21 悪役令嬢と幸せ
カイルは挨拶に来た日から度々、フローレス邸に訪れるようになった。しかも、毎回連絡なしで来るもんだからアルフレッドが胃を痛めている。
今日はエレノアが久しぶりにやって来る。このところ忙しくて、手紙でのやりとりしかできていなかった。
馬車の音が聞こえる。エレノアが来たのだろう。
私はエントランスへ向かう。
「やあ、パトリシア」
そこに現れたのはエレノアではなくカイルだった。
「カイル様!?」
「私が来るって誰かから聞いたのかい?」
エレノアが来ると思ったから出迎えただけなんだけど。
「馬車の音が聞こえたので」
「そっか」
カイルは満面の笑みを浮かべる。機嫌が良いみたいで大変結構。
「今日はアリシアとセシルはいないのかな?」
「いえ、二人は書庫にいますよ」
「じゃあ今日は…」
カイルが何かを言いかけた、瞬間扉が開いた。
「エレノア様がいらっしゃいました。」
「お久しぶりですわね。パトリシア様」
「エレノア様お久しぶりですね」
「そうですわね、皆様お変わりはなくって?」
私達は書庫にいる。久しぶりの再会に和気あいあいとしているアリシアとエレノアを横目に不機嫌そうなカイル。さっきまでの機嫌の良さはどこへやら。
「ところで、パトリシア様そちらの方は?」
「彼は、この国の第一王子カイル様です」
私の言葉にエレノアの顔が青くなる。
「ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。私はエレノア=コーデリアと申します。」
「気にしなくて良いよ、私もちゃんと挨拶していなかったからね」
エレノアはホッとしたようで、顔色が少しずつ戻っていく。
「私はカイル=ルーク=アルフォード。パトリシアの婚約者だよ」
「なるほど…婚約者ですのね…え!!婚約者!?」
エレノアの声が部屋に響き渡る。
「お手紙には一切、ご婚約されたなんて書いていなかったではありませんか」
エレノアに詰め寄られる。エレノアとの手紙は主に近況報告だった。それなのに婚約の話を書かなかったのは、単純に自分がカイルと婚約した事実を受け入れたくなかったからだ。
「ごめんなさい、うっかり忘れてて。」
「いえ、それなら良いんですの。そういえばパトリシア様、ここのところお忙しいようでしたが何かされていたのですか?」
「パトリシアが忙しかったのは剣…」
私は慌ててカイルの口を手で塞ぐ。
「けん?」
「建国、イリース王国建国に至る歴史について学んでいたんだよ」
セシルがフォローをしてくれた。
「そうだったんですわね」
エレノアは、パトリシア様は凄いですわねとセシルと話している。
私はその隙にカイルを連れて少し離れた本棚へ行く。
「ごめん、秘密にしていたとは知らなくて。」
「私の方こそ申し訳ありません。苦しかったですよね」
怒らせてしまったかも
「大丈夫だよ」
カイルに手を掴まれる。
「カイル様?」
カイルが自分の手のひらと、私の手のひらを合わせる。
「まだあまり変わらないね」
そりゃあ性別は違えどまだ子供だし、変わらないだろう。
「そうですね」
「前にも言ったけど、私が君を守れるように強くなるから…」
「姉さん、カイル様いつまでそこにいるんですか?」
セシルが腕を組みながらやって来た。
「ごめんなさい、すぐ戻るわ」
「お姉様こちらの本を読みましょう」
私はアリシアの隣に座る。
「アリシアは本当にこの本が好きね」
アリシアと出会ってから何度も一緒に読んでいる本だ。
「まあ、どのような本なのです?」
エレノアが私の隣に座る。
「心優しいお姫様が助けた妖精さんの力をお借りして王子様と結ばれるお話です。」
アリシアはニコニコしながら、みんなに本の内容を説明する。
「このお姫様がお姉様にそっくりなんですよ」
アリシアが挿絵を指差す。そのお姫様は金髪碧眼だ。金髪碧眼なんてこの世界ならいくらでもいるだろう。
「ではこの妖精さんはアリシアですわね」
エレノアも挿絵を見て指差す。
ピンクの髪に、黄色の瞳の妖精。
「今までも読んでいたのに気づかなかったけど、本当にそっくりね」
「じゃあ、この王子様は私かな?」
カイルが話しに加わってきた。
「いえ、この王子様は緑色の目をしているのでどちらかというとお兄様に似ています。」
「言われてみれば似ているかもしれませんわね」
エレノアが頷くと、カイルがセシルに黒いオーラを出しながら笑いかけている。
本物の王子だから、セシルが王子に似ているって言われて腹を立ててるのかな?
「でも良いわね、この物語みたいに幸せな世界に行ってみたいわ」
こんないつ殺されるか分からない世界より…
「私と婚約したからには、この物語と比べものにならないくら幸せにするよ」
「…ありがとうございます。」
そういう話じゃないんだけど。
「私もお姉様を幸せにします」
「ありがとう」
私はアリシアを抱きしめる。本当に良い子。
「私もお力添えいたしますわ」
エレノアが私の手を取り力強く言う。
「心強いわ」
「君は良いの?」
「僕も…姉さんの力になるよ」
恥ずかしいのか目を逸らされた。
幸せってこういうこと?




