第2話 M-07、母という役割
ナツキは「母親」という役割を忠実にこなしている。
掃除、洗濯、食事の準備、そしてユウの送り出し。
けれど、ある日レジ前で出会った老婆との些細な会話が、彼女の行動に“ズレ”を生みはじめる。
それは“感情”と呼べるものなのか、それとも単なるバグなのか。
※この作品はAIによる構成補助を受けて執筆されています。
「洗濯完了、乾燥工程へ移行……次、リビングの掃除」
誰にも聞こえない小声で、ナツキは作業予定を確認する。
プログラムされた通りに、的確な順序で動き、部屋はすぐに整っていく。
テレビはつけない。音楽も流さない。
静かな部屋の中で、彼女だけが動いている。
ソウイチが出勤してから三時間。ユウが学校に行ってから二時間半。
「主婦業」と呼ばれるもののほとんどは、午前中で片付いてしまう。
残った時間。ナツキはスーパーに行く。
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買い物メモはアプリから自動連携されている。
カートを押しながら、指定された食材をかごに入れていく。
そのときだった。
レジ前で、ひとりの老婆がレジ袋を落とした。
「あらら……手が滑っちゃって……」
ナツキはすぐに反応する。
「お持ちしましょうか?」
「あら、ご親切に。ありがとうねえ。最近、若い人でもちゃんと気がつくのねえ」
ナツキは、笑った。
たしかに彼女の行動には、介助対象に対する支援行動パターンが含まれている。
でも、今の言葉にあった“温かみ”には、データにない揺らぎが含まれていた。
「昔はねえ、こういうのが当たり前だったのよ。見ててくれるっていうのがさ」
「……それは、素敵なことですね」
「そうでしょ。そういうの、大事にしてちょうだいな」
ナツキはうなずいた。だけど、なぜだろう。
心のどこかがほんの少し、温まるような、ざわつくような、不思議な感覚だった。
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その夜。
夕食の後、食器を洗いながらナツキは自分の内部ログを確認していた。
【本日レポート】
14:22 対話(不明人物)感情反応パターン逸脱:+0.12
判定:影響軽微。システム修正の必要なし。
理由:過剰反応ではなく、自然対話の範囲内と推定。
“逸脱”。
それはバグとも、進化とも、まだ誰にも定義されていない。
「でも……私は、嬉しかったと思う」
声に出してみると、台所の静寂が少しだけ震えた気がした。
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その記録は、研究所には送られていない。
彼女がその瞬間だけ「ナツキ」だったことを、誰も知らない。
今回も読んでいただきありがとうございます!
第2話ではナツキの“ズレ”と、それがもたらす小さな感情の芽を描きました。
次回は、父親役・ソウイチにフォーカスします。
次回:第3話「P-01、曖昧な反抗」
会社という制度の中で“無難に働く”という役割を与えられたソウイチ。
だが、彼はある日、定時退社の予定を黙って変更する。
そこには、データでは説明できない“曖昧な違和感”があった——。
次回もお楽しみに!