今度はちゃんと手を伸ばして
「やっと止まったか……」
「……」
夕夏が走った先は紅葉の綺麗なあの公園だった。葉は枯れ切ってすでに禿げている。その景色をどう映しているのか、今は全く見えない。
再三迷って、俺は夕夏を連れ出そうと思って夕夏の手を取った。息が白く濁る程寒い空の下、夕夏の手は熱くて寒かった。
どこか落ち着いて話せる場所に行こう。そう思ったのに、夕夏は俺の手を振りほどいた。
「えっ?」
「……」
依然として夕夏はこっちを見ない。だけどその方は徐々に震えてきていて、足元が少しだけ濡れていた。
「……ダサすぎるよ。あたし」
「そんなこと……」
と言って否定しようとしたのを、夕夏は首を振って止めた。ゆっくり振り返った夕夏は、やっぱり真っすぐに顔を上げることはできてなかった。顔色はわからないけど、夕夏が泣いていることだけは痛いくらいにわかった。
「……何一つ本気になれなかった。吹っ切れたって思って、立ち直ったって勘違いして。なのにずっと、吹っ切れたはずのことばっか考えちゃって……。そのくせそれを今になって後悔して……。本気でぶつかってほしいって言ってくれたあの子のことも。あたしをこの道に推してくれた先生も。今回だけは、全部全部裏切って……」
「夕夏……」
スカートのすそを握りしめて、何かを噛み殺しながらそう話す姿を、俺はよしなんてできなかった。
「……いいじゃん。悔しいんだから、悔しいって叫べば」
「でも……あたし、今回の賞で何一ついいように映すことができなくて……」
「だから何だってんだよ。人間、いい時があるなら悪い時もあるだろ」
そういうと、夕夏は少し顔を上げた。やっぱり予想通り、その顔は悔しいと叫んでいた。
もう一度手を引いた。夕夏は少しためらうような顔をしたが、今度はそれを振り払う仕草をしなかった。
「自分の力が出し切れなかったとか、余計なこと考えちゃったとか。そういう後悔は全部、悔しさにするんだよ」
「香月……」
「悔しさは辛い。だから悔しいと思ったら、次はそんな思いをしないでいいように努力できる」
手を引いて、公園の中をゆっくり歩く。二人の体温が手を介して混ざり合う。徐々に温まる手が俺らの中にあったわだかまりを絆していくようだった。
「悔しさを重ねて。二度と味わうことのないように努力はその倍以上積み重なる。だけど結局悔しい思いをして、また努力を積み重ねる」
だけどそれは、途方もない道。一人でやるにはあまりに孤独で重い。俺らが一人でそんなことしても、積み重ねた努力に耐え切れずに押しつぶされてしまう。
だけど、俺らには相棒がいる。共に信頼して、切磋琢磨し合える相棒が。
「……もし悔しくって悔しくって仕方ないときは、俺のことを頼っていい。悔しさをぶつけてもらって構わない。ダサさとか遠慮とかは、俺らの仲ではなしだ」
「っ……」
「だからさ。叫びなよ、好きなだけ。全部、俺が受け止める」
それが、お前の居場所になるためにできることだと思うから。
夕夏は悔しさを叫びながら俺の胸で泣いていた。
「悔しい……あたしの力、何にも発揮できなくて……!余計なことばっか考えちゃって……それが死ぬほど悔しい!」
「うん」
「それに、香月が入賞してるのにあたしが入ってないのも……全部全部悔しい!」
夕夏がぎゅっと力強く制服を掴み、胸のあたりが徐々に熱く湿り始める。
「ずっと頑張ってきたのに……!こんなしょーもないことで負けるなんて、そんなの納得しきれないよぉ!」
泣き声が俺の胸骨を震わせる。今はただ自分の好きな人の為に、その人の弱さを全部受け止めていた。
寒空の中、俺らだけは「悔しさ」という燃料で燃え上がっていた。




