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虚無に堕せざるなり(エピローグ。こころをすまして軽やかに)

「陛下!」


 わたくしが苗刀で陛下に迫る敵に斬りかかるより早くワイズマン様の援護魔導が煌めき、近づく雑魚はウルド『つかむもの』卿の固有魔法が薙ぎ払ってくれます。



「なんだ。もう騎士が来た。つまんない(´・ω・`)」



 何をおっしゃっているのでしょうかこの方は!?

 真っ先に逃げた司教様を見習ってください。


 全然尊敬できませんけど。

 曲がりなりにもアレは奥様の司教おっとですけど。


 とはいえ平民のわたくし陛下と直接お言葉をかわす立場ではなく、陛下の言葉はこの場合聞き流すことになっており。



「おっすオラ国王」


 言うが早いかワンツージャブで敵2体の顎を捉えて眠らせ右ボディアッパーから流れる右アッパー。さらに視界外からの閃光左フック。


 あれはギリギリまで背中に隠れて見えません。


 さらに鋭いフットワークに巻き込む見えない踵足払いで次々薙ぎ倒し、踏みつけて逃げられない相手にボディブロー。

 その際旋回手刀まで隠しで首筋に叩き込んでいますね。


 拳闘では反則行為ですが恐ろしく早い手刀。

 わたくしでなくば見逃してしまうことでしょう。



「ワイズマンとウルド『つかむもの』来たじゃん。面白くなってきたよなあ。オラワクワクすっぞ」

「陛下、微力ながらお供します」「陛下ァ! いい天気ですなあ!」


 陛下。畏れながらその二人は奸臣梟雄かんしんきょうゆう、近づけてはなりません。



 しかしながら陛下にワイズマン様に卿の男三人のみならず、主家の前当主様に現当主である宰相様。さらにほかの建国の英雄方までもが『園遊会なぞ前座。これが本命だった』とばかりに次々と現れる敵を楽しげにポカポカ殴っていらっしゃいます。


 建国の英雄がたはもう五〇を過ぎていらっしゃるはずなのですが。

 彼ら彼女らもまたやまとびと(いくさバカ)なのでしょうか。



 イケメンヒゲオヤジ……もとい陛下強いですね。


 さすが一の姫さまを保護する辺境領主と、かつて王立学園春のボクシングチャンピオンを争ったというだけのことはあります。



「あーん。マイダーリンかっこいい!」

「クレイ!」「クレイ!」「クレイ!」


 向こうでは王妃様と貴婦人方が黄色い声をあげていますし。

 なお『クレイ』とは陛下の学生時代における愛称でございます。


「ありがとう貴婦人たち。

 そしてマイハニー! 俺は君一筋さ!」


 歯を光らせて笑うのであまりのかっこよさに気絶する方までいらっしゃる始末。

 敵に味方しないでくださいませ陛下。


 もちろん王妃様は幸せそうです。


 愚昧なるわたくし、陛下の発言は王妃様のみに向けたものとも貴婦人のどなたかもしくは複数に向けたのか判別できませんけど。


 16まで女遊びが酷くて当時14歳だった後の王妃様と未来の王太子様をもうけ、王妃様のお母君でもあられる建国の英雄の一人アメリア様の『まごごろ(鉄拳制裁)』を受けてからというものカノンノ王妃様一筋。

 自称『王国一のバカップル』でございます。


 これは我々人民がつけた通称ではなく御本人方の発言ですので悪しからず。



 文官武官商人。農家炭鉱夫職人料理人。騎士に法服貴族に領地持ちにその陪臣や郎党。そして神官たちに貴婦人方に元帝国奴隷などなど。


 国内外から集められた老若男女で何かしら自称世界一を持つ当時3歳から55歳まで。


 彼ら彼女らは国王陛下以下身分を問わず仲良しとされる王立学園一期生たち。



『クレイ』(パンパン)『クレイ』(パンパン)『クレイ』『クレイ』『クレイ』(ワー!)



