親の視点でみてみよう
「困ったな……」
父親が呟く。
「あらどうしたの?」
「今は会話の時間だろう?」
「良いのよ。積み木に夢中だもの」
母親が父親に答える。
子どもは夢中で積み木を作っていた。
「限られた時間で遊ぶことは大切だろう?」
「そうね。それも大切よね」
「それも?」
「同じぐらい夢中で遊ぶことも大切なのよ」
「そうかな……そうかも……」
父親は自問自答している。
「そうだな。ならちょっと冒険に出してくる」
父親は母親に告げてから山を作り始めた。
☆ ☆ ☆
「できた!」
子どもが大きな声で叫ぶ。
「よくできてるわね。写真とっていい?」
「うんいいよ!」
母親は子どもの許可を取って写真を撮る。
「パパもできたぞー」
父親はは子どもにトンネルの説明を始めた。
「トンネルのお山つくる!」
子どもはキラキラさせた瞳で積み木を壊す。
☆ ☆ ★
「なんだか名残惜しいわね」
「どうしてだい?」
母親の呟きに父親が聞き返した。
「せっかく作ったお城なのに……」
「そうだねそういう気持ちはあるよね」
父親は母親に共感して話を続けていく。
「人は誰しも今のままを求めちゃうものさ」
「ならどうして割り切れるの?」
「おっとそろそろ」
父親は時計に目をやった。
☆ ★ ★
「ママかなしいわ」
母親は子どもに対して話しかける。
「あとはやっとくよ」
父親は母親に小声で言う。
そして積み木箱に取りに向かった。
★ ★ ★
子どもがせっせと積み木を箱に入れていく。
「ああびっくりした」
父親が母親に感想をもらす。
「急に片づけるって言うから」
「そうね。みんな考えてるってことかな」
軽く答えると母親は父親に目で訴えた。
「言ったろ?冒険に出してくるって」
父親は母親に先程の話を再開する。
「そうそれよ。冒険ってなんなの?」
「変わる勇気を持つことさ」
父親は子どもに目線を送った。
「人は大きくなったとき壁にぶつかる」
母親は父親の話に耳を澄ます。
「そのときのために知ってほしかったのさ」
「なにを?」
「自分を壊して作り変えることを」
「………………」
「辛いなら現状維持にと逃げたくもなる」
母親は積み木の写真を思い出す。
「そのときに今の遊びがきっと役立つよ」
「そうね。その通りだわ」
母親は少し間を置いて父親に言葉を返す。
「全部変えるか少し変えるかはどうするの?」
「そこはまあおいおいってことで」
父親はざっくばらんに母親に伝えた。
「そうね。臨機応変にね」
経験則から母親はものを言う。
「そろそろ片づけ終わるかな」
「なら私は30分の語りかけ育児を楽しむわ」
「その間に買い物してこようか?」
父親は母親からメモを受け取る。
片づけが終わるまで2人は静かに待ち続けた。