私の可愛い婚約者
私はイリース王国、第一王子カイル=ルーク=アルフォードだ。
私には婚約者がいる。この国の宰相アルフレッド=フローレス公爵の娘、パトリシア=フローレス。
パトリシアとは、5歳のときに知り合った。アルフレッド宰相の付き添いで王宮にやって来たパトリシアと私は二人で散歩をすることになった。パトリシアは人見知りをしていたのか、あまり自分から話をしなかった。私は正直つまらないと思っていた。早く終わらせて、部屋に戻りたいと。そんなとき、パトリシアが突然足を止めた。
「綺麗」
パトリシアは紫の薔薇の前で止まっている。
「うちの庭園にはない色」
「そんなに珍しいの?」
私が尋ねるとパトリシアは満面の笑みで応える。
「はい、うちでは赤と白、ピンクの薔薇は育ててるんですけど、この色は初めて見ました。」
「そんなに気に入ったのなら、何本か持っていきなよ」
私がそう言ったが
「それはいけません。庭師さんが丹精込めて育てたお花を、そう簡単にいただけません。」
「そっか、じゃあ今度庭師に頼んで苗をプレゼントするよ」
「本当ですか、ありがとうございます。約束ですよ」
パトリシアはまた笑いかけてくれた。それからパトリシアは花の育て方や、花言葉を楽しそうに教えてくれた。
私は、恋に落ちた。
それから、アルフレッド宰相が来るたびソワソワして待っていたが、あの日以降パトリシアが来ることはなかった。
パトリシアの母親、エリザベート夫人が亡くなってから、アルフレッド宰相は抜け殻のようになっていた。私がパトリシアの事を聞いても、さみしげに笑うだけだった。
アルフレッド宰相が再婚した。アルフレッド宰相から話しを聞けた。
パトリシアは、義妹になったアリシアをとても可愛がっているようだ。
「昨日は一緒にお茶をしていた。」とか「パトリシアが読み聞かせしてあげていた。」という話を聞かされて、元気にしていると分かり安心していた。
少し経ってから、バーリス侯爵家の後継者が問題を起こし、その甥である。セシル=バーリスがフローレス公爵家の養子になった。
フローレス公爵家は後継者がいなかった。セシルを養子にするまでは。
私はこれを好機と考え、パトリシアの誕生日の翌日会いに行くことにした。
私はすぐにパトリシアへのプレゼントを選びに行った。
久しぶりに会ったパトリシアはどこか落ち着いたような大人びた雰囲気があったが、私がプレゼントを渡した後。
「素敵なプレゼントをありがとうございます。とても気に入りました。」
そう言った彼女の笑顔は初めて会った日と変わらなかった。
次に会ったときにつけているといいな、なんて考えていたが
「痛っ」
僕の肩にパトリシアの顔がぶつかった。
「大丈夫?怪我はない?」
私は衝撃を受けた。なぜパトリシアが訓練場から?それにドレスじゃなくて訓練着のような服を着ていた。
彼女は護身のためと言っていたけど、そんな事をしなくても騎士達が守ってくれるはずなのに。そして、もっと衝撃的だったのはその腕前だった。年齢も性別も違う相手に一本取るだなんて。
「カイル様いかがでしたか?」
嬉しそうにニコニコと笑う姿が大変可愛らしい。
でも、守られるべきパトリシアに一本取られてしまう騎士がいるのはマズイのでは、速やかに婚約の話を進めなくては。
私は父上にパトリシアとの婚約について話した。
「アルフレッドに話しておこう」
と言ってくれた。私も手紙を用意した。
今日は正式に婚約の挨拶に向かう日。
フローレス邸に着くと、パトリシアと公爵夫妻が出迎えてくれた。パトリシアは私がプレゼントしたイヤリングをつけてくれていた。やはり、訓練着よりもドレスを着て着飾っている姿が良く似合う。そんな事を考えていたら少し遅れて、アリシアとセシルも来た。
アルフレッド宰相の気遣いで、私とパトリシアでお茶をすることになった…はずだったのにアリシアとセシルも一緒だった。
その後も、庭園を案内してくれると聞き喜んでいたが、私の手を引いているのはアリシアだ。パトリシアはそんな私達を見て優しく微笑んでいた。
私はてっきりついてきているものだと思って、後ろを振り返ったが、パトリシアはセシルと木にもたれながら話をしていた。私はアリシアの手を離して急いでパトリシアのもとへ行った。
パトリシアは慌てて立ち上がり、私に頭を下げた。そんな事をさせるつもりはなかったのに。
私は一つ気づくことができた。パトリシアは私とアリシア、セシルが仲良くしてると嬉しそうにすることに。つまり二人と仲良くしていれば、パトリシアを傷つけたり、悲しませたりすることはない。
どうやら私は可愛い婚約者の為に、彼女の小さなナイト達を手懐ける必要があるようだ。




