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桃から生まれてしまった日本人

掲載日:2025/11/22


 時は令和。


 この時代を懸命に生きた社畜は、ブラック企業で肉体と精神を強化し、日常の大半を会社で過ごし、ついには二十二才という若さでその生涯を終えたのじゃ。


 だが……。


 むかーし、むかし、あるところに自身がどのような状況なのかわからず困惑している若者がおったそうじゃ。


 その若者は気付けば狭く真っ暗な空間に閉じ込められておった。


 ゆらゆらと揺れる何かに乗っているような感覚に、若者はひどく酔いそうになっておった。


 何やら外から話し声が聞こえるが、突然頭の中で警鐘のようなものが鳴り響いたのじゃ。


 若者はその何かから逃れるように、必死に全身をばたつかせると、メリメリと音を立てて、遂には回りの何かをはねのけることができたそうじゃ。


 パッカーン。


「まあ、なんということでしょう」


 若者の目の前には白髪を後ろで一つに束ね、目尻に深い皺を刻んだ優しそうな年老いたおばあちゃんが若者に目線を合わせていたそうじゃ。


 その横には、薄くなった頭を撫でながら驚いた顔をしている、これまた人の好さそうなおじいちゃんもおった。


「やべ、これって……、えっ、待って、俺の手、ちっちゃくなってるー!」


 令和の社畜は、どうやら桃太郎として転生したようじゃ。


 桃之介と名付けられて育てられたその男の子は、すくすくと成長していた。


 黒髪短髪で、現代日本人の面影を残しつつも、労働で鍛え抜かれた筋肉質な体つきをしておった。


 それから十年以上の月日はすぎたある日、桃之介は空中に浮かぶ半透明の画面、ステータスウィンドウを開いて確認しておった。


 そこには天啓「英雄」という文字が輝き、スキル欄には危険察知をはじめ、剣技、肉体強化、見切りといった武闘派のスキルがずらりと並んでいたそうじゃ。


「おっし、スキル構成は完璧だな。そろそろ案件こなすか!」


 意気揚々と町役場に向かった桃之介は、掲示板に依頼されていた鬼退治、つまりはオーガのアジトである鬼ヶ島への討伐依頼を受けることにしたのじゃ。


 一度自宅に戻った桃之介。


 話をきいたおじいちゃんは、長年床下の壺に貯めこんでいたへそくりである金貨五枚を、震える手で差し出した。


「じっちゃん、サンキュー。必ず倍にして返すからよ!」


 金貨を握りしめ、不安気なおじいちゃんに送り出された桃之介。


 おばあちゃんは影に隠れひっそりと泣いていたようだじゃ。


 こうして、鬼退治の旅を始めた桃之介。


 道中、一人の小柄な男が木の上から声をかけてきたそうじゃ。


 全身が茶色い毛で覆われ、長い尻尾を揺らしている、猿人族の浮田じゃった。


 軽装の革鎧を身にまとい、腰には短い双剣を下げておった。


「よう兄ちゃん、なかなか強そうだな。鬼ヶ島に行く?なあ……、俺と組まないか?」


「悪くない提案だ。前衛として採用しよう!」


 次に空から優雅に舞い降りてきたのは、雉人族の久江田という女性じゃった。


 腕の代わりに極彩色の翼を持ち、鋭い眼光と鉤爪を備え、背中には大きな弓を背負っておる。


「鬼ヶ島?行く行く!あんたもアタシの目が必要でしょ? 空からの援護は任せなさいよね!」


「上空からの索敵は助かる。契約成立だ!」


 運も味方した桃之介。


 難なく有能な二人目の仲間が見つかったようじゃ。


 最後に現れたのは、犬人族のワンダー・ケンラルスじゃった。


 二メートルを超える巨体で、頭部は完全にドーベルマンそのもの、全身を分厚いプレートアーマーで固め、巨大な盾を持っておった。


「ワフッ!オーガの島?アイツら嫌いだワン!よし、盾役なら任せるワン!」


「タンク役か、必須だな。よし、君も一緒に、オーガどもを蹴散らそう!」


 こうして桃之介は、浮田、久江田、そしてケンラルスとパーティを組んで依頼に臨んだそうじゃ。


 船に乗り込み、オーガの住む島、鬼ヶ島へと到着した桃之介と三人の仲間たち。


 まずは防衛拠点となる砦を落とすことにしたようだじゃ。


「じゃあ、サクサクッといこうぜ!」


 あっと言う間に砦を制圧し、残るは本拠地となるオーガ城を攻略するだけぢゃった。


「おっ、これいいな!」


「こっちも仕えそうじゃない?」


「俺、これにしよーtt」


「わふー!」


 新たな装備を得た四人。


 そんな気分上々で突撃した桃之介の前に、四鬼と呼ばれる四人のハイオーガが立ち塞がったそうじゃ。


 それぞれが赤、青、緑、黒の肌を持ち、鋭い牙と角を生やした、通常のオーガよりも二回りは大きな怪物どもじゃった。


 桃之介たちは苦戦するも、四人の絆で見事に撃破したそうじゃ。


 そして、いよいよキングオーガとの戦い。


 玉座に座るキングオーガは、岩のような筋肉と三本の角を持つ、圧倒的な威圧感を放つ巨躯の持ち主じゃった。


「タイマン張ろうぜ、鬼の王」


 正々堂々、一騎打ちをする桃之介。


 これまでの戦いでレベルアップした桃之介は、新スキルを発動させたのじゃ。


「これで終わりだ!一刀両断・龍星の煌めき!」


 まばゆい光と共に剣が振り下ろされ、遂にはキングオーガの討伐に成功した桃之介。


 桃之介は討伐の証明部位となる二本の角を切り落として確保したようじゃ。


「浮田、収納頼むわ」


「へいよ」


 オーガキングの巨大な体を、浮田のスキル、頬収納にしまい込むと、一行は役所まで無事帰還したそうじゃ。


 見事、依頼報酬と素材を売りさばき、金貨三十枚を得ることができた四人はそれぞれの場所へと糧って言ったのじゃ。


 桃之介は三人の配慮により、十五枚の金貨を貰うことになったそうじゃ。


「じゃ、また次の現場でな」


「お疲れー」


「ワフッ!」


 解散した後、桃之介は意気揚々と自宅まで戻ってきたのじゃ。


「ただいま。これ、土産な!」


 二人に出迎えられた桃之介は、おじいちゃんに途中で購入した柔らかい饅頭を渡した。


 そんな何でもないような土産に、二人は涙を流して喜んでくれたそうじゃ。


 そして翌日。


「さて、今日も稼ぐか!」


 桃之介は、新たな依頼を確認するために、町役場へと脚を運んだのじゃった。




 めでたし、めでたし。


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