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募る思いも三十一で  作者: 時雨 悟はち
一生懸命を見つけるために
1/10

募る思いも気づかぬまま

 相手の気持ちを見たことなんてなかった。


 表情、仕草。人はあらゆる動作を介して、自身の気持ちを表現している。けどそれは単なる予想。相手が本当に何を思っているかなんてのは、聞かないとわからないものだ。

 と、言うことを。俺は同級生によって知ることとなった。彼女は、俺と同じ空間で、同じ空気を吸い、そうしているのに俺と全く違う考えを持っていたのだ。


「だから、自分のならともかく、人の気持ちを言葉になんてできないってば!」

「いや、だけど、大抵の予想はつくだろ?」


 放課後の部室の中。不毛とも見えてしまいそうな議論だったが、俺らにとっては重要な視点の一つであった。


「もう!じゃあ香月(かつき)は今あたしがどんな気持ちかわかるの!?」


 半ばムキになりながら、夕夏(ゆうか)は俺にそう訊ねてきた。

 イライラとした表情。頬を紅潮させ、前のめりになって眉間にしわを寄せているのを見れば、誰だって怒っているってわかるだろう。


「イライラしてんだろ?わかるって言ってんだろ!」

「じゃあ、それを実際に詠んでみなさいよ」


 そういって、夕夏は紙とペンを押し付けてきた。

 仕方なく、俺はこの目の前を観た。前のめりになってぷりぷりと怒っている彼女を、文字に書き起こして歌を詠んだ。


秋空が 広がるような 頬の君 わかるわかるよ 怒っていること


「どうだ!」

「あたしの気持ち無くなってるよ……。これじゃ、あたしが怒っているだけ見たいじゃない」

「え?違うのか?」


 違う!と言わんばかりの目で俺を睨みつけてきた。何が違うのだろうか。


 それからは、さらに議論が白熱し、なぜか着地点は草木の揺れは感情になりうるというものだった。

冷静になって議論のことを考えると、確かに人の気持ちなんてものは見えない。だからこそ、俺が詠んだ一句はあまりよろしくないものだと気付けた。


 二人きりの部室。男女二人きりの空間には甘酸っぱい空気は流れない。割と真剣な、短歌に向き合う二人の空気が流れている。

 すべてを捧げるような、人生をかけているんじゃないかと錯覚するような部活動の青春。短歌にささげた俺の青春は、目の前にいる(よもぎ)夕夏がいて、やっと始まる。

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