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骨を化して識るなり(知った考えた読んだじゃ何もわからない)

「サミダレにいちゃんは? 16じゃん。女衆一人のエスコートもできないほど情け無いはずないと思うけど」


 サミダレ……彼はやんちゃがすぎます。

 ニノスケよりは遥かにマシですが。


 いえ、礼法はニノスケの方が上ですよ。一応は。


 わたくし、園遊会に参加するためのエスコート役に困ることになるとは夢にも思わず。


「だって! だって! オイチサンは『園遊会に行くのは大きくなったら』って言うし! もうすぐ船を出すのだからその前に私だってオイチサンと行きたかったんだもん!」

「それは存じませんでした。本当にごめんなさいアンジー」


 園遊会は基本的に15歳以上の男女同伴で参加することになっているのです。


 貴族でもなく馬車を待たせることもなきわたくしどもは当日参加で構いません。

 やまとのゲンジモノガタリでは牛車ですが各お家の馬車をどこで待たせるかはそれなりに揉めますゆえ。


 エスコートは両家認めた恋人や許嫁でなければ主家の方あるいは親や兄弟が通例。


 ここでアンジーをイチノスケが連れて行かないのは二人が園遊会に参加する場合は『妻』ではなく『娘』や『妹』扱い(※養女)になると言われてプライドの高いアンジーの逆鱗に触れたからです。



「もう許さない! あたし何がなんでも行くもん! おそとでは、この国では娘でもなんでも構わないけど私が! 私こそがオイチサンの奥さんなんだもん! こんなに綺麗なミツキさんとオイチサンが一緒に歩いていたら……」

「ちょちょアンジーお姉ちゃん」「姉さん、せめて一言くれたら別のところにいたのに」



 ひょっとして、ものすごく、いえ確実に。

 久しぶりに会った弟たちに迷惑をかけてしまったのかも。

 それを踏まえてのオワルによる『エスコートならサミダレ兄ちゃんがいる』発言です。

 サミダレはわたくしたち兄弟の三男、数え年でちょうど16になります。誤魔化せば15です。



「エスコートねえ。オワル、僕らはムラカミの中ではヘタレの部類だけどね」

「今日は私がエスコートするわけではないのですよ。オワル。シナナイ」


 シナナイは文官タイプですし、オワルはまだ泣き虫。

 十四と一〇ではどのみち参加できません。

 子供を連れて行く御夫人方ではないのですから。


 夫婦で参加したいとぐずるアンジーを園遊会に連れて行かないイチノスケと同じです。



 アンジーが嫌がる以上、ニノスケだけは嫌ですからサノスケに頼もうかしら。でも彼には付き合っている女性がいますからね。サノスケは彼女と参加するかもしれません。



「ドレス! ドレス! オイチサンには妻としてドレスを要求するわ! ぜーたっい行く! オイチサンと思い出作る!」

「アンジーお姉ちゃんも海賊の妻だもんね」「イチノスケ従兄さんは浮気しないから大丈夫だよアンジー」


 甥の妻の嫉妬に火をつけてしまいました。イチノスケごめんなさい。



 あのべらんめいで鳴らした父クウヤや長男カズヤ兄さんにエスコートを頼むのはありえない(※幾度かの子爵位叙爵を辞する時、初代国王陛下に『は? いるかボケナス』といってのけた二人です)としても、次男ハジメ兄さんは太陽王国の駐在武官としてあちらで骨を埋めるつもりのようですし……身内にエスコートして下さる方がいないのは困りました。



