18 悪役令嬢とカイル王子
稽古が始まり一週間はたった。私は今日も剣の稽古へ向かう。
訓練場が見えてきたとき、私は腕を引かれる。
「姉さん!?」
私の腕を引いたのはセシルだった。
「セシル、どうしたの?」
「剣の稽古を始めたというのは本当だったんだ」
あれ?バレないようにしないとだったけ?
「どこで知ったの?」
私は少し焦る、バレたのが知れたら稽古をやめさせられるかもしれない。
「僕が昨日、稽古に行ったときにフィルとサイラスが姉さんの事を話してるのを聞いて」
クラウドは口止めとかは特にしていなかったのか。
「セシルお願い。この事は二人の秘密にしてくれない?」
私はセシルの手を両手で握る。
「はぁ、分かったよ、でも僕より強くならないでね…」
セシルは唇を少し尖らせている。確かに自分の方が早く始めたのに、私の方が強かったら嫌だよね。
「ありがとうセシル」
私は握っていたセシルの手をブンブンと振る。
「怪我しないように気をつけてね」
セシルが訓練場まで見送ってくれた。
今日の稽古は、とにかく素振りだった。体幹を意識して振るのがなかなか難しい。
休憩になり、軽くストレッチをする。その時だった。
「ね…姉さん、姉さんいる?」
セシルは走ってきたようで、肩で息をしている。
「どうしたのセシル?」
私はセシルに駆け寄る。
「カイル様が、カイル様がいらっしゃった。」
何で突然来るんだよっと思ったが、これは幻滅されるチャンスでは。
「分かった、すぐに行くわ」
私は訓練場を出ようとした…が何かにぶつかった。
「痛っ」
私は涙目になりながら、鼻を押さえる。
「大丈夫?怪我はない?」
この声は…
「カイル様」
「ごめんね、セシルについて行ったらここに着いたんだ。」
「ついて来られていたんですか!?」
セシルは私とカイルの顔を交互に見てワタワタしている。
「ここは訓練場だよね?パトリシアは何をしていたのかな?」
ここで変に誤魔化しても後々面倒だし、元々幻滅されるのが目的だ。
「剣の稽古を…」
私がそう言うと、セシルが目で何かを訴えてくる。秘密って言っていたのに、自分からバラしたからだろう。
「ふ~ん、何で?」
カイルはニコニコしているが、それが逆に怖い。
「護身のためです」
「そう、見学しても良いかな?」
私は訓練場にいるクラウドに目を向けると、クラウドが慌ててやってくる。
「カイル殿下、ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。フローレス騎士団親衛隊副隊長クラウド=レスターと申します。」
クラウドは跪き、頭を下げる。
「クラウド殿、私はパトリシアの稽古する様子を見学したいのだけれど」
「かしこまりました。椅子をお持ち致します」
「いいよ、立っていたほうがよく見えるし」
「では、パトリシア様、フィル用意はできていますね?」
私は何故かこれからフィルと対戦することになってしまった。
「用意…始め!!」
「ハァアアァァ」
フィルが攻撃を仕掛けてきた。私は力の差を考えると受け止めることはできないから、剣先で受け流す。そして私も仕掛ける。フィルは私からの反撃を察し身構えている。
私は突きの姿勢に入る、フィルは腰を落とし剣を中心に構え、私の突きを警戒している。
「たぁ」
突き…と見せかけ、剣を下から振り上げ、首の前で寸止める。
「止め!!」
やっぱり、年齢も性別も違うもの、力では敵わないから騙し討ちみたいなことしかできない。
「姉さん、はいタオル」
セシルが駆けつけてきた。
「ありがとう」
私はタオルを受け取り、汗を拭く。
「パトリシア、お疲れ様」
カイルがいるの忘れてた。
「カイル様、いかがでしたか?」
私は幻滅されるのを期待してニコニコしてしまう。
「君は本当に愛らしいね」
予想に反した言葉に思考が停止する。
カイルが私の頬を触り、土を落とす。
「先ほどの勇ましい君も素敵だけど、今みたいに笑ってる顔が好きだよ」
幻滅してないだと…私は固まっているとセシルが私の肩を掴み、カイルから引き離す。
「カイル様、申し訳ありません。姉はこの通り疲れているようなので、少し休ませていただけないでしょうか」
「そうだね、また改めるよ」
カイルは私の頭を撫でてきた。
「私も君を守る為に強くならないとね」
そう言って去っていった。
またお見送りをするのを忘れてしまった。
「姉さん、大丈夫?」
「大丈夫よ、少し疲れてしまったみたい」
少しどころではないが、肉体ではなく精神的に
「姉さんはカイル様のこと苦手?この前もカイル様と会ったあと元気がなかった。」
セシルは私の事を心配してくれている。
「心配してくれてありがとう」
でも、相談できる話ではないからね
「僕じゃ頼りない?」
セシルが俯く。
「違うわ、セシルはとても頼りになるわ」
「じゃあどうして…」
セシルが消え入りそうな声を出す。
「今はまだ自分で何とかしたいの、だから本当にどうしようもなくなったら、セシルに頼っても良いかしら」
セシルの手を握る。
「いつでも頼ってよ」
セシルは顔をあげて、私の手を握り返してくれた。
とりあえず、剣の稽古は幻滅されなかったのは分かった。まあそれだけを理由に始めたわけじゃないから、当然続けるつもりだ。




