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異世界転移者と言う悪魔

作者: 椎名正
掲載日:2024/08/03

 今日は、幼馴染の魔法使いと一緒にダンジョンに潜り、魔物と戦い、宝箱を調べた。

 まさに、子供の頃にあこがれていた冒険者の仕事だ。

 だけど、僕のあこがれていた光景は、まったく違ったものに変質してしまっていた。


 十年前、異世界から転移してきた者がいた。そいつは元の世界の知識で金儲けをし、その結果この世界は大きく変貌してしまった。僕の故郷も、僕のあこがれの人も、なにもかもが以前とは変わってしまったのだ。


 その異世界転移者のスズキが、何故か僕を訪ねに宿屋にやってきた。

 正直、僕は会いたくなかったが、相手は儲けた大金を国の福祉や設備に無償援助をしている大物で、僕が断れるはずがなかった。


 「勇者様。魔王攻略の道中に失礼します。実は、勇者様にご商談の話がありまして」

 名前こそ変だが、見た目は完全な商人で違和感などない。

 王の推薦状と一緒に、差し出された品物をみて、僕は息を飲む。


 剣と鎧の装備が一式。

 機能重視の装飾が無いシンプルな物。

 五年前ぐらいなら、やや高値だが、わりと流通していた装備だ。

 いまでは誰も身に着けていない。


 僕が身に着けている鎧には、目立つように広告がついている。大手商会の広告だ。剣の方にも、刃の部分に特殊塗料で、別の商会の広告が描かれている。

 広告を背負っているのは僕だけではない、冒険者の装備にはぜんぶ何かしらの広告がついている。


 異世界転生者が持ち込んだのは、広告の文化だ。

 冒険者の装備に広告を貼りつける。

 はじめは馬鹿にされていたその行為が、浸透するのに時間はかからなかった。

 なにしろ、売り上げが一桁跳ね上がる。やらない理由が存在しない。

 広告文化は、冒険者の装備に留まらず、町の至るところに増殖し、あこがれだったシスターの修道服にも教会名の文字がでかでかと入れられる始末だった。


 僕は自分の装備が好きではなかった。

 これは他人には言えないことだが、僕が冒険者になり、勇者として魔王攻略に挑むのは、かっこいいからだ。

 もちろん、人を助けるためもある。でも本音は、魔物と戦う冒険者の渋いイメージが好きだからだ。

 だけど、今はダンジョンの壁には広告が貼りまくられ、魔物と戦っている最中にも目に入ってくる。

 雰囲気がぶち壊しだ。

 自分の装備の広告が目に入るたびにげんなりするが、今現在、広告がついていない装備は禁止されている。


 「勇者様の名声を見込んで、こちらの商品のテストケースを行ってほしいのです」

 スズキは長々と分かりにくい文章が並ぶ契約書を差し出してくる。

 契約書の内容はまったく理解できなかったが、スズキの説明で、正式に売る値段の十分の一の値段で手に入るのはわかった。それでも、けして安くない金額だ。

 広告なしの装備だが、法律はクリアしているらしい。と言うより、公式に認められているのが、この装備の肝らしい。


 僕は理解した。

 こいつは悪魔だ。

 広告が必ず入る装備を定着させた上で、広告が入っていない装備を大金で売る。


 「どうすれば、こんな金儲けの発想ができるんだ?」

 皮肉のつもりで言った僕の言葉を、スズキは誉め言葉と受け取り、謙遜する。

 「いえいえ。私はしがない一般人で、私がいた元の世界の知識を参考にしただけです」


 相手が悪魔だろうと、僕は広告なしの装備の誘惑を逃れることはできなかった。十倍の値段でも買うだろう。

 契約書のサインをしようとする僕を、スズキは止める。

 「契約書のここの部分にも書かれていますが、装備を使用する権利は一年間で、それを過ぎると再契約が必要になります」

 「装備を使用する権利?」

 「法律的には、この装備の所有権はわれわれの会社の物で、一年間だけ勇者様に貸す形になります」

 悪魔が、悪魔の商売形式を説明してくる。


 「契約ありがとうございます。勇者様。じつは私がここにやってきた理由は、もう一つありまして、あなたにアドバイザーになっていただきたいのです」

 「アドバイザー?」

 「勇者様が冒険する上で、ここがこうなればいいな的なちょっとした要望をお聞かせいただければ幸いです。たとえば、広告の無いダンジョンの新設な・・・」

 僕はスズキの言葉を遮る。

 「宿屋が、宿泊用の服を用意して、強制的にそれに着替えなくちゃいけないルールにできないか?」

 「はい?」

 「回復率が高い、ちょっと割高な宿屋だと、理屈をつければいい。もちろん、服に広告はなしだ」

 僕は、隣の部屋で寝ている幼馴染の魔法使いを思い浮かべる。

 夢見る乙女ではないが、初めてはお互い広告なしの服がいい。

 「なるほど、なるほど。さすがは勇者様。見込んだ通りのお方だ。さっそく手配させていただきます。これから末永くお願いします」

 スズキは、僕に手を差し出す。

 僕は、その悪魔とがっちり握手をした。


               おわり

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