 憧れの彼に直接頼めるなら。

 頼めるなら。

 頼めたら……。


 ボボボ。

 危うく妄想で儚くなりかけました。



『”ねがはくは花のしたにて春死なんそのきさらぎの望月の頃”』



 一の姫様ではないのですよわたくし。

 確かに気持ちとしても暦の上としても今は春でしょうが、サイギョウのように旅に果てるでもなく恋の途中にて儚くなるのは。ううう。



 久しぶりの実家です。

 お昼までに入場するとして、ニノマエ姉さんに相談しようかしら。



 桔梗の館につきました。

 ムラカミ陪臣家にはヤマノウエオクラとかいう詩人の『萩の花 尾花 葛花 瞿麦の花 姫部志 また藤袴 朝貌あさがをの花』の歌から8つの建物があります。

 何故桔梗なのかまた七つが八つになるのかは私存じません。父のことゆえ後付けかもしれませぬ。


 婿取りをして実家を支え、カズヤ兄さんに代わって普段郎党を束ねるしっかりもののニノマエ姉さんは10歳の息子イチノジョウと遊んでいました。この辺は三世代の年齢が近いのでややこしい限り。



「他の人に頼む……うーんムラカミには漢はいますが、エスコートに向いている殿方となると」

「この地にて加わった配下も含めみんなして『ヒャッハー!』ですからね」

 当地で得た配下郎党に何人かいる、何故か歳を取らない子供達は性格穏やかで愛らしく気性もまともで……多分わたくしどもよりはるかに歳上ですが見た目だけで入場拒否されますし。



 困ったものですと眉をひそめる姿も愛らしい姉。

 三〇路に到達したとは思えぬ相変わらずの可憐さと美貌です。


 配下にはいないと断言する姉。


 主家の殿方にしても僅か5歳のナレヰテ様おひとり。

 まさか我らが当主であらせられる主家の宰相様、先代様にエスコートしていただくわけにもいきません。



「だいたいあなた王宮勤めでしょ。殿方の知り合いは」


 奥様は事前にお手紙を出したはずですが、文盲の多い我々の郎党のこと。手違いがあったのでしょう。


 当日の朝早く実家を訪れて『手紙一つで園遊会に参加するためのエスコート役が必要と言われても困ります』と姉は暗におっしゃいます。わたくしだって不本意なのです。


「殿方の知り合い……同僚のように少し遊んでいればいたかもですが。姉上、これは教会の教えですがわたくし婚前に自ら肌を見せた殿方などございません。そりゃ配下にはよく粉をかけられますけど」


 先ほど同性に対してならば死ぬほど恥ずかしい目に遭いましたが姉は察したのか追求しませんでした。



「あなたは海賊の娘にしては真面目すぎるのよね」


 姉は酷いことをおっしゃいます。


「正直、あなたに襲われたら並の男では何もできないと思うけど。苗刀はもちろん鴛鴦陣(えんおうのじん)の指揮も狼筅ろうせんの腕も大したものじゃない」(※狼筅は枝葉のついた槍のような武器。集団戦法で倭刀に対抗する。端的に説明するならば『槍先ついた竹』)

「キンナも武術もそういう用途に使うのはどうかと思います」

 そもそも私の武術は家のものたちの使う武術に対抗するために開発されたミンのものです。



「この国では男が女を貶め辱めるのにあらゆる術を使うらしいのに、恋心もつ女が男を襲うのを躊躇うのって変じゃないかしら。それも教会の教え? いい胤ならあとのもめ事はなんとかするからもらってきてよ。あなたがイヤなら私育てるわよ」

