秋冬の狭間、熱を帯びる約束
明朝、カタカタと風で震える窓の音で、俺は目を覚ました。
スマホの液晶に映る時間は五時半。早めの起床は妙に目を冴えさせた。
特に理由もなく起き上がり、ふと外に目を向けた。震える窓の外は朝が薄く伸びている。一本だけ見える木が大きく揺れていて、枝に付いた微量の枯葉が一枚、また一枚と飛んでいった。
カバンから短冊を取り出し、それから今度は映し出す。薄く伸びた朝は、よく見れば奥の方が色濃くなっていた。枯葉の付いた木の先に広がる薄い朝が、枯葉の切なさを助長しているように見えた。
目の前に広がる十一月の風景を、俺は色紙に映した。以前とは違い、滑らかに動く筆先が楽しい。弾むような気分で、一つの風景を色紙に閉じ込めた。
憂い木と 薄い朝に 眠る街 広がる橙 朝に染めてく
満足した気分で、短冊をカバンにしまった。下から聞こえる料理の音で、すでに朝の三十分が費やされたのに気が付いた。
「まじか、そんなに集中してたか」
しかし勿体ないという感情はない。それどころか、有意義だなとさえ思った。
明朝六時。久しぶりに早起きした朝は、いつもよりもきれいな世界が広がっていた。
『おーはよ!』
というメッセージにスマホが震えた。夕焼けに紅葉を一枚かざしたアイコン、タ夏からのメッセージだ。
変わらないそのメッセージに、俺は口元を緩ませながらスマホを開いた。割の後に、 どんなユーモアを放とうかと悩んでいると、続けて夕夏から連絡が来た。
『今日は一日晴れーだから、近くの田んぼにでも行こうと思うんだけど、どーする?』
今日の部活場所の相談だ。冬も差し掛かるこの時期なのに、よく外に出る気になるなと思ったりする。そんなことを思いながら、俺は返信を打ち込む。
『いいよ。今日は一段と冷えるらしいから、ちゃんと防寒着持ってきなよ』
そう送って、俺はご飯を再開した。暖かな味噌汁が体の芯に染みわたる。
「香月、そんなだらしない顔してたら、彼女に愛想つかされるわよ?」
「ぶふっ!」
母のありえない発言に、思わず味噌汁を吹き出してしまった。飛び散った味噌汁が熱すぎる。
「あっちあっち!だから、かか、彼女はいないって!」
「ふ〜ん……鼻の下伸ばして、だらしない顔浮かべてるのにねぇ?」
「浮かべてない!」
断じて、俺は夕夏と恋仲になんてなっていない。彼女は大事な仲間で、親友だ。不均な感情なぞ、誰が向けるものか。
これ以上からかわれるのも勘弁だから、俺はそそくさと朝ご飯を済ませた。逃げるように自室に向かうと、涼しい風が部屋を吹き抜けた。何故か火照っていた頬を、その風が冷ました。
それから時間は流れて、日が徐々に赤みを増していく三時ごろ。先生に帰りの挨拶をすますと、ぞろぞろと周りは部活に向かっていった。
もちろん、俺も例外じゃない。帰りの支度を済ませ、カバンから短冊を取り出して、 取りやすい位置に入れ直す。ひばり先輩には事前に田んぼに行くことを伝えているので、 俺は部室に行かずに正門に向かった。
奇しくも、俺と勇次は同じタイミングで教室から出てきた。サッカーのカバンを背負った勇次と、目が合ってしまった。
どうしようもない気まずさを覚える。部に引き戻そうと尽力してくれた彼を、裏切ったのだと思われているかもしれない。そのことが、後ろめたさとかにはなっていないけど、申し訳なさは感じていた。
「……あの、勇次。俺……………」
「…俺、次の大会で、死んでもベンチに入れるように頑張る」
「え?」
俺の話すら遮って、勇次はそう決意を表明した。彼がそれを目指して頑張っているのは、誰よりも彼と関わっていた俺が一番知っているのに。
勇次は、俺の胸をたたいた。強くはない、けれど胸に響く、想い強い拳だ。
「お前も、死ぬ気で頑張れ」
「勇次……」
それだけ言って、勇次は去っていった。いつも見てた背中が広くなっていて、本当に死ぬほど努力していることを物語っていた。
男の約束。そんな言葉が、多分ふさわしい。胸にしっかりと握りしめて。胸にしっかりと刻み付けて。俺とは違う世界で努力する彼を応援して、俺の選んだ世界で努力すると、改めて胸に誓った。




