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募る思いも三十一で  作者: 時雨 悟はち
一生懸命を見つけるために
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本気輝く、妬ましい君

「へ~、今日ここ見に来るって言ってたのは、君のことだったんだね!」


 あれから、彼女に半ば強引に部室に引き込まれた俺は、目の前のお茶に手も付けず、ただ彼女の話を聞いていた。

 艾夕夏というらしい彼女は、昨日と同じく髪を括り、短冊片手にお茶を飲んでいた。いたたまれないキラキラから逃げ出そうとしたのに、今度はキラキラから冷笑に変わったであろう目線を集めていた。


「彼女は、1年生ながらも短歌の才能はピカイチなのですよ」

 と、ひばり部長は紹介した。

「へぇ……」


 と言いながら夕夏を見ると、彼女はふふんとでも言いそうな顔でこちらを見ていた。小生意気な顔は、小悪魔な美少女を彷彿とさせた。


「あのねあのね、今日はこれ作ったの!君も見てくれないかな?」

「え?な、なんで?」

「経験ある人たちから聞くのもいいんだけど、何も知らない人からの意見も聞きたいからさ!お願い!」


 彼女に押し付けられるような形で、彼女の書いた色紙を読んだ。綺麗な丸っこい文字で、色紙には文章が綴られていた。


 夏空を 駆ける汗たち 涙たち 今ある夢に 飛ぶように舞え


「これは……」


 あまり短歌のことを知らなかったのに、この歌を理解するのに苦労しなかった。

 言葉一つ一つから、情景が浮かぶ。あの時、がむしゃらにグラウンドを駆けていた景色が目に映る。ただの言葉なのに、言葉が写真のように見えた。


「えへへ、これは昨日のとは違う自信作だよ!」

「……」


 あまりにもリアルな写真に見えて。俺は思わず、その景色見たさに目を閉じた。


 じりじりと照り付ける太陽の下で、俺は着慣れない、新しいユニフォームを着て練習をしている。ウォーミングアップから気持ちを高めていき、体を温めて動かせるようにしていく。周りにいる先輩たちに負けないという気持ちで。同級生たちにも負けないという気持ちで。

 ボールを触る機会が少ないとしても関係ない。触れるときに、全力を尽くす。そうしていつしか、俺は監督に選ばれるくらいの選手になれた。

 それでも、まだ。まだまだ上を目指す。常に全力。頑張る意義とか、関係なく全力。ここが俺の居場所で、ここにいることこそが俺の人生だ。だからこそ、俺は駆けていく。体がぶつかって汗が舞うこのグラウンドを、全力で駆け抜ける。


「……一番に……」

「ん?」


 思わず呟いたとき、疑問符を付けた夕夏の声に、現実に戻ってしまった。


 現実の俺は、杖をついて片足を守って歩く、元サッカー部だった。ウォーミングアップから高めていた気持ちは、二度と高ぶることがない。少なかったボールを触る機会も、今はもう二度と来ることがない。上を目指す気持ちも、人生を駆けていたものも、何もかも。たった一つの事故が、たった一つの足のケガが、俺のすべてを奪ってあざ笑う。そんな感覚が、二度目の襲来を果たした。


「ねぇ!ちょっと、大丈夫!?」

「え……」


 肩を掴まれ、体を揺すられたところでやっと本当の現実に戻った。目の前からすべての希望も絶望も消え去り、昨日の少女が心配そうに肩を掴み、顔を覗き込んでいた。

 彼女は、目元をハンカチで拭う。そのしぐさが、やっと俺の涙を俺に気づかせた。


「あ、その……ごめん」

「大丈夫。それより、どうして急に……」


 泣き始めたの?きっと彼女は、そう聞こうとしていた。でもそれが、俺は聞きたくなかった。


「……帰る」

「え?」


 色紙をたたきつけるようにそこに置き、杖を握って逃げるように部室から逃げ出した。

 やはり、足が俺を邪魔する。もう、諦めてしまおうかと、俺は思った。

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