「そもそも海賊家業のうまれゆえ殿方同士や海賊家業の殴る殴らないは何も言える立場ではありませんが、嫌がるかたを性的に襲うのは教会の教えに反していまして」



 姉たち、いや一般的なムラカミの女ならば『奸計を含め我らを犯すことのできるものの強い子種が得られるなら致し方ない』とくちにするのですが、私は絶対に(!)いやです。


 ムラカミでは強者は一族に加え再教育、弱きもの卑怯もの卑劣なものには復讐すれば良いという考えなのです。


 されど武術でどうにもならない蜘蛛の糸が張り巡らされるのが王宮であり、そのような憂き目に遭ったかつての女騎士を私は一人存じております。



 武術と言えばそういえば姪のひとりの。



「フミュカは? 姉さん」

「冒険者として活躍しているようだけど、自分より強い男を諦めたのか『少女のような美少年だし』とか言ってシナナイに近づいてはオワルに蹴られていますよ」


 カズヤ兄さんの子供、甥のイチノスケは三つ子で姉にヒミカ、妹にフミュカがいます。さらにその下に前述のニノスケ、サノスケ、そしてミカがいるのです。


 太陽王国にはハジメ兄さんの子供たち女一人に続く男二人いますが面識はさすがにほぼありません。

 ニノマエ姉の子については前述しましたね。



 わたくしの兄弟は長男にして『平民卿』カズヤ、一つ違いの『護民卿』ハジメ、大きく歳が離れて姉ニノマエ、わたくし、弟サミダレ、弟シナナイ、弟オワル、去年生まれたばかりの末の妹マツリと続きます。


 この辺の私ども一族についての記述はうまく読み飛ばしてくださいね。



 侯爵家は仙郷よりきたる民ゆえ伝手なく、信頼できる手駒となるやまとの身内をたくさん産み育て、味方となるこの世の諸家の力を必要としたのです。


 例とすれば先日絶えた武門にして名家ケイブル子爵=アイアンハート騎士男爵家、太陽王国の盟主であったマーリック分家の本家にあたる亡命貴族マーリック伯爵家などです。



 さらに余計な記述をお許しくださるならば、奥様がおっしゃっていた『二柱の女神』とは姪のミカと主家の一の姫様のことです。


 カズヤ兄さんは『ミカの奴を直視して心臓麻痺を起こす配下が多すぎる。美貌優れると言っても人の範疇の外になる程では困る。地味に見えるように常に薄化粧を命じねぼならない』とおっしゃるのですが。

 ……彼は少々親バカが過ぎます。



 ミカはかつて『ククク、ヤツはムラカミ最弱』『童にも負けるとはムラカミの恥晒しよ』などと呼ばれましたものの、わたくしのムラカミ最強とか女神の化身だののクソ恥ずかしい渾名は全てまとめてミカに継承したく思います。


 いえ、優秀でしっかり者の姪を誇りに思うだけです。

 けっしてわたくし変な渾名をまとめて返上し姪に押し付けるようなむごいことを成したきよこしまな女にございません。



 なお、『やまとびとの中でもっとも美しいのはミカ』とわたくしは思っていますが、これは本家の一の姫様は帝国貴族である主家の奥様の容姿よりで、黙っていれば誰もやまとびとと気づきませんので除外したうえでの評価であり、陪臣のくせに王宮勤めをしたいとの申し出をしても笑って許してくださった主家への敬慕を忘れてはいません。二の姫様はどちらかと申せば愛らしい方なので家中のアイドルにてジャンル違いにございます。



 説明遅れましたが姉とともにわたくしを迎えてくれたのが姪のひとりヒミカです。

 彼女は甲冑着て陣頭指揮するような子ですが、夫にベタ惚れで彼の前だけは淑女を通そうとしてなんか怖いと童どもには言われますが、私にとっては姪であれどいい友達です。


 ……また横幅が大きくなっていますが。


 姉とヒミカとわたくしめは短い時を惜しみつつ互いの近況に花を咲かせます。



 ヒミカ……もはや胸とお尻だけなら三尺四寸超えて一の姫様なみでは。

 一応お腹まわりはくびれていますが上下の妙です二尺五寸はありそうです。


 太ももに至っては、もはやわたくしの胴近くあるかも。

 次に剣を交えれば一本くらいは取られるかもしれません。


 私は生まれたばかりの妹であるマツリをあやしつつ、賑やかな実家であるムラカミ陪臣家で短い時を過ごします。


 開門は正午からよつ時前(※10時)が通例。

 されど歩きにて参加するわたくしども文官は正午につけば良いのです。本来は。


 今日は神殿の馬車を待たせていますのであまりゆっくりできません。混雑が予想されますので神殿で下ろしていただき、ドレスを汚さないようにすすむ必要があります。今回のドレスが地面に接しないのはそのような奥様のご配慮かと愚考します。