 帝国のもののけ押し寄せ、ほかのものが戦って逃げて片付けてと忙しい中、彼ら一期生は靴を鳴らし手を叩きワイン片手に早くも同窓会状態。



 ただいま絶賛、宿敵帝国のもののけが襲来中です。

 この国の重鎮たちには危機感というものはないのでしょうか。


 彼ら王立学園一期生、ガラの悪い奴らはすでにビンだの椅子だのを手に殴り合いに行っています。

 その中には信じがたきことに普段澄ました貴婦人がたも。



 ちなみにノリノリで音頭をとっているのは王妃様。

 身分違いながら奥様と仲良しなわけです。

 あ、今ハイタッチしました。


 えっ。わたくしもですか。


 もぅ。これっきりにしてくださいませ。

 ウルド『つかむもの』卿もですよ。



 歓声と拍手に面映く、今更婚活気分にもなれず、わたくしたちは早々とこの場を辞したのです。


 厄介ごとは主家に任せてトンズラしたとも言えます。




 こうして王国を震撼させたはぐれバイドゥ侵入事件は決着します。



 わたくし納得いきませんが警備責任者であるワイズマン様とウルド『つかむもの』卿は軽いおとがめですみました。何故でしょう。



 父や兄様は相変わらずです。


 常識人である主家の当主様と甥イチノスサノスケはいつ禿げるか胃に穴が開くかの賭け事が郎党どもにより執り行われ、屈強なる郎党どもは普段穏やかな姉ニノマエにボコられました。


 弟サミダレは歳上の同僚タマモと許嫁になりました。


 姉たち女衆はよろしくやっています。

 童どもは相変わらず楽しそうにやっているようです。


 アンジーから『オイチサンがドレス買ってくれた』と喜びの手紙をもらいました。

 一部わたくしに対する可愛い嫉妬を感じます。

 甥イチノスケとはそう言う関係ではないのですけど。


 甥のサノスケは正式に相手の家に挨拶に行きました。



 弟シナナイにして『謎の貴婦人(♂)』の正体について主家も父も『シナナイだけに知らない』とくだらない駄洒落を頑なに。しかしながらバレバレなのを証明するかのように『男でもいい』『むしろお◯んちんついている方がご褒美』『もう辛抱たまらん。妻でないなら愛人でも』なる釣り書きだか恋文だか変態どものお手紙だかの山に弟も辟易し悩んだのでしょう。


 変態……もとい甥のニノスケが『愛しい妹ミカを迎えに』とか言って、『古代魔導帝国の遺跡発見』の報道に浮き立ったミカの姉にして冒険者でもある姪のフミュカを焚き付け、フミュカに拉致された我が弟シナナイを含めた三人は漁船を奪取する暴挙に。


 そのまま辺境に出奔を目論み三人揃って親族会議にかけられました。



 ウルド『つかむもの』卿は職を辞して何故かうちの食客に収まっており。

 食費がかかりすぎです。



 え、わたくしですか。

 もちろん復職しましたよ。


 勲章だの叙爵だの華美なるドレスだの、虎の飾りはもののふには不要にて。

 ……臨時含む特別定期給与上昇とか昇給とか特別有給はまぁありがたくですけど。領地や政争政治云々の話は父や当主様の仕事ゆえわたくし興味ございません。


 そう言う話ではない?

 困りますね。



 では、少しだけ。


 わたくし婚約しました。

 破棄して良いでしょうか。



 教会の教えでは婚約は破棄できませんので彼に競売にてこの縁を払ってほしい限りですけど。ね。



 今の国王様は奸臣梟雄かんしんきょうゆうを好むのですね。

 謹慎が解けた途端、彼は大量の花束持って職場に押しかけて来やがりました。


 帰ってくださいまし。

 我らやまとの古書、闘戦経曰く、『儒術死謀略逃見貞婦成石未見謀士殘骨』です。


(※道徳を考えもせずふりかざしては死ぬが、陰謀を巡らすものは骨すら残らない。松浦佐用媛まつらさよひめのような貞淑こそが永遠に残る)


