ち悪かったかも。
「パトリシア様、ありがとうございます」
良かった引かれてない。
「さぁ、一緒に行きましょう」
私は立ち上がり、エリオットに手を差し出す。
そのときだった、私の肩に何かが乗る。
「きゃぁぁあ」
「け、毛虫…ととと取って!!」
「お、落ち着いてください。今取ります。」
「早く早く取って!!」
私はよろけて倒れそうになった。エリオットが私の腰を支えてくれた。
「取りました、取りましたよ。」
パトリシアを演じるのを忘れ半狂乱になってしまった。恥ずかしい。
「パトリシア!!」
「姉さん!!」
カイルとセシルだ。
「カイル様?セシル?」
「…エリオット=ブライス、君は何をしてるのかな?」
怖い、何か怒ってる。
「私の婚約者に何をしてるのかって聞いているんだけど」
そっか、今の状況。涙目の私の肩を掴んでいるエリオット。もしかして、私が何かされたと誤解されてる!?エリオットを見ると肩をビクつかせている。
「違うんです。カイル様」
「姉さん、大丈夫?怪我はない?」
セシルがエリオットから私を引き離す。
「セシル、私は大丈夫よ」
「姉さんの悲鳴が聞こえたから慌ててやって来たんだ。大丈夫、僕が守るから」
セシルが私の前に立つ。
「二人とも違うんです。…その私が毛虫にびっくりして、エリオット様に取っていただいただけですから」
私が大きな声で叫ぶ。
私は恥ずかしくて、顔が赤くなるのが分かる。また涙が出そうになる。
「「……毛虫?」」
セシルとカイルの声が重なる。
「ほらっ、そこ!そこに落ちてるでしょ」
私は地面を指差す。
エリオットは誤解が解けたことにホッとしている。
「エリオット、ごめん」
カイルが頭を下げる。それを見てセシルも慌てて頭を下げた。
「エリオット様、誤解とはいえ無礼を働いてしまい申し訳ありません。」
「そんな…顔を上げてください。俺は大丈夫なんで」
エリオットがオロオロしている。
「二人とも心配かけてごめんなさい。エリオット様も」
私が謝るとセシルとカイルに詰め寄られる。
「本当に心配したんだからね、僕の目の届く所にいて」
「やはり、婚約の話を公にする必要があるかな?」
カイルと私の婚約の話は、公爵家、侯爵家、伯爵家までの大人達は知っているが公式の場ではまだ発表していない。これは、王子の婚約者という事で命が狙われる可能性があると心配したアルフレッドの配慮だ。私的には、婚約者なんて誰かに譲りたいぐらいだが、公にされることで自由に動けなくのは困る。
「カイル様、許してください。」
私はカイルの右手を握り懇願する。
「…今回だけだよ」
カイルはそう言って左手で私の手を撫でる。
ふぅ、助かった。
「パトリシア様も大変ですね」
エリオットが苦笑いをしている。
「…ははは」
私達は会場へ戻る。




