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募る思いも三十一で  作者: 時雨 悟はち
秋が静かに、夏を越すため目を光らす
30/39

知るため手段を問わず。記者はそうして成り上がる

そういえば、前書きって何書けばいいんでしょう。なんか書きたいけど、書くことがないんですよね。新キャラは、私の癖どストライクです。よろしくお願いします。

時雨

 今目の前の彼女の目に、俺は恐らく滑稽に映っているだろう。

 あからさまな動揺を顔に貼り、明らかに狼狽した様子で顔を引いた。名前を当てられただけでそんな様子をした俺は、きっと面白い動きをしていただろう。

 彼女はその笑みを浮かべたまま、フフッと声を漏らした。


「そんなに狼狽してどうしたのさ。別に、サッカーをやめて文芸の道に行ったことを笑ったりはしないさ。むしろ、この道を歩むことに決めたことに祝電を送りたいくらいだよ」

「祝電……」


 その自信満々な笑顔を崩さず、何も知らない彼女はそういった。短い髪からあふれ出る勝気からもその自信がうかがえた。

 綺麗な黒髪や小柄な体躯。細い縁の丸眼鏡からは気弱そうな文学少女を彷彿とさせる。だがその見た目と裏腹に、彼女は勝気で生意気だ。


「あー……いや、訂正しよう。祝電というには、君の事情を知らなすぎだったな」

「うん。そうしてくれると、助かる」


 勝気な顔が少し苦い顔になった。しかし眼鏡の奥に光る鋭いまなざしは依然として輝いていた。


「それで、もしよければその天才サッカー少年だった君が、どうして文芸の道を歩み始めたのか教えてもらってもいいかな?」

「えっと……」


 彼女のその申し出は、俺の中に迷いを産んだ。

 見ず知らずの彼女に、俺の話をしてもいいのだろうか。この話をして、無駄に傷つきたくないと思う一方でそんな話したところで何も変わらないじゃないかと囁く自分もいた。

 顔の筋肉が強張る。みるみる引きつっていく顔を見て、彼女はため息を一つはいた。


「……まあ、言いたくないならいい。どうせ調べれば出てくるだろうから」

「は?」


 俺の怒気を含んだその声にも、彼女はひるまず、平然としていた。


「君の高校のサッカー部は……。吉田遊星、鎌田智樹、それと……ああ、真宮勇次だったか」

「……」

「ふっ。なんでそんなことを?とでも言いたそうな顔だね」


 図星だ。図星で、それでいて彼女のいう事はすべて正解だった。

 どういう情報網で、どういう経緯で知ったのかは皆目見当もつかない。ただ一つ言えるのは、多分その人間関係を、いい方向で使うことは一切ないだろうという事だけだ。


 目の前の彼女は、記者だ。気になることがあれば。知りたいことがあれば、その人脈をどうだって使う。たとえ非人道的な使い方でも、知るためならその手段さえもいとわない。

 少なくとも今、そのように映る彼女は、苦手だ。


「彼らはボクの知り合いでね。以前、少しサッカーについての見識を得るために話をしていたのさ。君のことを知ったのも、その時だよ」


 眼鏡をかけ直し、マフラーを気にしながらそういった。

 勇次はきっと、俺の話を言いふらしたりはしないだろう。ただ、遊星と智樹はわからない。言いふらすだけじゃなく、俺が辞めた理由だとか、文芸部に入った理由だとか。そういう部分を、嫌な脚色をするかもしれない。そんな懸念が、一層嫌悪を強めていく。


 その様子を察することはなかった。その勝気な顔が変わらなかったから、仕方なく話題を変えるためにこちらから話を切り出した。


「君は、どうして今度の賞に応募しようと思ったの?」


 そう聞いた瞬間、その目は闘志に燃え出した。今まで凛としていたその目が、勝負に燃える「勝負人」の目に変わった。


「……ボクの目標はただ一つ。それさえ達成できればなんだっていい」

「目標?」

「ああ。ボクがこの道を去るには、どうしてもたった一人を越えなければいけない。そのためならボクは、どんな手段を使ってでもボクの才能を伸ばす」


 その短冊を握りしめて、山の木々を真っすぐと映した。瞳に反射する椿の色が一層鮮やかになっている。


「……『艾夕夏を超える』。それを成し遂げるまで、ボクはこの道を去ることをしない」


 その口から出た言葉の熱が、冬の寒さに感化されずに届いた。決意に満ちたその目は、おおよそ俺らとは違って。それでいてその決意は、俺らの目指すものとは真逆の決意だった。

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