 決して、多分、奥様たちに限って、『えっちでかっこいいから』などのミーハーな理由ではないかと。



「結局ムラカミ一族郎党に漢あっても殿方はおらぬのか!」

「だからいないと断言しています。弟たちに頼みなさい」


「ニノマエ叔母上。ミツキ叔母上のうしろうしろ」

 気づくと後ろで甥ニノスケが泣きそうにしていました。


 あっち行ってください。

 一昨年覗こうとしたことまだ恨んでいますから。



 結局。


「サミダレ。わかっていますね。ドレスをスカートめくりしたら腕を折ります」

「姉ちゃん……さすがに園遊会でそんなことやらないよ」


 つい最近までスカートをめくっていたりうなじにカエルを投げ込んでいたような弟にエスコートされるのは複雑な気持ちです。

 シナナイは見栄え良き子ですがやや幼く、私よりドレスが似合うかもしれませんので除外しましたが、変態のニノスケが彼を女装させて共に潜り込んでくるやもしれません。



 結局わたくしはサミダレに腕を引かれるかたちで園遊会へ向かうことといたしました。

 急に用意することになったにも関わらず、一応殿方に属するサミダレの準備は瞬く間に。


 をなご(女性)たるわたくしは夜明け前からあの辱めを受けていたのですけど。


 彼の準備が早い事実そのものは助かりますが理不尽な気がいたします。


「どうしたの姉ちゃん」

「い、いえ……サミダレも大人になりましたねと」


 奥様は毎日わたくしどもの手により身体を磨き抜かれ衣服をまとうまでお顔色を変えたことなどなきゆえ、わたくしの考えすぎです……よね。



「姉ちゃん送ったらさっさと狐狩りに行く」


 ムラカミはひとごろしゆえ楽しみのための殺生を嫌いますが、本来狐狩りは武家の嗜みですからね。

 昼から狐狩の参加は少々遅いのですが、飛び入り参加がないわけではありません。



 先日弟たちは『九尾の珍しいヤツをみんなで仕留めた。九尺もある大物だったぜ』『え? 毛皮? ……逃してやっ……ごめん冗談』とほざいていましたが。


 ダッキやタマモノマエではないのですよ。



 武家にとっては狩は郎党との連携を鍛える機会でもあります。


 先に儚くなられたケイブル子爵家のマリア様のように自ら馬を駆り猟犬と鷹を育て、銃をとって男ども顔負けの狐狩の腕と知恵を見せる御令嬢も武門にはいるのです。


「せっかくの場なのです。

 サミダレも頑張っていい人を見つけてきてください。そして頼みますから人間として落ち着いてください」

「はいはい。司教様んとこの奥様によろしく。姉ちゃんも美人なんだから売れ残んなよ。狙いは一つ必中。ナスノタロウの如しさ」


 ヨイチはわたくしどもの先祖の敵方ですが、南無八幡大菩薩。

 この恋叶わねば切腹も辞さずの心で行けということですね。


 そういえばホウガン(源義経)といいムサシボー(弁慶)といい、我々はゲンジが嫌いではありません。ものがたりでは敵方である尼御台様(北条政子)も我々と同じくタイラですし。



