01
ーーシオン・フォン・ティアスリング。
お前を追放する。
「え?……なんで」
ーー僕には、魔法の才能がなかった。
12時間前……。
「緊張してる?シオン」
柔らかい声で、僕の肩に手を置いた。
「うん、でも、ワクワクしてる」
クスッと笑い、彼女は前を向く。
「そう、じゃあ、行きましょうか?」
「はい!母上!」
ゆっくりと部屋の扉を開ける。
僕は今日、10歳の誕生日を迎えた。
そして、この国では、10歳を超えると、魔力測定を行う。
ーー魔法。
それは遠い昔、剣が栄えている時代に、ある男が作り出したと言われている力である。
魔法が当たり前となったこの時代で、剣を握る者は、嘲笑の対象になった。
中に入る。
そこには、大きな球体と、協会の制服に身を包んだ男が立っていた。
「お待ちしてました」
そう男は言うと、深く頭を下げた。
僕は緊張し、母のスカートの裾を握りしめる。
「大丈夫よ、シオン。そんな緊張しないで」
頭をくしゃっと撫でられる。
その感触に、少し緊張がほぐれた。
男は、顔を上げて、口を開いた。
「坊っちゃま、準備ができましたら、この球体にお触れください」
スカートの裾から、手を離す。
僕はゴクリと息を飲み、ゆっくりと球体へと歩み寄る。
手が届く距離。
球体は淡い光を放ち、僕の顔を反射していた。
その顔は、不安を表していた。
「この子の魔力量は、どれくらいかしら」
そんな母の期待の声が聞こえた。
深く息を吸ってから、ゆっくり手を伸ばし、球体に触れる。
球体は、固く、冷たい感触が手を伝う。
ーー何も起きない?
僕がそうつぶやくと、男は焦りだした。
「おかしいですね、本来なら、光を放つんですが」
焦りと不安が、僕の心をかき乱した。
「不良品を持ってきたんじゃないわよね」
母は険しい顔をしながら言い、球体に近づき、手を触れる。
その瞬間、球体は赤い光を放った。
「不良品じゃ、ない?」
母はそっと球体から手を離す。
すると、男がゆっくりと口を開く。
「奥様の魔力量は測定できましたが、坊っちゃまの魔力量は……」
その言葉を聞いた母の顔から血の気が引き、静かに床に座り込む。
「母上?」
僕はそっと、母に近づく。
「来ないで!!」
母から拒絶など、1度もされたことがなかった。
「すぐマーウィンに報告して」
そう言うと、男は急いで部屋を出ていった。
静寂が痛い。
今の現状が理解できず、立ち尽くすことしか出来なかった。
マーウィン。
それは、父の名だった。
父に報告するほど、まずいことが起きたのか?
どくんと、鼓動が跳ね上がる。
魔力、それは、魔法を使う上でかかせないもの。
母のあの反応、あの言葉。
僕は両手を見つめ、青ざめる。
ーー僕には、魔力がなかったのか?
