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嘘つき同士

作者: kumi


ある日

クラスの高峯が机に突っ伏して泣いていた。


5人の友人達に囲まれて責め立てられてる。


「嘘じゃねえもん」


腕の隙間から高峯の声が響き渡る。


「こいつ嘘つきだぜ」


5人のうちの1人が

高峯の声に喰らいつく。


「ゲーム機買ってもらった なんて

こいつ嘘ついてやんの」


「嘘なんてついてねえ」


少し弱々しくなった高峯の声が

すかさず否定する。


「はい

うーそつき うーそつき」

手拍子と共にリズムを

取りながら5人が囃し立てる。


高峯は机に突っ伏したまま動かない。

帰りの学活が始まっても高峯が

顔を上げることはなかった。


既に放課後になった今

クラスには誰もいなくなっていた。

騒いでいた5人の姿も

もちろん無い。


私は高峯のそばに近寄り声をかけた。

中学に入ってから

高峯と話すのはこれが初めてだ。


「ねえ 」

高峯は何も言わない。


「みんな帰ったよ 高峯帰ろう」


高峯は相変わらず微動だしない。

私は高峯の隣の席に座って校庭を眺めていた。


その時高峯は顔を上げた。

私の方を一切見向きもせず

廊下へと向かって歩き出した。


私は慌てて彼の後を追った。

慌てていたから

椅子を元に戻すのを忘れてしまった。


少し離れた距離を保ちながら

私達は歩いた。


高峯は振り向きもしない。

でも歩く速さを私に合わせてくれている

それが私には分かった。


私達は無言のまま学校を

出て公園へと辿り着いた。


ここは私の指定された通学路ではない。

高峯の後に付いてきたら

こうなってしまった。


高峯は公園を見渡した。


そしてベンチに腰を下ろした。

私も高峯の横へと腰を下ろす。


嘘なんてついてねえよ


あの言葉は本当なのだろうか。

私は思った。


公園は誰もいなかった。


沈黙を切り裂く様に

高峯が話し始めた。


「俺さ 本当はさ

テストでいい点とっても

ゲーム機なんて買ってもらったことないんだ」


高峯はそう言った。


「そうなんだ」


私はそう答える。


「それってさ嘘なのかな?」


高峯は私に問いかける。


「嘘ってさ

もっともっと 色んな嘘があるよな

ところでさ

お前 なんで俺に声掛けた?

可哀想だったから?」


彼が初めて私の方を向く。

目と目が合う。


「もし 高峯のあれが嘘だって

言うんだったら 私も同じ嘘つきだよ」


「なんで?」


高峯はすかさず聞いた。


「私のお父さんってさ

怖くてさ 近寄ったり出来ないんだ。

だけど

お父さんを悪者にしちゃいけないって思って

友達には


うちのお父さん面白いんだよ

うちのお父さん 優しいんだよ


そう言っていたもん

高峯はこれも嘘だって思う?」


高峯はおもむろに下を向いた。

そして右足で足元の砂を蹴っ飛ばした。

砂埃があがる。


「思わない

そんなの

ちっとも嘘だなんて思わない」


そう言った。

不思議だった

肩が軽くなった気がした。


「じゃあさ」


私が言う。


「2人とも嘘つき同士でいいんじゃない?

私達だけの間でさ」


私と高峯は笑い合った。


「誰にも迷惑かけない 誰の損にもならない

誰かを傷つける嘘じゃない


いいじゃない

こんな嘘 

ね?」


高峯は笑った。


「誰も傷つかないもの

どうせ

こんな嘘で

傷つくのは私達自身 二人だけだから」


高峯はを見上げた。

私もつられて上を向く。


赤く染まりつつ在る空は

私達の嘘を聞いている様だった。


片棒を担いだ夕暮れが居なくなるまで


嘘つき同士は一緒にそこに居た。





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