第10話 凱旋
ダンジョン。
モンスターが巣くう暗闇の場所。
それと同時に私が育った場所でもある。
「だーっはっはっは!
ティトが帰ってきたぞー!」
「ったく、ゴブリンはいつもうるさいねぇ。」
「ラミア姐!
ティトがダンジョンを選んだんだぜ!?
喜ばずにいられるかぁ!」
「まぁ、そうだね。」
当の私はクラウンの舞台に座らされている。
そんなに派手なことをしなくてもいいのに……。
でもその隣にはレイル兄さんとリズ姉さんも座らされている。
「レイル!
いい嫁さん見つけたなぁ!」
「ゴブリン、やかましい。」
「城下の居酒屋みたい。」
「お嬢ちゃんは変わったチョーカーつけてるわねぇ。」
「ラミアさん、これは……!」
「レイルのものにされた感じ? ふふふ。」
「ひえぇ。」
「ラミア姐、俺にそんな趣味はない。」
「なんだい、レイルもやるようになったじゃないか。
そもそも女っ気がなかっただろ。」
「うぐ。」
「ふぅん。しっかし、リズとか言ったね?」
「えぇ。」
「あんたどっかで見たような気がするんだよねぇ。
……あれ? あんたゼインの……。」
「ぎくっ。」
「まぁ、いいよ。」
「いいんですか?」
「人に言いたくない秘密じゃないかい?
それを探るのは同じ女として無粋だと思ってねぇ。」
「あ、あはは……。」
「どっちから告ったんだい?」
「私から。」
「お。積極的な女は魅力的だよ。
ただでさえレイルはこんなガタイの良いなりして引っ込み思案だからねぇ。
ティトの方がもっと積極的さね。」
「ティトちゃん、そうなの?」
「え……? 私って積極的、なの……?」
「今回の事件で怒らすととんでもなく怖いことは分かったな。」
「まぁねぇ。」
「おや、何があったんだい?」
「デーモンが居たんだがな。」
「ふんふん。」
「俺らに手を出さないという約束でティトは大人しくしていたそうだ。」
「デーモンが約束を破ったんだね?」
「そうだな。」
「ダメだよ約束を破っちゃあ。
レイル、あんたも気を付けるんだよ。
女に嘘をつく、約束を破る男は全然なっちゃいない。
あんたその辺抜けてんだからしっかりしないと愛想つかされるよ。」
「げげ……。」
「多分大丈夫じゃないかな。
わたし、レイルのこと見捨てたりしないし。」
「かーっ、いい女だねぇ!
レイル、あんたちゃんと捕まえとくんだよ?」
「お、おう。」
しばらく宴会が続き、大体が酔いつぶれた。
「す、すごい光景ね……。」
「ゴブリンは何かにつけて酒を飲みたいだけなんだ。
何でもない日おめでとうすらありそうなんだからな。」
「前に……、やってなかったかな……。」
「やってるのかよ。」
見計らったように湖の奥からラドゥーンがやってくる。
「ラドゥーン……。」
「有象無象は酔い潰れたな。
さ、静かな時間を楽しもうじゃないか。」
「うん……。」
3人はラドゥーンの背に乗り、湖を渡る。
大きい黄緑色のスライムの椅子が用意されていた。
初めての事態に驚くリズ。
「スライムに座るの?」
「リズさん、普通だよ……?」
「怒られないかな。」
「大丈夫だろ。」
ゆっくり腰かけるとふにょん、と柔らかく包まれる。
「意外に冷たくないのね……?
べたつきもしないし、不思議な感覚。」
「さて……、ティトには謝らないとな。」
「ラドゥーン、どうして……?」
「寿命が変化しているな。
逆相召喚をしたんだろう?」
「あ……、ごめんなさい……。」
「外に出るように言ったのは私だぞ?」
「でも……、16になるまでは無理な召喚は控えてって……。」
「言ったな。
ただ、逆相召喚を教えたのは私でもあるからな。」
「ラドゥーンさんが逆相召喚を?」
「リズさん、だったな。
そう。ただ、私は言葉で説明しただけでね。」
「ティトちゃん、それでやっちゃったんだ。」
「召喚の逆だから……?
