第8話 決着
神聖なる存在。
しかしとんでもない悪意を感じる。
天から舞い降りた緑髪の白い存在は冷たい視線を突きさしてくる。
「……リズ。」
「最悪。
アストライアよ。」
「尊厳が足りませんね。
敬称くらい配慮していただけませんか。」
「フン。
デーモンを使役して私らのパーティーを全滅寸前まで追い込んだ、
しかも私らの世界を乗っ取ろう神に敬称?
笑わせないでほしいわね。」
「神を愚弄しますか。
万死に値します。
今すぐ死んで神の身許に逝くとよいでしょう。」
ガァン!
轟音と同時にアストライアの頭が後方へ吹っ飛ぶ。
マスケット銃をぶっ放したリズが涙目で吐き捨てる。
「……くたばれ。」
「口が汚いですね、リズ。」
ゆっくり仰け反った頭が戻ってくる。
「特注の銀弾でも死なない、か。」
「ふふ。
リタルとダンテと同じところに連れて行ってあげましょう。」
「ぐっ……、お前えええええっ!」
「リズ! 加勢する!」
「レイル! こいつは私の……!」
「じゃあその後で俺を殺せばいい!
こいつを何とかしない限り世界に平和は来ない!
リズの仲間達も平和を望んで逝ったんだろうが!
今じゃない! 未来を取れ!」
「レイル……。」
ティトは目を覚まさない。
マグリーが何かしているようだが、
アストライアが強大で視線が行かない。
斧を振りかざすも斬った先から傷が治癒していく。
リズも特殊な弾を撃っているようだが、決定打に欠ける。
ガチン。
「あっ! 弾切れ!?」
「ふふ。」
「クッソ。
まさか傷が治らないとはな……。
こういう時に役に立たない呪いだ。
アストライアに無効化されている。」
「あぁ、なんて甘美な響きなのでしょう。
足掻いて足掻いて、無力に落ちるその表情。
絶望に打ちひしがれる慟哭。
なんて素敵なメロディー。
人は死の瞬間が一番美しい。
ラグドゥネームよりも甘い。」
「そうだな……。
だが、神が死ぬ瞬間はもっと甘いかもな!」
空間が波打つ。
「む。」
「兄さんを……、リズさんをいじめたな……!」
「ティト!? 寿命が……!」
「こんな逸材を殺すかよ!」
ノイズでも入るかのようにマグリーが滲む。
「っ!
マグリー!? あなたまさか!」
「言ってなかったかもな!
俺も、召喚士だぜ!
そこのお嬢ちゃんより全然出来損ないだけどな!」
「ま、まずいですね。
空間逆相をもう一回できるとは……。
この空間を逃れられれば問題はありません。
残念でしたね。」
「クッ! 逃げられる!」
「リタル!ダンテ! 力を貸して!」
ドガァン!
リズのマスケット銃から放たれたとんでもない爆発。
「があああああっ!」
アストライアの下半身が吹っ飛ぶ。
治癒が追い付かない!
「この弾、撃てちゃった。
でもマスケット銃が壊れちゃったわね。
この石で……!」
「リズ、そのを石をこっちに寄越せ!」
「マグリー!?」
「悪いようにはしねぇ!
今だけ……、今だけは俺を信じてくれ!」
どうする?
また信じてもいいの?
裏切るんじゃないの?
でもこうしている間にアストライアが治癒したら?
「うまく使いなさいよ!」
水菫青石がリズからマグリーの方へ飛んでいく。
「へへっ、かかった!」
「っ! あなたって人は……!」
「そっちじゃねぇよ!
アストライア、てめぇだぁぁぁっ!」
逆相召喚をするティトの空間が脈打ち、
一段と拘束力が高まる。
「ま、待ってください!
こんなはずじゃ!
こんなはずじゃあああああっ!」
空間が渦巻き、アストライアは吸い込まれていった。
4人がいる場所に光が差し込む。
「おーおー、勝ったじゃねぇか。」
「やった……?
私達やったんだ!」
「ティト!」
「うん……?」
「か、身体は!?
大丈夫なのか!?
寿命が……!」
「あー、その辺は心配いらねぇ。
さっき時間を稼いでくれたろ。
お嬢ちゃんに寿命、移譲しといたからよ。
何年かは知らねぇが100年くらいはあるんじゃねーの?」
「マグリー?」
マグリーの輪郭が不安定だ。
「マグリー!?」
「死なない身とはいえ、一つ方法があるとするなら
とんでもないエネルギーを一気に消費した場合に限ってな
回復以前に消滅するんだぜ。
最後に信じてくれてありがとうな、リズ。」
「私……、最後の最後であなたを……!」
「信じてくれたんだろ。」
「マグリー……!」
「水菫青石を持ってっから消えるまでもうちょい時間あるかな。
わりぃな、すぐに死ななくてよ。
最後の大仕事が残ってやがるんでちょうどいいかな。」
「何よ。」
「この世界を切り離さなきゃならねぇ。
まだデーモンにアストライアが死んだことはバレてねぇが時間の問題だ。
そうしたら、わかるよな?」
「……。」
4人は黙って階下に歩みを進める。
狭間まで着いたところでティト、レイル、リズの3人が元の世界に足を進める。
「……マグリー。」
「裏切り者の末路だ。
いいんだよ。
ホラ、狭間を閉じるぞ。」
「あなたもこっちの……!」
「ありがとうよ。
その気持ちだけで俺は十分だ。」
マグリーの輪郭がいよいよ背景に同化していく。
小さく地響きがする。
「マグ……!」
「あー、危ねぇ。
忘れるところだった。」
「なによ!」
「リタルとダンテに言っとくことねぇか?」
「っ。」
「逝けたら言伝てやんよ。」
「いっぱい幸せになってから逝くから、
首洗って待ってなさいよ。」
「オウ。確かに。
最後に、ホレ。」
「?」
マグリーが狭間越しに腕を伸ばす。
同じく腕を伸ばしたリズの手に貸した水菫青石がのしかかる。
「あ……!」
「楽しかったぜ、リズ。」
「マグリー!」
背後を向いたまま右手を上げるマグリー。
バキン。
向こう側から確かに狭間は封印された……。
「リズ。」
「これだから……、
自分勝手だから男って嫌いよ……。」
涙を零すリズ。
俺はリズに何ができるだろうか。
またしても仲間を失ったリズに……。
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