挫折の再演、発起した決意
虚無感を覚えながら、俺は公園で座っていた。短冊とペンを握りしめながら、それでも頭の中には気の利いた三十一文字も、綺麗な三十一文字も、何にも思いつかなかった。あの写真では寂しげながらも、あんなにも鮮やかに写っていたのに。夕夏がいないこの公園は、色が物足りない。
夕夏が来なくなってから1週間。ついには、部長までもあまり顔を出さなくなってしまった。これでもうあの部室にはもう俺しか残っていない。
なんだか、空虚な気持ちだ。今まで一緒に頑張ってきた仲間が隣から消えた。俺の隣には今、木枯らしのみが鎮座していた。
あの頃の夕夏もおんなじ気持ちだったのだろうか。隣にいたはずの仲間が突如いなくなるのは、こんなにも寂しいものなんだな……。
会いたい。ついに誰とも関わらなくなってしまったからか、そう思うようになった。もう一度だけ戻れるのなら、今度は逃げないでいられるのに。そんなことを思う時点できっと、俺は同じことを繰り返すのだろうけれど。
「……っああ、くそっ!」
つい、手元の短冊を放り投げた。ふと思い出した夕夏との出会いに、今の行動を重ねてしまった気持ちに気が付いていないと言い聞かせた。
何もかもなくなった。少しずつ、砂漠に積み立てていった都市が突然更地になったようだ。荒れていた時に救い出してくれた彼女を。突っぱねた俺を認めてくれた先輩を。俺はその二人を手放すような選択をしてしまった。
なんだか今日は。いや今はもう、とても短歌なんか詠んでいられない。
このまま短歌をやめてしまうのではないだろうか。そんな不安は、今は心の奥底にしまい込んだ。
街中の雑踏が響く。重い感情を背負いながら、それを置き去りにするように自転車を漕いでいた。ポケットに入っている携帯がしきりに鳴り響くから、そのうちに私は通知を切った。
夕夏ちゃんが来なくなってから、次第にあの部室に行くのが億劫になった。以来、無断で部活を休んでからずるずるとそれを続けてしまっている。だめだとはわかっていても、頑張る気力だとかが湧かず、逃げるように学校から出ていくのを繰り返していた。
「……はぁ」
重いため息がやっと一つ吐き出される。積もりに積もった辛苦と後悔は、そんなんじゃ発散しきれない。むしろ、豪雪のように降るそれがどんどん積もっていく。
いつも通る駅前通り。駅を挟んで反対側に私の家はあった。
駅前には学生が多く歩いていた。あるグループは男子だけ。あるグループは女子だけ。カップルも友達グルーブも、みんな二人以上で並んで歩いていた。私だけが、独りぼっち。
「……香月くんたちには、申し訳ないことしちゃったな……」
もしかしたら、私が余計なことをしなければ今頃は、ここを闊歩するカップルの一組として二人で短歌を詠んでいたのかもしれない。
そうじゃなかったとしても、きっと二人は順調に仲を深められたはずだ。それなのに、 私が、余計な悩みをして。それを心配させてしまったせいで……。
考えれば考えるほど、自分の愚かさが露呈していくようで自己嫌悪が進んでいく。それを防ぐために耳にイヤホンを突っ込んでいたのに、その音楽は一切聞こえてこない。
今、二人は何しているのだろうか。きっと二人とも落ち込んでいる。仲直りに向けて動いているのか、まだ傷心が強く体を押さえつけているのか、どちらかはわからない。だから断言できるのは、たったそれだけだ。断言できることがそれだけなことと、それが断言できてしまう事が呪うように付きまとった。
____少し、別のこと考えましょ
不意に、香月くんに言った言葉が過去から返ってきた。あの時、息詰まっていた私たち
の空気を取り除きたいと思ったから出てきた言葉だったが、今の私に返って来たという事はきっと、今の私に必要だと思って引っ張り出した言葉だったのだろう。
だから、ふとそう思った私は自転車を止め、近くにあった公園に入ってブランコに座った。
金切りを上げながら動くブランコに乗ってボーっと考える。公園を駆け回る子供たちが羨ましく思えてきて、空しい思いに襲われてブランコから落ちてしまった。
「いったぁい……」
背中のひりひりとする痛みに、情けなさと阿呆さを感じて笑いが漏れた。
自分が知らないことを知るために。身勝手なお願いをしたばっかりに。私は、部員の仲を引き裂いてしまった。ずっと部員のことを考えていたのに、今回は全く部員のことを考えることができなかった。そう考えたら、本当に何してるんだろうって思えてくる。
「……うん。それしかない」
背中を強く打ったからか、邪心が抜けたような気がする。こんなことをしでかしてしまった私にできるのは、その仲を取り持ち、元通りにすることだけだ。
そう思えたら、案外楽になれた。痛みで覚悟が決まったのか。それとも少し冷静になれたことで希望の見える選択肢を見出せたのか。それはさほど重要じゃない。




