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「私が君を抱くことはない」と言い続けた私の末路~堅物女騎士はうっかり助けた魔導士に溺愛される~  作者: アオイ


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18/22

18.女子寮

 散々な夜会を終え寮に帰ると、私は服を寛げベッドに倒れ込んだ。

 せっかくの礼装がシワになるとか、そんなことどうでもいい。とにかく疲れた、精神的に。


 結局精霊姫が帰った後、僅かな異変を感じていた長官が近づいてきた。そして人間でも魔獣でもない力の残滓を感じ取ったようで、質問攻めにあったが場所が場所のため一旦引き下がってくれた。

 あとはルークとやり合えばいいと思う。そもそも諸悪の根源はアイツなのだから。


 しばらくベッドで呆けた後、私はノロノロと立ち上がり礼装をハンガーに掛け、備え付けのシャワールームへ向かった。

 こういう日は、熱いシャワーを浴びて寝てしまうのがいい。

 慣れない場所とあり得ない遭遇で緊張していた筋肉が、温かいシャワーの刺激で解れていく。

 しっかり洗った後は、吸水性抜群のタオルで水気を拭き取っていく。後はストレッチをして寝るだけなので、タンクトップに短パンというラフな格好だ。


 再びベッド付近に来ると、魔剣の傍に何かがあるのに気がついた。侵入者かと気を張り、感覚を研ぎ澄ませ耳を澄ませながら部屋の中をにじり歩く。

 狭い部屋をひと通り確認しひとまず他に気配が無いと分かると、置かれている物体をしっかりと確認する。

「ん?これは……、精霊石?」

 思わず魔剣に嵌め込まれているモノと並べ見比べる。

「間違いないが、何故ここに…」

 しかも一個でも貴重な精霊石が十数個山積みにされている。更にその横には石英のような形をした銀色の金属の塊があった。しかし、その輝きは銀よりも強く美しかった。


「いやしかし、こんなもの私にどうしろと」

 思わずしゃがみこみ頭を抱えた際に、左手がピアスを掠めた。

「ハァ、ルークに何とかしてもらうしかないか」

 それにしてもこの謎の銀色の塊は手で触れて良いものかと再び溜息を吐いた時、急に人の気配を感じ振り返った。


「僕がどうかしました?」

 上から声が降ってきて見上げてみると、背後からルークが覗き込んでいた。

 彼も一旦家に帰ったのか、もう礼装ではなくいつもの格好だった。

「えっ!?何故ここに!?」

「だって、今ピアスの通信で僕の名前を呼びましたよね?何か困ってそうだったから来ちゃいました」

 彼は相変わらずにっこりと嬉しそうに笑った。

 確かに今来てもらえるのはありがたい。現状私の手には負いかねるため、急に来て驚かすなとか色々言いたいことは一旦封印した。


「あ〜、何でこんなに精霊石とこれは…ミスリルですね」

 ルークは私の隣にしゃがみこみ、銀色の塊を手に取った。

「ミスリル?」

「はい、精霊石と同じく滅多に手に入らない稀少すぎる鉱物です。このように素晴らしい輝きと、この世で一番硬く頑丈な金属と言われています」

「なるほど。しかし、何故そんな物が私などのところに」

「そうですねぇ。差し詰め先程のお詫びといったところでしょうか。転移する座標としても、ディアの魔剣についた精霊石しかありませんからね。やむなくこちらに……」

 そこまで言って、ルークは急に押し黙り何事かを考え込みだした。しかもどんどん眉間にシワが刻まれ、目が据わっていく。


「どうした?何か大変な事態が起きているのか?」

 精霊のことは分からないが、何か脅威が迫っているなら私も力になりたいと身構えた。

「ええ、大変です。僕にとっては一大事です」

 低く、地を這うような声だった。

「何っ!?」

 私は出立の準備をと立ち上がりかけたが、ルークに手で制された。


「ディア、あなたがコレを見つけた時の状況を教えて下さい」

「ああ、分かった」

 私は自室に戻ってすぐは異常が無くシャワーを浴びて出てきて初めてコレに気付いたこと、しかしルークが来るまでこの部屋に何者も気配を感じなかったことを話した。

「へえぇ、ではディアがシャワーを浴びて無防備な時に賊は侵入したということですね。賊は件の精霊姫……は無理ですね。あの痕はこんな直ぐには治らない。となると、男の従者の方か。なるほどそうですか。へぇ、なるほど」