「いい? ミツキ。これはあなたのためでもあるの。もちろんわたくしとしては良縁だと思うわ」



 奥様楽しそうにおっしゃるに。



 帝国のもののけ、バイドゥたちははぐれバイドゥとして処理する。

 我々王国には帝国と全滅戦争を行う力はない。


 これはわかります。まだ。



 太陽王国は未だ革命の余波残り、一暗殺者の追求を行ったとて突っぱねられるのがオチ。

 ゆえに警備責任者は謹慎。怠慢にも子供たちに武器を持ち込ませあるいは女装した謎の貴婦人(シナナイ)(?)をスルーしたうえバイドゥどもに侵入を許した副責任者は自ら職を辞して下野した。



 ワイズマン様の補足説明については何をおっしゃっているのやら。本来あなたは斬首ですよね。



 わたくし彼ら他国のものどもと二度も剣を交えるのは確かに遠慮しとう思いますが本当に彼らは……いえこの方たちはわたくしどもの味方になってくれるのでしょうか。



ぬえなら祓えば良いですがつぐみふくろうでは鴛鴦おしどりにはなりえません」


 そしてわたくしぬえには屈しません。

 腹黒い梟も好みません。姦しい雀も好みません。

 まして百舌鳥もずにえになるのは真っ平でございます。



「あら。あなたも彼もお互いぞっこんでしょう。素直になりなさい」

「発言を許していただけるならば竜胆夫人。もちろん私は彼女を心から愛し守り抜くと誓います」


 それは……その、父や長兄としては『思ったよりあいついいな』とのことですけど、わたくしもう少し裏表のない誠実な方が良いのです。


「遅ればせながら私が頷いたら話していいわワイズマン。

 そうねミツキ。彼は『恋した女性には誠実』よ? ワイズマン家は歴代そう」


 奥様は小首を愛らしく傾げます。


「『夜の遊びに限れば』変な噂は全くないし、今までの振る舞いも悪くはないと思うわ。おまけにお金持ち」

 こう言う腹黒は嫌だと申しております!


 わたくしの内心の叫びを感じ取った奥様は困ったようにつぶやきます。



「でも……ほら、わたくしの夫はアレですし」

 司教様は言うまでもなく教会派ですね。

 奥様は違いますけど。


「あんなのでも一応は司教おっと。私からすれば使えますけど」

 奥様は司教様に対しては人に言えない想いはあれど否応なく何年も侍祭つまとして生きてこられました。



「ムラカミの主家である侯爵家の奥は帝国貴族。

 元々帝国に一切偏見を持たない一の姫様もあなたと私を通して教会と良好な関係でした。

 ……あなたや一の姫さまたちにアレ(司教)がちょっかい出そうとしなければ」


 王太子が当代の聖女に懸想し婚約破棄騒動起こすとかバカなの死ぬのって大事件ですものね。


「辺境では元々腐った連中しか派遣されなかったこともあり、教会の力は完璧に削がれています。おそらく国王もそれを支持しています。いずれ独立戦争前より続く帝国利権を維持し貪る教会は王国において孤立するでしょう」


 少なくとも主家の一の姫さまが逃げ込んだ辺境では元々教会の力も薄いのもありますが、彼女の保護者となった辺境領主は破門上等な政策を次々打ち出していますね。



「竜胆夫人。発言を許していただけるならば陛下と辺境領主は拳闘のチャンピオンを争った本人たち言うところの『マブダチ同士』だと伺っています」

「長年の決着をつけるべく王太子が卒業試験に名前すら書かないストライキを敢行し、最後の追試すら逃亡してリングに向かってしまい留年する大事件を起こす程度には。アレは本当に皆大笑いしました」


 そんな事情初めて知りましたよ!

 王立学園に通信課程があるのはそのような理由ですか!


