寄り添いたいから、悩んでしまう
その日からの部活動で、明らかにひばり先輩のため息が増えた。どうやらどの部員から見ても明らかなようで、次第に心配する声を聴くようになっていた。しかし、そんなうわさが流れているというのに、当の本人は全く聞く耳を持たず、それどころか日に日にため息が増す一方だった。
「……なあ、夕夏」
「なに……」
ガードレールにもたれるようにして町の商店街を映す夕夏は、上の空のような返事で応答した。
「ひばり先輩、どうしたんだろうな」
「う〜ん……何かに悩んでるのは間違いないんだけどなぁ」
夕夏はそういいながら、短冊に筆を走らせた。
寒さに身を震わしながら、目の前にある商店街の風景を映した。人々の歩みは、冬の寒さから早く逃れまいとしていて、色々な防寒着を羽織り、巻きながら足早に移動していた。逃れられないものを、それでも逃れようとする姿に、思わず同情した。わかる、今しがたの俺だって、本音を言えばめちゃくちゃ寒いし、あったかいカフェの中でゆっくりしていたいもの。
そんな俺らを吹き抜ける風を感じながら、何枚か色紙に景色を映した。隣の夕夏も、ところどころで色紙に何かを書き込んでいた。けど、いつもと比べたら険しい制で。多分、あまり納得した出来にならなかったのだろう。
それから一時間ほど書き続け、夕夏のポケットからアラームが鳴って、今日の短歌はお開きになった。初めて会った時のような癇癪は起こさないものの、書いた短冊をものすごい形相で睨んでいた。
「ぬぬぬぬ……」
「……」
なんだか唸ってるし。すごく不機嫌だなぁ……。
そう思いながら学校に戻っている途中。信号で待っているときにふわっと辺りを見渡すと、信号奥に一軒のコンビニを発見した。
「……夕夏。ちょっと待ってて」
財布を取り出しながらそういうと、夕夏は一瞬慮を突かれた顔をして、それから納得したようにうなずいた。
店内に入ると、暖かな室温に身を包まれた。結構冷えていたのもあって、ほな気持ちになった。
棚に置かれたホットミルクティーを手に取り、レジに並んだ。
「これと、肉まん二つください」
「肉まんですね。ありがとうございま〜す」
財布の千円札を渡し、暖かいに満ちたレジ袋を手に提げて、外に出た。
「あざっした〜」
外に出ると、夕夏は座り込んで手に息を吹きかけていた。白濁した息が覆った手から漏れ出る。日が暮れかけるこの時間は、一層冷え込んでくるから無理もない。
「ん」
「熱っ!」
ほっぺにミルクティーを当てると、肩をビクンと弾ませて飛び退いた。
「あっはは!」
「びっくりしたぁ……。もう何すんのさぁ!」
ごめんごめんと言いながら、買ってきた肉まんを手渡した。
「ほら、買ってきたから。あと、欲しいって言うならこれもあげる」
「いいの!?ありがとー!」
そういって、やっと満開の笑顔を咲かせた。うん。やっぱ笑ってくれた方がいい。
にこにことしながら肉まんを頬張る夕夏。ずっと何か思い詰めていたように見えていたから、やっと肩の力を落としてくれたようでよかった。
「先震のこと、心配?」
「うん。あんなに落ち込んだ素振り初めて見たし」
そういって、また少し肩を落とした。
いつも分け隔てなく気を利かせる先置が、今回はなぜか隠し事なんて、気を利かせてしまうような態度をとった。よほど、先輩の中では頼らぬべきな悩みなのだろうと察する。頼られないことには特に何も感じないが、この部活をまとめているリーダーがその様子なのだから、心配ではある。
コクコクとミルクティーを飲みながら、ホッとしたような前で夕夏は隣を歩いている。甘いミルクティーの匂いに、鼻がくすぐられるような感覚を覚えた。
多分、俺も夕夏も、先輩の悩みにずけずけと入っていく資格も義理もないのだろう。だけど、俺も夕夏も。昨日の顔を見てしまったから、そう思っていたとしても気にせずにはいられなかった。寒い街に吹きぬく風が、悩みも乗せていけばいいのに。なんて、ちょっと思った。




