6.ルーク=ウェブスター②
今回もルーク視点です。
僕は、僕に人間らしい感覚や感情をくれたあのヒトを探すことにした。もう一度会いたい。出来ればずっと傍に居たい。
あのヒトのことは、調べ始めたらすぐに分かった。
第二騎士団所属のディアナ=ライバーン、21歳独身。今は騎士団の宿舎住まいで、家族は両親と兄と弟で皆何某かの軍務に関する経歴の持ち主だ。
彼女自身はずっと魔獣討伐の部隊長を務めていたが、現在は新兵指導を行う部署に異動になった。
奇しくも僕と出会った討伐が最後だったらしい。
彼女はなかなか有名人で、その人柄からか多くの団員に慕われているようだった。
詳しく調べると、特に若手が彼女に想いを寄せ「抱いて欲しい」などと戯れ言を言っているらしい。消し炭にしたい。
でも僕が直接手を下さなくても大丈夫。
だって彼女の隣に立つ第一条件は、彼女自身より強い者であることだから。まさに僕にピッタリの条件じゃないか。
かと言ってまあ、彼女に決闘を申し込む訳にはいかない。彼女に傷一つつけること無く認めてもらうには、手っ取り早く立場を得ること。
騎士団長は僕には無理そうだから、魔道士団長ならいけるか?うん、これなら義父に条件を聞いてクリアすればいいだけだ。
そして今更ながら、僕は気付いた。
彼女が女性であることに。
今まで僕の周りは、人間という一括りの存在だった。
しかし人間には男性と女性がいた。
僕は男性で、彼女は女性。
なるほど、女性とはどんな生き物か知る必要がある。
僕はこれまで学術書の類しか読んで来なかったけど、初めて物語を読み漁った。
そこで僕のこの感情が『恋』なのだと知った。
それから僕は本の中だけでなく生身の女性についても知ろうと、義父の社交パーティへ付いて行った。
相変わらず令嬢という種類は苦手だったけど、一応令嬢も女性だ。
案の定僕は数名の令嬢に囲まれ身動きが取れなくなった。
「ねぇルーク様ぁ」
僕の名前を呼ぶ令嬢……誰?
「あら、ルーク様は私と踊るのよ」
僕、ダンスなんてしないけど。
「ルーク様、私とあちらでゆっくりお話しましょ。私、ルーク様のこと色々知りたいわ」
確かに僕も女性の好みを知りたい。でも、令嬢の好みで大丈夫だろうか。彼女とはかけ離れた種類に思えるけど。
「うーん、ちょっとお聞きしたいのですが。女性って何を好みますか?」
単刀直入過ぎたかな。令嬢達が一瞬きょとんとした顔になった。まあ、少しは静かになったからいいか。
「嬉しいっ、私の好みを気にして下さるのね!私は華やかなものが好きですわ。華やかなドレスやアクセサリーなど、身につけると心が浮き立って幸せな気分になりますもの」
「あら、あなたの好みではなくてよ。私は流行りを取り入れることも大切だと思いますわ。社交界での話題に欠かせませんもの」
「まあ皆様、品物ばかりではしたない。私は美しいものが良いですわ。庭園に咲く可憐な花や芸術的な絵画、戯曲など。そして美しいと言えばルーク様の顔ですわね」
その令嬢がそう言うと、他の令嬢もころころと笑った。そんなに僕の顔が面白いだろうか。
ドレスにアクセサリー、花や芸術……どれもピンと来ないな。流行り物?騎士の流行りってなんだ?最新の筋トレ法か?
僕の調べた限り、彼女は騎士であることに一番重きを置いている。
うん。この時間が無駄だな。
そう思い立つとすぐ、僕は魔術で柔らかな風を吹かせ自然に令嬢達の間に隙間を作ってその囲いから抜け出た。
「えっ、ルーク様?」
呼ばれたけど、僕は振り返らない。だって知らない人だし。
令嬢達から距離を取ると、目の前に若い男性が立ちはだかった。
「お前、ご令嬢をたくさん侍らしていいご身分だな」
「誰?」
どこかで見たことがあるような、無いような。
まあこのパーティに参加しているからには、どこぞの令息か。
「はあ!?忘れたのか。去年の討伐に同行してやっただろうが」
あ〜、覚えてないな。魔導士団員でも無さそうだし。
まあそもそもいつも魔獣しか見てないし、僕以外の護る対象は大体の大きさと数、配置さえ認識していたらいいから。
あっ、でも、いつぞやかの討伐に仮にも騎士として参加していたのならば。
「あのさ、討伐の時にあったら嬉しいものって何?」
「ああ?いきなり何だよ」
「いいから答えて。討伐の時に欲しいものやあったら便利なものっ!」
僕の急な質問に怪訝な顔をしつつも思案顔になる彼は、案外根はいい奴なのかもしれない。
「討伐の時だろ。そりゃあ軽くて丈夫な装備とか、もうちょっと旨い食糧とかあればいいよな。あと名剣と言われるような、どれだけ斬っても斬れ味が変わらないような剣とか?」
「なるほど」
食事に興味が無く、防御も攻撃も魔術で全て事足りる僕には思いつかないことばかりだ。
「ありがとう。助かったよ」
「おっ、おう」
素直に礼を述べる僕に、相手は面食らったようだ。
「そうそう、あっちにいる令嬢達ならドレス、アクセサリー、花、芸術が好きらしいから、贈ってあげたら?あと流行り物がいいらしいよ」
「あ?なんだ急に」
「ん?令嬢が好きなんでしょう。僕には必要ないから、君行ったげなよ。じゃあね」
「ばっ!」
彼は何故か顔を赤らめて怒鳴りたそうだったけど、周囲の視線に口をもごもご動かしただけだった。
僕は知りたいことを知れたので、義父にことわってパーティ会場を後にした。
馬車に揺られる帰り道、僕は先程の彼の話を思い出していた。
正直、食糧に関しては僕にはどうしようもない。
それなら装備か。でも彼女程の達人ともなれば、愛用品を急に変えるのは難しいか。
あれこれ考えていると、では今のモノをランクアップしたらいいことに気がついた。
ではそれをどのように行うか。
自分のモノなら、すぐに強化魔術でも魔力付与でも何でも出来るが、まさか一時的とはいえ彼女の愛用品を拝借するわけにもいかない。
そんなことをしようとするだけで、彼女にとって僕はこの世で一番嫌いな人間認定をされてしまうだろう。
それでは本末転倒だ。
であるならば、彼女の手元から離すことなくそのモノ自体を進化させる方法。
一筋縄ではいかない、でも楽しくなってきた。
大好きな魔術に関することと恋する彼女が合わさって、僕はかつて無いほど高揚していた。
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