第3話 リズ
「何!?」
「あら、外したかしら。
私にしては珍しいわね。」
ピンクの髪の冷たい目線をした女性が、
大きなマスケット銃を肩に乗せながらこちらに歩み寄ってくる。
「……なんだお前は。」
「よく見なさい、おバカさん。」
「うん?」
よく周りを見てみると先ほどの小悪魔が頭をぶち抜かれて痙攣している。
「……あの傷で生きていたのか。」
「お嬢ちゃん、珍しい能力を持ってるわね。」
「召喚のこと……?」
「やっぱり召喚士か。
持っているものがいるかもしれないとは言われているけど、
理論上ではまず見かけない伝説のスキルね。
お名前は?」
「ほー。
自らは名乗らず、人に尋ねるのがお前のやり方か。」
「助けてあげたんだからこれくらいのことは許してほしいわね。」
「ティト、ティト・ランシェ……。」
「えっ……。
ティト!? ティト・ランシェって言った!?」
「なんだ、ティト有名人か?」
「え……、え? 本当に……?」
女性が目をまん丸くしてこちらを見ている。
「嘘は言ってない……。」
「そ、そうよね。
嘘をつくメリットがない。
むしろデメリットだわ。」
「何がデメリットなんだ。」
「ダンジョンでよく名前を聞くのよ。
負けて敗走するモンスターが
”ティト・ランシェがいれば……”ってね。
てっきり字持ちの特殊なモンスターなんだと思っていたわ。」
「あ……、私ダンジョン育ちだから……。」
「ちょ、ちょっと待って。
情報量が多すぎるわ。
ダンジョン育ちって?」
「さっき九頭竜の蛇が見えたろう?」
「見えたわね。」
「俺らの親だ。」
「……頭が痛くなってきた。」
「ごめんなさい……、大丈夫……?」
「つまりは、あなたたちは兄妹で、
ラドゥーンに育てられた人間ってこと、で合ってる?」
「うん……。」
「まぁ、完全にダンジョン育ちはティトの方でな。
俺はダンジョンを早いうちに出ている。
俺の名は聞かんだろう?
妹のように変わったスキルはないからな。」
「お兄さん、お名前は?」
「さすがに名乗ってくれないか。
何かしそうだと疑ってしまう。」
「……エリザベス。」
「はて、こんなに銃の扱いが上手いのなら
名が轟いていると思うんだが聞き覚えがないな。
偽名ではあるまいな?」
「ちゃんと本名よ。
私、結構顔に出るタイプでね。
嘘つくとすぐにばれちゃうのよ。」
「だから……、冷たい表情をしてたの……?」
「っ。 あ、うん。
ティトちゃんは鋭いわね……。」
「俺はレイル、レイル・ランシェだ。」
「……。」
「どうした。
嘘は言ってないぞ。」
「ティトちゃんの名前が出た時点で、
まさかなー……、とは思ってたんだけど。
レイルなのね……。」
「なんだ、俺の名前も知っているのか。」
「不死身のレイルって言われてるわね。
なんでかまでは知らないんだけど。」
「ほー、そうか。」
「で、その宝箱なんだけど。
出来たら中身を譲ってくれないかな。」
「意味が分かって言っているのだろうな?
これは世界を救うためのものかもしれないのに。」
「……使い方を知ってるとしても?」
「何? 使い方があるだと?」
「中身は”ウォーターアイオライト”。
次元の狭間を閉じるための聖なる水菫青石。
パワーだけのおバカさんには扱えないわよ。」
「言ってくれる。
本当に扱えるなら譲ってやってもいいんだがな。
お前は信用ならない。」
「ふーん、そう。」
レイルが取り出した宝石に指を向けるエリザベス。
すると宝石が強く輝きだす。
「うお!?」
「信用する気になった?」
「マジかよ……。」
「エリザベスさんはどうしてこの宝石が扱えるの……?」
「え? あぁ、ちょっと腐れ縁があってね。
っていうか、エリザベスなんて堅苦しい。
リズでいいわよ?」
「急に愛想がいいじゃないか、お前。」
「ティトちゃんが可愛いからね。」
「二言はない、この石を譲ろう。」
「あら、潔いいわね。
戦いでも挑んでまで死守するだろうと思ってたのに。」
「残念ながら俺では使えないようなのでな。
リズは世界の危機にも詳しいようだ。
代わりと言っちゃなんだが、教えてはくれないか。」
「いいわよー。
何なら次元の狭間がどうなってるか、
どこにあるかまで知ってるわよ。」
「なんだと?」
「ま、おいおい話しましょうか。
ティトちゃん、召喚はいつから出来るようになったの?」
「生まれ持ち……?」
「あー……、後天的スキルじゃなかったのねぇ。」
リズとティトを前にレイルがついていく形で歩みを進めていく。
これから3人の冒険が始まる。
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