「ああ。姉ちゃんとこの奥様みたいな美人いないかなー。俺歳上好きなんだよなぁ」

「あなた、司教様を敵に回す気ですね。ただでさえ教会とは一悶着あったのですよ」



 そういえば同僚の一人タマモが弟を紹介して欲しいとおっしゃっていましたが。


「……」

「姉ちゃん。俺の顔になんかついてる」

 ありえません。シナナイならまだしも。


「いえ。女性視点でこんな平坦な顔の男のどこがいいのか悩んだのです。大したことではございません」


 背丈もやまとびとの例に倣い小柄ですしね。

 変態のニノスケはやまとびと基準に反して、一般的な殿方から見ても稀に見る大男ですが、弟たちはやまとびとの男としては平均的な上背です。

 貴族や神官のむすめは我々やまとびとと文化が違うゆえ山猿が好みなのかもしれません。


「ひっでー! そりゃまぁシナナイみたいに顔は整っていないけどさあ」

 シナナイは整いすぎて男性にモテますからね。

 ふふ。



 見て見てサミダレ。綺麗なお花。

 それにほら、こっちにきて。


 わたくしは彼の手を引き、歩みを進めて花の香りに心躍らせます。

 本家の庭も風流ですが王家の庭も良いものです。

 花を踏まないように歩く私に自然についてくる弟の身のこなしもなかなかです。


 香水代わりの匂い袋は姉譲り。

 かわいいのがいいのです。



「姉ちゃんはほんとこういうの好きだよなあ。そのくせやたらつええから配下の誰も手を出せないし、それでいて臆病でお人よしでヘタレだから未だおぼこ……いてっ?!」

 あら、ここにつねりやすい手の甲が。



「だいたい、姉ちゃんだって文句なしの美人だと思うけど」

 そうかしら。嬉しくないとは言えませんね。


 姪のミカほどではありませんが、私もやまとびとの中では背は高い方ですから目立つのかもしれませんね。

(※とはいえわたくし、女性としては気持ち小柄です)


「あーあ。姉ちゃんがこんな美人だと知ってれば」

 ニノスケみたいに姉妹を襲おうとか考えないでくださいね。一族郎党会議にかけますよ。



 アクセサリーはキラキラしていますし、ヒールは相変わらず踵とつま先が痛く、ふらつく前にその揺れ活かし匂い袋の香りとともに颯爽と。髪に編み込みしアクセサリーとともに燦然さんぜんに。


 髪に編み込んだ花々は爽やかな香りです。

 朝露の香り残る庭を弟にひかれて歩く私は、思ったより殿方たちの視線と話題を集めているようです。



「そろそろよくね? 俺さ、変な虫が近づいてきたら藪に連れてくから」

 手加減はぞんじていますよね。気をつけて。



 過去に司教様が私を手籠にしようと画策していたらしいのですが、奥様と彼女に協力した父たち兄弟たち甥姪たちに潰されています。

 その辺の飛び火が『王国の二柱の女神』の一人、すなわち本家の一の姫様にまで及んでしまったので陪臣として申し訳ない限り。


 それほどまでに本家の一の姫様は美しすぎました。


 王妃になるべく育てられた方ですが、司教様がなんとか手に入れようとあれこれ画策する程度には。


 もちろん奥様の知ることになりましたが。



 一の姫様と姪のミカはたった二人で共のものもつけられないまま王の親友でもある辺境騎士のもとに身を寄せることとなりましたが、自殺と言ってもよい彼女らの旅に陪臣としてミカの叔母として奥様の侍女として多少の支援はしたつもりです。



 奥様は美しく愛らしく素敵な方です。


 若き日は『いつか神族えるふをとめ(乙女)を従え女騎士として世界を旅したい』という夢を抱いていたそうです。



 わたくし教会の教えに生きるものにして、古い民間信仰たる神族ぃヱるふの存在を信じておりません。

 それを踏まえた戯言ですが、かつて奥様の旧友にしてはあやしきまでに若い方がおいでになったことがあります。



 太陽輝く木漏れ日のもと、黒いマントに大人の頭より大きな斧を持ち、如何なる貴婦人もかなわぬ美貌の少女とも老婆ともとれる彼女は木陰の元にいてほのかに後光すら感じるほど。


 それはまるで英雄ものがたりの時代の。


 訪問の連絡を受けておらず戸惑っていたところ主人のたっての願いで席を外していた時、主人の啜り泣きを耳にして駆けつけてしまい、はからずして普段明るく振る舞う主の涙を見てしまったのです。



 ーー『あなたが悪いわけでないの。

 あなたは約束を守ろうとした。してくれたわ。

 でもね。遅すぎたよ。遅すぎたのよディーヌスレイト。

 騎士物語に憧れていたあのむすめはもうここにはいないの』ーー



 主人のような素晴らしい女性を絡めとったのみならず姪や姫様方にまで手を出す殿方というものが少々疎ましくそして悲しく感じます。


 私だって殿方のあさましきを頭ではぞんじながら、実際には話したこともない殿方に懸想することをやめられないわけですからね。

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