そんなに難しくなかったような……。」
「普通は難しいんだけどね。
ティトちゃんはセンスがあったのねぇ。」
「本気で放ったんだろうな。
空間が重く、スライムの中にいるようだった。」
「おやおや……、ティトを怒らせたんだねぇ。」
「デーモンが……、約束を破るから……。」
「そういや、デーモンって少ないけど単一個体じゃないわよね?」
「うむ。このダンジョンにもデーモン自体はいる。
ただー……、レイルに掛けた呪いを実行できるデーモンなら
あいつだけしかいないだろうねぇ。」
「そうなんだ。」
「もういないがな。
って、あいつはどこに行ったんだろうな?」
「ティトちゃんなら知ってるんじゃない?」
「実は……、よく分かってなくて……。」
「逆相召喚で空間移送されたものの行き先かい?」
「えぇ。」
「次元が違うところさ。
なんなら超次元だから存在が出来ない。
文字通り、消滅さ。」
「ラドゥーン……、アストライアも送っちゃったんだけど……。」
「おぉ、アストライアを倒したのかい。」
「勢いでやっちゃったけどこの世界の神よね。
よかったのかしら。」
「はっはっは、心配はいらんよ。
そもそも自分で神を名乗る者を信じる性分でもあるまい?」
「それもそうだけど……。」
「本当に神を滅したのならこの世界は崩壊しておるよ。
それがないということは、自称だったというわけだ。
実際に神の一種ではあったんだろうがねぇ。」
「ラドゥーン……。」
「なんだい?」
「マグリーって……、知ってる……?」
「その名前、どこで聞いたんだい?」
「向こうの世界で捕まってました。」
「リズさんは知っているだろうね。
世界の裏切り者、と言われていた。
数百年前だったか過去に私のもとに逆相召喚を聞きに来たねぇ。」
「そうなの……?」
「マグリーは召喚に長けていない召喚士でね。
珍しく逆相召喚専門の召喚士だったんだ。
それも、向こうの世界の召喚士。
ティトに会って驚いたんじゃないかねぇ。」
「うん……。」
「マグリーは? 逝ったかい?」
「どうしてそう思うの?」
「死の影が強い男だった。
千数百年生きていることも打ち明けてくれていたねぇ。
単純に死ぬことができない存在だったから。」
「ティトちゃんに会って、やっと逝けるって感謝してたそうよ。」
「そうだろうねぇ。」
「しかし、ティトがとんでもない逆相召喚をしたのにも関わらず
寿命に差し障りがなかったんだな?」
「マグリーさんが……、発電機になるって……。」
「発電機って?」
「アストライアほどの神を逆相召喚するには、
一人分のエネルギーでは足りないんだよ。
そこはマグリーにしか出来なかっただろうねぇ。
十数人分のエネルギーを蓄えていた逆相召喚士だ。
適任だったんだろうねぇ。」
「マグリー……。」
「……さて、今ここでしか出来ない話をしようか。」
「?」
「?」
「?」
3人が不思議そうな顔をする。
「リズ……、いや。
ゼイン王国王女、エリザベス・ゼイン。」
「えっ!?」
「大きくなったねぇ。
ついこの間までは赤子で泣いていたと思っていたんだが……、
私も年を取ったかね。」
「ど、どうして私のことを?」
「父の王にリチャード・ゼインがいるだろう?」
「えぇ。」
「祝福を授けてほしいと私のもとを訪ねてきてね。
王国の目を盗んで来たって言ってたかねぇ。」
「ラミアさんが私のことを覚えてたのって……。」
「当時、最下層まで道案内をしたのがラミアだったからね。
父王の面影があるよ、だから気づいたんじゃないかい?」
「そっか……。」
「リチャードも酔狂だねぇ。
まさか魔物に実子の祝福を頼むもんかね。」
「父は、もし九頭竜の蛇に会うことがあったら
心から謝意を伝えなさいと常日頃から言われていました。
……ありがとうございました。」
握り拳を胸に当てて頭を下げるリズ。
「ゼイン王国の最敬礼だね。
いい子に育ったじゃないか。
確かに気持ちは受け取ったよ。
リチャードに会うことがあったらよろしく頼むよ。」
「あ、帰らないって言ってきちゃった……。」
「はっはっは!
リズさんのおてんばぶりはダンジョンにも響いているよ。
分かって言ったのさ。」
「もうっ。」
ラドゥーンに別れを告げ、
世界を相手に旅を始めたレイルとリズ。
ティトはダンジョンに残ることになった。
離れていても3人とダンジョンの絆は切れないものになるだろう。
ここで物語はいったん終幕となるが……、
世界に飛び出したレイルとリズの物語は後世に残るほどのものになる。
それはまた、別の機会で……。
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