魔力がなければ、当然、魔法は使えない。
魔法主義のこの時代で、魔法が使えないなど、死んだも同然だ。
幼い僕でも、それはすぐにわかった。
母を見つめる。
魔力がないとわかった時、なんと思っただろうか。
僕は、これからどうなるのだろうか。
ーー僕は、母になんと声をかければいいのか。
手で顔を覆い、座り込む母に、ゆっくりと近づく。
「あなたはもう、部屋に戻ってなさい」
冷たい声で、母はそう言った。
その言葉に、僕の胸は張り裂けそうになった。
「……はい、母上」
僕は扉に向かって歩き出した。
部屋を出て、ゆっくり、廊下を歩く。
メイドや使用人たちが忙しそうに駆け回り、僕を見て、ヒソヒソと話す者もいた。
ーーガチャ。
自分の部屋の扉を開け、ベッドに座り込んだ。
気づけば、涙が溢れていた。
これから、どうなるかわからない。
その不安が、僕の胸を強く締め付けた。
時間が過ぎ、日が暮れた。
あれから誰も、部屋に来ていない。
僕は、自分でご飯やお風呂を済ませ、ベッドに入ろうとした。
その時。
ーーコンコン
扉を叩く音に、びくっと体が跳ねる。
急いでベッドから降り、扉へとかけ出した。
扉を開けると、そこには父の側近の男が立っていた。
「マーウィン様のお部屋までお連れします」
その一言に、僕の心臓は跳ねる。
父の呼び出し。
それはおそらく、僕の今後の話だろう。
先へと歩く男の後ろを、追いかける。
「お連れしました」
その一言で、扉が開かれる。
扉が開き、中の重たい空気が、僕を襲う。
部屋の中心には父が座っていて、その隣には母と兄妹たちがが立っていた。
「入れ」
たった一言。
それなのに、僕の足は震え出した。
僕は、ゆっくりと、父の目の前まで歩みを進める。
見ていた紙を置き、こちらに視線を向ける。
「お前に、魔力がないと聞いた」
その言葉に、僕の鼓動は大きく跳ねる。
「……はい 」
力なく、呟いた。
これしか、言葉が出なかった。
父は、何も言わなかった。
クスクスと笑いながら、長男が口を開く。
「やっぱり、こいつは無能なんですよ、父上」
長男のアレクサンダー。
彼は、天才と呼ばれ、僅か12歳で、成人男性以上の魔力量を持ち、極大魔法を習得した。
「アレク、喋るなといっただろう」
そう言われると、アレクは顔をしかめ、手を組んで、静かになる。
父は一瞬、目を閉じて、ゆっくりと口を開く。
「シオン、お前の処遇が決まった」
その言葉に、僕の心臓は、大きく跳ね上がる。
僕は、これからどんな扱いを受けるのか。
だが、どんな扱いを受けても、家族と一緒なら…。
ーーシオン・フォン・ティアスリング。
お前を追放する。
「え?……なんで」
血の気が引いていく。
僕は、理解が追いつかなかった。
どんな扱いだろうと、家族と一緒ならいいと思った。しかし、追放……?
「魔法が使えないなら、お前は用済みだ」
その一言は、僕の心を粉々に砕いた。
頭が真っ白になり、足が震え、立っているのもやっとだった。
「そこまで言わなくても!」
姉のサナが、口を開く。
サナは、ひとつ上の姉で、魔法の才能もあった。明るい性格で、いつも、僕と遊んでくれていた。
サナの叫びに、僕はハッと我に返る。
「子供のお前が、口を出すな」
父の荒らげた声に、サナはびくっとなり、下を向いて、唇を噛む。
サナの姿を見て、僕は手に力が入る。
ーーもし僕に、魔力があればサナはあんな顔をせずにすんだのに。
自分の無力さに、心が痛む。
「大丈夫だよ、サナ」
力なく微笑み、サナを見つめる。
顔を上げ、僕の顔を見つめ返すその瞳には、涙が浮かんでいた。
サナが話すのを遮るように、父が口を開く。
「お前には、今から馬車に乗り、森へと向かえ。」
淡々と、父はそう言った。
昔から厳しい人だった。
しかし、ここまで冷たかっただろうか。
「……はい」
小さく、悲しい声でつぶやく。
幼い体では、今日の出来事を抱えるのには、既に限界を超えていた。
ゆっくりと、扉の方へ歩き出す。
その足取りは、朝の時より、何倍も重かった。
部屋を出ようとした時、僕は振り返り、頭を下げる。
顔をあげると、サナが胸の前で手を握り、今にも泣きそうな顔をしていた。
廊下を歩き、玄関へ向かう。
ーーごめんなさい。
ずっと堪えてきた涙が、一気に溢れ出した。
涙を拭っても、止まらなかった。
涙を流した時、母がいつも、慰めてくれた。
しかし、そんな母は、もうここにはいない。
乱暴に涙を拭い、玄関を出て、馬車に乗り込む。
「それでは、森へと向かいます」
馬車が動き出し、小さな石を踏む度、小さく体が跳ねた。
ーーさようなら。
遠ざかる屋敷を見つめ、僕は小さくつぶやいた。
新連載です!!
まずはあっちを完結させようと思ったんですが、手が止まりませんでした!僕森好きすぎじゃない笑!?
今回はガチガチの異世界モノです。
2話は今夜投稿予定です。




