プロローグ
薄暗い部屋に、微かな灯りが揺れていた。古びた木製のテーブルに置かれたランプが、チリチリと小さな音を立てて燃えている。壁にはひびが入り、どこからか冷たい風が忍び込んでくる。そこは、まるで時間が止まったかのような場所だった。
カイル・レイドは、硬い椅子に腰を下ろし、目の前の男を見つめていた。男はフードをかぶり、顔の半分が影に隠れている。テーブル越しに差し出されたのは、一枚の古びた羊皮紙だった。そこには、奇妙な紋様と、古代の文字が刻まれている。
「これが、お前が求めるものだ」
男の声は低く、まるで地の底から響いてくるようだった。
「お前が『影の継承者』である証だ。これを受け取れば、もう後戻りはできない」
カイルは羊皮紙に目を落とし、指先でそっと触れた瞬間、全身を電流が走ったような感覚に襲われた。頭の中で何かが弾け、膨大な記憶と力が流れ込んでくる。
――この世界の裏側。英雄たちの知らない真実。影に潜む支配者たちの存在。
彼は目を閉じ、深く息を吐いた。そして、静かに口を開く。
「後戻りするつもりなんて、最初からなかったよ」
男が小さく笑う。フードの下で、鋭い目が一瞬だけ光った。
「ならばいい。だが覚えておけ、カイル。お前が選んだ道は、光を浴びる英雄の道ではない。影に生き、影に死ぬ者の道だ」
カイルは立ち上がり、羊皮紙を懐にしまった。
「それでいい。英雄なんて、ただの目くらましだ。俺は影から全てを支配する」
部屋を出た瞬間、ランプの灯りが消え、闇が全てを包んだ。
その日から、カイル・レイドという少年は消え、「影を継ぐ者」が誕生した。