「教会は長年帝国の支配を支える役割を果たしてきました。しかしながら、これからわたくしたち人間が生きるための王国を維持するならば……おそらく近く教会は割れます」


 教会が割れる。

 教会の教えを守るわたくしにはこれほど恐ろしいことはございません。


 ただでさえ一の姫さまが保護されている辺境で教会が疎かにされていることに胸を痛めていたのですから。



 それよりも恐ろしいことは。


「奥様は!? わたくし今のお話を聞けば結婚どころではありません。ずっとあなたを守っていきたいのです!」


「あらあら。嬉しいわ。

 でも、わたくしは生き延びます。

 なんなら婚約破棄騒動で失脚したむすこではなく私が司教になってあげても良いですよ。心配しないで。

 わたくしあなたのため、あなたの姪のため、そしてあなたの主家の一の姫さまのため尽力しました。


 ……ミツキ。これからもわたくしを信じてくれますよね」

「はい」


 奥様はいつもの悪巧みをする笑みは崩しませんでしたが、幾分優しげにいいます。


「その時、わたくしを助けあなたを守ってくれるのは彼と自ら下野した太陽王国出身の元騎士。

 彼らは元帝国騎士や太陽王国の暗殺者ですがそれゆえにあなたを守るためにはうまく立ち回るでしょう。なんなら私を切り捨ててでもあなたを守ります」

 奥様は彼を見て楽しそうです。


「それは」

「なにせ一度は私どもの命を狙った男どものひとり。

 実力はあなたの方がよく知っているでしょ」


「そんなことがあったら、私は奥様を選びます」


 そのように申し上げると奥様は「ふふーん。わかっています」と楽しげです。

 そして彼に「わかったか」と胸を張って可愛らしく微笑みます。彼は肩をすくめてそして楽しそうに私にも微笑みました。


「良い? ミツキ。

 彼は剣だけでなくあなたを支える程度には知恵もお金もある。


 場合によってはあなたを連れて外国に逃げてもくれるわ。

 多少の腹黒さはあっても少なくともミツキを一番可愛がってくれる人ではあるのよ。

 国より神様より友より上司よりそして何者よりよ。


 それってすごいことじゃないかしら?


 てすよね? 騎士ワイズマン。わたくしたちのかわいいミツキに何かあったら……」

 かわいらしく睨んでみせる奥様ですが、これは本気の目です。


「もちろんです。ご安心ください竜胆夫人」

 ここで歯を煌めかせないでください。



 百年の恋も冷めた今はウザいだけで……まぁその花はええ。置いていって良いです。

 あくまで帰る時邪魔でしょうから。です。


 ちょうしこくな。なのです。



「あの、奥様。わたくしミツキ。

 お暇をいただき、姪のいる辺境にいきたく思いますが宜しいでしょうか……」


 ひょっとしなくとも王宮勤めをしていたり、このような梟雄と婚約などしては主家に迷惑がかかりそうなのは明白ゆえ、わたくし個人の奥様をお守りしたい気持ちに反して、……逆に彼女に迷惑がかかりそうなことがわかってきました。