 ルークは黒い魔力を漏らしながら、ブツブツ呟いている。


「僕より先に関係ない男がねぇ。僕も今初めてディアの部屋に入ったというのに。しかも万一にも湯上がりのディアと鉢合わせしていた可能性すらあるとは…」

「ルーク?」

「余程消されたいみたいですねぇ」

「!?」

 ルークの闇の魔力が渦巻き出している。

 その魔力の波動に呼応して、窓や壁が振動する。

「ルーク、止めろっ!これ以上やると建物が崩れそうだ」

 私は慌ててルークの肩を掴もうと立ち上がりかけた。しかしとうとう床まで震えだし、バランスを崩した私は中途半端な体勢のままルークの上に倒れ込んだ。


「っ!す、すまないルーク。大丈夫か?」

 私は押し倒してしまったことに気付き、床に手をつきルークの無事を確認しようとした。

 とりあえず魔力の放出は止まり、建物も平静を取り戻したようだ。

「えっ、何?柔らか……」

 ルークがくぐもった声を出す。

 よく見ると、倒れ込んだ私の胸の下にルークの顔があった。胸越しにルークと目が合う。


「へっ……」

 聞いたことの無い、ルークの情けない声がした。コイツでもこんな声を出すのかと妙に感心した。

 見る見る内に、ルークの顔が赤くなってきた。

「ん?どこか打ってないか?ああ、ルークは物理的に怪我をしないんだったな。でも重さは感じるだろう。悪かった」

 私はゆっくりと身体を起こし膝を付いて立ち上がった。しかし、ルークが固まったまま微動だにしない。


「大丈夫か?」

 私は前かがみになり、ルークに手を差し出した。

「大きっ……じゃないっ!ディア、何て格好してるんですかっ!!布面積が少な過ぎます!しかもそんな体勢っ!」

 珍しくルークが慌てている。

「は?いつも部屋ではこんなものだが?」

「もうっ!!」

 ルークが私のベッドに置いてあった毛布を投げて寄越した。

「何をするっ」

「『何をするっ』じゃないですよ!!僕だって男なんです。そんな格好、目に毒ですから早く隠して下さい!!」

 ものすごく怒っている。そうだな、確かにどうやっても鍛えきれないこの胸など見苦しい、毒に等しいものだと納得して毛布を身体に巻いた。


「とっとりあえず、この厄介な二つの物は僕が預かって処分しますからっ」

 ルークはまだ顔を赤くしたまま精霊石とミスリルを上着のポケットに仕舞っていく。

 帝国ではどちらも国宝級以上のものなのだが、あんなに雑な扱いで良いのだろうかと心配になった時、私の部屋のドアが叩かれた。


「ちょっと、ディー!!さっきの揺れは何?あんたまさかこんな所で無茶なトレーニングなんてしてないでしょうねっ!?」

 返事をする間もなくドアが開き、そこにはエラを先頭に心配そうな顔をした寮母さんと寮監が居た。

 知り合いの女騎士ばかりの寮では皆すっかり気を許し、いちいち個室に鍵など掛けず自由に行き来している。それが今回仇になった。

「は?」

 三人はバッチリ普段この場に絶対居るはずのないルークを視認した。しかも私は謎に毛布にくるまれている。

「やばっ……」

 ルークが小声で呟いた。


「ちょっ、あんた達何してんのっ!?はぁ?よりによって一番そんなことしそうにないディーが、女子寮に男を連れ込むなんて!!!」

「エラ、声がでかいっ!」

 寮中に響き渡る声でエラが叫ぶ。普段から鍛えている騎士の声量だ。もうこれは建物内の全員に伝わった。

 騎士とは言え年頃の娘達を預かり普段から親身に世話をしてくれる寮母さんの顔は蒼白、女騎士のOBである寮監のこめかみがひくひくと痙攣している。


「ウェブスター殿、今夜はひとまずお帰り下さい。この件につきましては、お義父上のウェブスター長官に正式に抗議させて頂きます」

「はい」

 寮監の言葉にルークは神妙に頷いた。

「ディアナ=ライバーン、あとで指導室だ」

「はっ!」

 私も観念して姿勢を正した。

 

 この後寮母さんには泣かれ、寮監からライバーンの両親へ報告もいき散々だったが、唯一精霊石とミスリルの発覚が免れたことだけは救いだった。

 今回はこれまで規律を一切乱したことのない私の初めての違反だったため、厳重注意だけで済んだ。

 再犯すればここを退寮になる上に、謹慎などの業務に支障をきたす罰が下るだろう。

 それでもおそらく母上には呆れられ、父上にはからかいのネタを与えてしまった。ほとぼりが冷めるまで実家の敷居は跨ぐまい。


 にしても、ルークには悪いことをしてしまった。

 心配して駆けつけてくれたのに、見苦しい物を見せた上に彼の経歴に泥を塗ってしまった。

 明日はルークだけでなく、長官にも謝らねばならないな。




お読み頂きありがとうございます。

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