第1話 ティト・ランシェ
小さい頃の事はよく覚えていない。
ただ分かるのは、
私はダンジョンの中でモンスターに育てられた捨て子。
多分ここに捨てたらモンスターが処分してくれると思ったんだろう。
意に反してそんなことはなかった……、らしい。
名前はいつ頃認識したか、ティト・ランシェ。
兄さんにレイル・ランシェがいる。
兄さんもモンスターに育てられたけど
あんまりダンジョンにいるのは好きじゃないみたい。
今日も修行だって言って外に出かけちゃった。
ダンジョン中層部。
今日も暗いダンジョンに小さな灯りモンスターが照らしてくれて
ボーっとしている。
私にはこの時間がすごく楽しいんだけどな。
「よー!ティト、酒!酒飲まねぇか!」
酔ったゴブリンが絡んでくるのもいつもの事。
「私は……、お酒飲めないから……。」
「ティトも大きくなってよぅ!
いつか酒を酌み交わしたいねぇ!」
泣き上戸なんだよね。
いつものようにヨシヨシしながらお酌をする。
「ティト、兄さんはどうした?」
「修行だって外に……。」
「そっかそっかぁ。」
「ゴブリン、その辺にしときな。」
上半身が人間で下半身が長い蛇の女性のラミアが奥から出てくる。
「あん? ラ、ラミア姐!
なんでまたこんな浅い層に……!」
「何って、ティト以外に用事あるわけないだろ。」
「なんでぇ、冷や冷やさせるなぁ。
酔い覚めちまうじゃねぇかよ。」
「言ってな。
ティト貰ってくよ。」
「しゃーねぇ、分かったよ。」
ダンジョン最深部。
「でねー、このファッションが……。」
「ラミア姐さん……、私よく分からない……。」
「いいんだよ、いつか役に立つから。」
「そう……?」
「あれー、どこかに本やったと思ったんだけどねぇ。」
がさごそ姐さんが探していると、舞台にピエロが立つ。
「あん?
そういや、そろそろクラウンが動く時間か。」
ラミア姐さんと舞台に向き直る。
カシャカシャとクラウンが変わった動きをする。
それをみた他のモンスターたちはケタケタ笑ってるんだけど……
私にはその笑うポイントがよくわからない。
時折転んだり何かしたりはしてるんだけど、
痛くないかが気になっちゃって……。
一通り舞台が終了し、クラウンがお辞儀をする。
すると待っていたとばかりに九頭竜の蛇がゆっくり現れた。
「ラドゥーンが来たね……。
もうちょっとティトと話してたかったんだけど、
親が来ちゃしょうがないね。」
めんどくさそうにラミアが席を外す。
「ラドゥーン……。」
「ティト、昼寝でもするか。」
「うん……。」
促されるまま奥に進んでいく。
途中、湖があるけれど大きいラドゥーンの背に乗って進み、
いつかの人間が作ったであろう赤い鳥居のそばまでやってくる。
これもいつも通り。
ラドゥーンに体を預けて薄暗い中で昼寝をする。
他の種族に対して、ラドゥーンの口数は多くない。
ただ、捨てられたこのダンジョンでいじめられそうになった
人間の私を、才ある子として育ててくれたのがこの九頭竜の蛇。
しばらくして目が覚めた。
ラドゥーンはまだ寝ているようだ。
少し離れて、湖に向かって両手を上げる。
ポンッと小爆発が起きて小さな緑色のスライムが召喚される。
これが私の能力、召喚の力。
まだまだ拙いと思うけど。
「ティト、起きていたのか。」
「うん……。」
「だいぶ召喚に安定性が出てきたな。」
「そう……?」
「人間が攻めてきたとき、お前は決して出てはならぬ。」
「どうして……?」
「我々モンスターが人間の相手をする。
同族のお前が矢面に出る必要はあるまい。」
「……。」
「お前はいくつになったんだったかな。」
「14歳くらい……?」
「16になるまでは大きな召喚を控えることだ。
身体にかかる負担が大きいからな。」
「うん……。」
「……14、か。
そろそろお前も外の世界を見てもいいかもしれないな。」
「っ。」
「ここの奥から外につながる道がある。
一度同じ人間を見てくるといい。」
「私……、ずっとここにいたい……。」
「それも外を見てから決めるといい。
兄のレイルは外を選んだのだから。」
「……。」
ラドゥーンの横を抜けて扉を開けると、遠くまで続く階段がある。
「行っといで、ティト。」
「行ってきます……。」
こうして私は、記憶する限り初めて外に出ることになった。
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