 奥様は頬を膨らませ。

「だめ。わたしのそばにいて」

「うううう」

 戸惑いと共にこの方のそばにいられる喜びは言葉にできずうめくわたくしですが。


「ね、ね、あれなら産休三年有給かつ乳母もつけるわ。タマモなんか喜びそうだし」

「だ・か・ら!」


 発言を許可されていませんが、『え、義姉さま私が嫌いですか』な目をしている未来の義妹にぶるぶる首を振ると彼女と周りの同僚は一気に華やかに。


 ううかわいいです。

 九尾がぶんぶんしてますけど。

 わたくしにしか見えないのかしら。


「タマモは今回のことで仲良くなりました。奥様の計らいはいつも正しいと存じております」

「でっしょー」


 奥様は胸を張って無邪気な笑みで自慢します。

 やっぱり可愛いです。

 でもしかし。なのです。


 私は伯爵の次男である彼を指差すほど無礼ではありませんが、それでもここはハッキリ言って良いでしょう。


「こんな腹黒い方はいやです!」

「ふふ。ミツキ。ずいぶんじゃないか。僕らの仲なのに」


 こっちくんなです。

 わたくし、調子の良いことばに惑わされる軽い女ではございません。



「誓うよ。ミツキ。僕は太陽より月よりも、僕の花の乙女を仰ぐと」



 比翼連理。

 鴛鴦陣を共にした戦友。

 かつては剣を交えたおそるべき強敵は。

 いまやもっとも悩ましいクソイケメンになりました。




 その、あの……。

 とろとろに甘やかしてくるので時々屈しそうになりますが。

 今のところわたくし。教会のおしえに背を向けることは致しておりません。



 先日は彼の家の馬車に乗り義兄となる方に挨拶をさせられましたが、ええ。

 剣の代わりに思いの外柔らかい殿方の御手を握らされていますが。

 彼のたわむれ、くちづけは悉く防いでおります。



 彼はもみじになった頬を押さえていつも楽しそうに笑っています。


 戯れ。戯言。はかりごと

 これらもののふ好まざり。



 わたくし『ムラカミのリーサルウェポン』だの『最強』だのこころなき噂と、今は腹黒紳士な婚約者に悩まされる昨今でございますか。



 ……ここまで読んでくださった我慢強い皆様にはもうご存じでしょう!



 わたくしの本質は未だ恋にもつるぎにも臆病なヘタレ娘なのです。ええ。



 もし次になけなしの勇気を振るうこと叶うなら。



 鉄のかたきつるぎを振るうより。

 紅をつけ柔らかきくちづけをいとしいかたへ。



 馬車は王都をかけてゆきます。

 窓越しに見えるのは楽しそうにうたいおどる人々の姿。


 こどもたちわらい。老人は居眠り。

 若者たち腕を組み愛の歌。

 守るべきはこの祈り。


 彼が私を欲しいのではないのです。

 元々は私が彼を欲したのです。


 色々ややこしいことになり、百年の恋も醒めたのに。

 まえよりずっとずっと彼を存じておりますのに。



 花束を手に物憂うわたくしに彼は囁きます。


「さて、いつ婚礼にするかねミツキ」

「戯れ言もはかりごともわたくし好みませぬ」


 ほしいものはことばでなく。

 はかりごとでもなく。



「うん? どうしたの」

「少し、黙っていてください」


 彼を見ます。

 クソイケメンです。

 でも美貌はいつか衰えます。


 態度はいいですけど彼は梟雄です。

 ろくな死に方をしないでしょう。


 奥様が騎士や聖職者との結婚はおすすめしないとおっしゃる理由もわかります。


 こんなやつろくでもない。

 理屈ではわかっているのです。



 だから、ただ彼をみます。


 目など役立ちません。

 耳は快い嘘を求めます。

 花は虫どもを欺き。

 舌は二枚にわかれ。

 肌合わせてもわからぬ彼の本質を。



「具合が悪いのかい。ミツキ。馬車を止めようか」

「ジェイ様。わたくしははかりごとや甘い睦言で絡め取られるのは好みません。あなたは大好きでしょうけどね」


「それは誤解だよ」

 彼は相変わらず調子が良いのです。


「なんか最近トロトロに溶かされて調子でなかったのですが……これからはわたくしがあなたを打ち砕きたく思います」


 永遠に残る巌の貞淑も溶かすほどに。

 ただ一途に波濤となりて君をうたん。



  今こそわたくしにトロトロに惚れろやこの腹黒め。



 南無八幡大菩薩。

 甘く柔らかなかをり(香り)に包まれるべく。

 われ自ら一つの矢とならん。



 小さく揺れる馬車の床に白い花びらはそっと落ちました。



 『侍女の結婚』ーーHappy endーー


挿絵(By みてみん)

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